「困った人」と言う前に~感覚タイプ別コミュニケーション方法
2016年6月 9日更新
あなたが「困った人」と思っている相手は、本当に「困った人」なのでしょうか。3つの感覚タイプとコミュニケーション方法について、アドラー心理学の立場から永藤かおる氏が解説します。
3つの感覚タイプ
人は行動する際にそれぞれ優位な感覚を使っており、それは大きく3つのタイプ(視覚型、聴覚型、触覚・運動型)に分けられます。
たとえば、子どものころの出来事などを思い出すときに、まず情景が画像や映像のようにクリアに浮かんでくるのが視覚型、情報や年月日、時間、距離などのデータ的なものを思い出し、理路整然と語るのが聴覚型、においや手触り、自分の体の動き・感覚(走ったり飛んだりや寒暖の肌感覚など)が最初に出てくるのが触覚・運動型です。
感覚タイプをチェックする
この感覚タイプには、ものごとをどのような感覚でとらえているかの違いがあるだけでなく、話し方や動作にもそれぞれ特徴があり、それらをまとめると、下の表のようになります。
また、そうした特徴から、簡単に感覚タイプをチェックできる方法もあわせてご紹介します。まわりの方といっしょに、お互いの感覚タイプを探ってみてください。
【感覚タイプのチェック方法】
二人一組になり、お互いのタイプを推測しあいます。
(1)数字の記憶、計算
・一人が5桁の数字を言い、それをもう一人が逆順に言う
例:34862(さんよんはちろくに)→26843(にろくはちよんさん)
・一人が2桁の掛け算の問題を出し、もう一人が暗算して答える
※とくに眼球の動きが観察対象
(上の表に従い、上向きか、水平もしくはやや下向きの一点を見つめるか、キョロキョロ落ち着かないかで判断)
(2)特定のA地点からB地点までの道順の説明
・5分以上歩き、曲がり角があることが条件
例:自宅⇒最寄駅、実家⇒通っていた小学校 など
※上記同様、眼球の動き、身振り手振り、話のスピード、表現方法などを観察
(3)夢
・どんな夢を見たかをたずねる
※風景や建物、動物、人の表情など目に見えるものを絵や映像のように語る(視覚)、時間感覚や距離などを理路整然と語る(聴覚)、五感を重視して、擬音語や擬態語を多く取り入れて語るが、話が飛びがち(触覚・運動)などに分かれ、その人特有の感覚が色濃く出る
自分の感覚タイプを探り、ペアを組んだパートナーの感覚タイプの見極めを試してみて、いかがでしたか? これまでのコミュニケーションのとり方を思い起こして、なるほどと納得できるところがあったのではないでしょうか。
感覚タイプの違いによるミスコミュニケーション
感覚タイプの違いにより、時にミスコミュニケーションが生じてしまうことがあります。たとえば、「相手にわかりやすく説明をしよう」と思ったとき、パッと見を重視する視覚型の人は、図やシンプルな表をつくります。データ・理論重視の聴覚型の人は、詳細な情報を理路整然と入れ込みます。触覚・運動型の人は、なるべく五感でわかってもらえるような工夫をするでしょう。でも、それぞれがやり過ぎればやり過ぎるほど、違う感覚タイプの人には「?」となってしまうのです。
実際にとある管理職研修でこの話をしたとき、参加者のお一人から「今まで自分がつくっていた資料が何度も何度も上司にダメ出しされていた理由がようやくわかりました。聴覚型の私は、ダメ出しされるたびに『もっと詳細な情報を入れたほうがいいのか』と思い、とにかく説明を細かくしていたのですが、視覚型の上司は『これだけでいいんだよ』と一覧表のページを指していて......。これって、感覚タイプの違いが引き起こしていたんですね」としみじみ言われたことがあります。
「なんだか、この人とはコミュニケーションがとりづらいな」という問題の、解決のヒントがここにあります。
もちろん、その相手を捕まえて、一人ひとりに上記の感覚タイプのチェックを行なうことはできませんが、話をするときの目の動きなどである程度の推測はできます。そして、「どうやらこのタイプらしい」とわかったら、下の表を参考に、なるべく相手の苦手な方法は避け、得意な方法でアプローチをするようにしてみましょう。
あなたが「困った人」と思っている相手は?
社会人である私たちは、自分と仲の良い、もしくはお互い理解しあいやすい相手ばかり選んで仕事をすることはできません。時に、まったく自分とは違うタイプの人と組み、組織をまとめていかなければならないことも出てきます。その時に、そうした相手を話のわからない「困った人」と頭ごなしに決めつけてしまっては、やる気を引き出すことも生産性を上げることもできせん。
しかし、アプローチ方法を変えてみることでお互いの歩み寄りのきっかけができれば、一度は萎えた気持ちも悪くなってしまった場の雰囲気も、変えていくことができます。
あなたが「困った人」と思っている相手は、本当に「困った人」なのでしょうか。もしかしたら、自分と感覚タイプが違うというだけではありませんか。
「感覚タイプ」の違いを理解し、ここ一番のアプローチにぜひ活用していってください。
永藤かおる(ながとう・かおる)
(有)ヒューマン・ギルド研修部長。心理カウンセラー。1989年、三菱電機(株)入社。その後ビジネス誌編集、海外での日本語教育機関、Web 制作会社など、20年以上のビジネス経験のなかで、人事・採用・教育・労務管理等に携わる。どの現場においてもコミュニケーション能力向上およびメンタルヘルスケアの重要性を痛感し、勤務と並行して学んだアドラー心理学を生かして現在㈲ヒューマン・ギルドにてカウンセリング業務および企業研修を担当。著書に『「うつ」な気持ちをときほぐす 勇気づけの口ぐせ』(明日香出版社)、PHP通信ゼミナール『リーダーのための心理学 入門コース』(監修:岩井俊憲、執筆:岩井俊憲・宮本秀明・永籐かおる、PHP研究所)などがある。