あなたの会社に、組織力を弱める部門間対立は起こっていませんか?
2017年7月 7日更新
全社一丸となって業績をあげるべきところ、立場の違いによって起こってしまう部門間対立。組織力を弱めかねないこの問題の解決策を、アドラー心理学の立場から解説します。
「管理部門がわかってくれない」「営業が無理難題を押しつける」「制作が言うことを聞かない」。業種業態にもよると思いますが、こんな部門間対立、皆さんの会社では起こっていないでしょうか。
【質問】出版およびWeb制作の会社に勤務する広告営業部門のマネージャーです。制作部門と営業部門の対立が激しく、日々頭を悩ませています。私たち営業部門はお客様と直接やりとりし、その内容やご要望を制作部門に伝えるのですが、デザイナーや編集者、プログラマーは職人気質が多く、なかなかこちらの(というよりもお客様の)要求に対して素直に首を縦に振りませんし、納期もひやひやするほど綱渡りです。「これだけクオリティの高いものをつくっているんだ」というプライドばかり高くて、私たち営業に対するリスペクトもありません。先日も若手の営業担当とデザイナーが口論になり、一触即発の状態となりました。管理部門は見て見ぬふりをします。(42歳 出版 マネージャー)
部門間での利害の対立
「制作会社あるある」ですね。私自身も出版や制作関連の仕事に携わっていましたので、この険悪な雰囲気、身に覚えがあります。
制作会社に限らず、どの業種業態でも、部門間で利害が対立する、ということはあるのではないでしょうか。例えば、メーカーなどでも研究に研究を重ね、より品質の高い革新的な製品を生み出したいと考える製造部門と、できるかぎり効率を重視し、コストカットに努めたいと考える管理部門。サービス業などでも、お客様に心地よい贅沢な雰囲気を味わってもらい、顧客満足度を上げたいと考える接客担当と、回転率や客単価などをシビアに計算し、少しでもムダを省いて利益を追求したいと考える管理側。
本来、全社一丸となって業績を上げていくのが当たり前なのですが、このような部門間対立が起こってしまうのは世の常ではないでしょうか。
でも、ご質問をくださったマネージャーさんも、対立する制作部門も、上記で例に出したメーカーでもサービス業でも、その現場にいるスタッフ一人ひとりは、皆、仕事に対して真剣です。誰ひとり「悪くしよう」「手を抜こう」と考えている人はいません。それぞれの立場で、組織に対してよかれと思うことを精一杯主張しているにすぎないのです。ゴールは同じ「今いるこの組織をよりよくしていこう」なのですが、アプローチをする方法がそれぞれ異なっている、ということなのです。
お互いの共同体感覚がミクロ的になっていないか
アドラー心理学の根本的な考え方のひとつであり、アドラーが「対人関係のゴールである」とまで言い切っているのが『共同体感覚』です。自分が所属する共同体(職場、家庭、趣味のコミュニティ、よく行くお店の常連仲間、学生時代の友人関係、地域社会など、私たちは誰もが複数の共同体に属しています)に対する所属感、安心感、共感、信頼感、貢献感などを総称した感覚・感情のことであり、共同体感覚をもてているか否かが精神的な健康のバロメーターにもなると言われています。たとえその共同体のなかに自分と異なるタイプがいたり、意見が対立しがちな人がいたりしたとしても、総じてその共同体――ここでは職場としましょう――に属していてよかった、自分はここに居場所があるな、と思えることが、私たちの幸せにつながります。
今回のように、一人ひとりは自分の共同体に対して貢献しようとしている、だけれども内部で対立が起きてしまっている、という場合、お互いの共同体感覚がミクロ的になっているということに気づく必要があります。自分のグループや課の利益やメリットだけを考えてしまっているのです。
目的に目を向け、マクロ的視点の共同体感覚を追求
では、どうやって解決していけばいいのでしょう? それは、より広いマクロ的視点の共同体感覚を追求することです。もし課同士で対立しているのであれば、部全体としてはどうすることがベストなのか。部同士で対立しているのであれば、会社全体としてはどうすることがベストなのか。より視野を広げた先の「全体の幸せ」につながるためには、対立ではなくいかに協力すればよいか、を考えることが、お互いにどこまで歩み寄れるのかの着地点に近づく大きな一歩となります。
その一歩を踏み出すには、お互いの主張の背景にある目的に目を向けることが大切です。なぜ、どのような意図で、どのような結果を得るためにそうした主張をしているのかを掘り下げていけば、どこかでお互いに納得のできる着地点が見つかるはずです。それは、お互いがはじめに目指していた着地点からは、かなり遠いところかもしれません。ですが、部全体、あるいは会社全体としてのベストにたどり着くためには、そこをスタートとして、「全体の幸せの実現のためにはどうすべきか?」と問いかけながら、譲れるところ・譲れないところを探っていくしかありません。
一方で、全社的な取り組みとして、研修やワークショップなどを通じ、マクロ的視点で考える視点を社員のなかに育んでいくことも必要となるでしょう。
「地球規模で考え、足元から行動せよ」
アドラー心理学の創始者であるアルフレッド・アドラーは、この共同体感覚を地域社会レベル、国家レベル、地球レベルにまで広げて考えた人です。彼はThink Globally, Act Locally. (地球規模で考え、足元から行動せよ)を100年も前に表明し、実行していました。地球規模で考えるのはいささか現実的ではないと思われたとしても、部門間対立に関しては、一段、二段、三段くらい上の段から俯瞰してみることができるようになれば、話し合いの余地も協力すべきポイントも着地点も、クリアになってくるはずです。
【著者プロフィール】
永藤かおる(ながとう・かおる)
(有)ヒューマン・ギルド研修部長。心理カウンセラー。1989年、三菱電機(株)入社。その後ビジネス誌編集、海外での日本語教育機関、Web 制作会社など、20年以上のビジネス経験のなかで、人事・採用・教育・労務管理等に携わる。どの現場においてもコミュニケーション能力向上およびメンタルヘルスケアの重要性を痛感し、勤務と並行して学んだアドラー心理学を生かして現在㈲ヒューマン・ギルドにてカウンセリング業務および企業研修を担当。著書に『「うつ」な気持ちをときほぐす 勇気づけの口ぐせ』(明日香出版社)、PHP通信ゼミナール『リーダーのための心理学 入門コース』(監修:岩井俊憲、執筆:岩井俊憲・宮本秀明・永藤かおる、PHP研究所)などがある。