五月病発生中!―元気のない新入社員にどう声をかける?
2016年5月12日更新
新入社員が発症しやすい「五月病」。その原因と症状、対応を、宮本秀明氏の解説でアドラー心理学から学びます。
「五月病」の新入社員はいませんか?
研修を終え、あなたの職場に瞳を輝かせて入ってきた新入社員のようすはいかがでしょうか? 「なんだか元気がないな」「五月病かな?」と思うような人はいないでしょうか?
環境の激変は、本人が思うよりも、肉体的な疲労と精神的な緊張をもたらすものです。新入社員だけでなく、職場異動や、昇進でそれまでとは立場が変わった人などもそうなのですが、環境の変化のなかで、自分自身でも気がつかないうちに、疲労と緊張を極度に溜め込んでしまうことがあります。その緊張がゴールデンウィークの休暇で途切れることで、休み明けの5月中旬くらいから「元気がない」状態に陥ってしまう。これが、いわゆる「五月病」です。近年では6月に発症することも多く「六月病」と呼ばれることもあります。
新入社員の五月病は、SNSが原因?
新入社員の五月病では、その要因の一つとして、若い世代に普及しているSNSが影響していると考えられています。
たとえば、LINEでは、読んだらすぐに返事をすることが優先され、スタンプなどを使った非常に短い会話のやり取りが多用されます。スマートフォン越しのそんな会話に慣れてきた新入社員は、相手と面と向かっての会話や間合いを読み取ることに、あまり慣れていません。そのため、相手との不協和音が発生したときに、スムーズに修復することができないこともあります。
一つひとつは小さなことでも、それが積み重なっていけば、大きなストレスとなります。それが表面化してくるこの時期だからこそ、ふだん以上に新入社員のようすに目を配りたいものです。先ほどあげた「環境の変化のあった人」に対しても同様です。
五月病の症状と、なりやすい人の特徴
具体的には、「仕事に集中できていない」「口数が少なくなる」「常に疲れているように見える」「すぐに疲れを口にする」などの症状が現れたら要注意です。
五月病になりやすい人の特徴としては、
(1)理想が高い人
(2)真面目な人
(3)責任感がある人
(4)忍耐力がある人
(5)頑固な人
などがあります。いわゆる「がんばり屋」に多いということも、覚えておいてください。
「五月病」の部下にどう対応する?
では、「五月病」を発症したと思われる部下に対して、上司のあなたはどのように対応すればよいのでしょうか?
アドラー心理学の観点からは、“勇気づけ”の実践をおすすめします。アドラー心理学では、勇気を「困難を克服する活力」、勇気づけを「困難を克服する活力を与えること」と定義しています。部下が落ち込んでいるときこそ勇気づけを実践するチャンスです。
具体的な実践方法は、以下の3点です。
(1)聴き上手に徹すること
あなたは日頃、部下の話をしっかり聴けていますか? 私が担当する管理職研修でこの質問をすると、自信をもって手をあげる人は10%前後。多くの方が聴けていないのが現状です。
聴き上手になるための最初のステップは、自分の話したい誘惑をコントロールすること、つまり、「相手に共感する」こと。アドラーの言葉を借りれば、「相手の目で見、相手の耳で聴き、相手の心で感じること」です。
次のステップとしては、「相手に違和感を与えない」ことが重要となります。相手は、一方的に話をするのではなく、聴き手の態度を観察しながら話をします。聴き手の態度に違和感があるとき、話し手はその情報をキャッチして、話の内容を制限してしまうこともあります。
以下に、話し手を話し上手にさせるコツを紹介しますので、会話のなかでぜひ実践してください。
(2)感謝を表明すること
相手が行動してくれたことに対しては、「ありがとう」と感謝を表明しましょう。「やってもらって当たり前」と、そのままやり過ごしてしまってはいけません。ただし、あまり感謝を連発すると、なかには小馬鹿にされたように感じる人もいます。1日数回を目安にするとよいでしょう。
(3)「ヨイ出し」をすること
仕事をするうえで、「できて当たり前」ということは、最初の頃は一つもなかったはずです。なのに、努力を重ねてそれが「当たり前」のようにできるようになると、その努力を忘れ、「当たり前」の成果は見逃し、部下への要求をだんだんとエスカレートさせてしまったりします。そしてそれが「ダメ出し」につながることは珍しくありません。
「ヨイ出し」とは、当たり前で目立たない建設的な側面を積極的に探し、その行動に対して、肯定的な言葉をかけることです。
上記の3つの勇気づけは、非常に簡単で、お金もかからず、すぐにできることです。明日からと言わず、今すぐ始めましょう。
勇気づけのつもりが逆効果。気をつけたいひと言
最後に、言っている当人は勇気づけのつもりであっても、逆に“勇気くじき”になることもある「勘違い勇気づけ」を紹介しておきます。部下をはじめ、人に声をかける際は、こうした言葉に気をつけましょう。
今回ご紹介した勇気づけの実践は、「五月病」への対応としてだけでなく、モチベーションダウンやメンタルダウンにも適用できます。また、相手の立場や年齢も問いませんので、新入社員から上司まで、あらゆる人に対して使うことができるものです。勇気づけを実践し、組織のなかに、所属感・共感・信頼感・貢献感で満たされた「共同体感覚」を、しっかりと育んでいきましょう。
宮本秀明(みやもと・ひであき)
1982年、スタンフォード大学中退。広告業界から数社の研修会社を経て、現在㈲ヒューマン・ギルド法人事業部長兼シニアインストラクター。ロジカルシンキング、ファシリテーションからマナー教育まで、幅広いコミュニケーションの研修を担当。米国と日本双方のビジネス経験を生かし、それぞれのよさを融合させた、和魂洋才型の研修プログラムを独自に開発。受講生の目線に立った習得しやすいカリキュラムの構成力、やる気を促す講師手法には定評がある。著書に、『マンガでよくわかるアドラー流子育て』(岩井俊憲監修、かんき出版)、PHP通信ゼミナール『リーダーのための心理学 入門コース』(監修:岩井俊憲、執筆:岩井俊憲・宮本秀明・永藤かおる、PHP研究所)などがある。