部下への怒りが爆発しそうになったら6秒待つ? アンガーマネジメントの実践方法
2019年4月23日更新
衝動的な怒りで部下との関係を壊さないために、上司の立場の方には「アンガーマネジメント」を学び、怒りの感情とうまく付き合っていくことが求められます。6秒ルールなど実践方法を具体的にご紹介します。
なぜアンガーマネジメントが上司に必要なのか
人は怒りを覚えると、つい衝動的・反射的に怒鳴ったり、怒った表情を表したり、あるいは机を叩くといった激しい反応をしてしまいがちです。
例えば部下がミスをしたとき、瞬間的に強い口調で叱責するような場合がこれにあたります。そのとき、怒った本人は一時的に怒鳴ってスッキリするかもしれませんが、決してよい対応の仕方とはいえません。
というのも、このような反応をしてしまうと、かえって怒った上司のほうが「さっきは怒り過ぎたな」などと後悔することもあるものです。あるいは部下から反感を買ったり、委縮してしまうなど、コミュニケーションを阻害する可能性が高まります。いずれにしても高い確率で人間関係にヒビが入ります。
アンガーマネジメントでは、怒りを全否定するわけではありません。ただし、怒りが湧いたときにどのように対処するかによって、「その後の自分や周りの状況は大きく変わって」くると指摘されています。ミスを注意する場合でも、怒りにまかせて言葉を発したりせず、落ち着いた口調で論理的に話せば、相手も素直に聞きやすくなるものです。
こうした理由から、よりよい組織づくりのためには、アンガーマネジメントの導入は非常に有効だといえます。
参考記事:PHP人材開発「上司・管理職に求められるアンガーマネジメント」
アンガーマネジメントの6秒ルール
怒りに対処するときのポイントとして、「怒りの感情のピークは6秒間」であるという考え方があるそうです。PHP通信ゼミナール『「アンガーマネジメント」実践コース』のテキストでは、次のように述べられています。
怒りや感情に関する研究は数多くありますが、日本アンガーマネジメント協会では「怒りのピークは長くても6 秒程度しか続かない」という説を採用し、反射を防ぐためのテクニックを数多く紹介しています。
もちろん、6 秒経てばすべての怒りがなくなるわけではありません。しかし、この怒りのピークの6 秒をやり過ごすことができれば、反射的な言動による事態の悪化を回避し、少し冷静になったところで、より理性的な行動を選択できるようになります。イラッとしたら6秒待つ。アンガーマネジメントでは、これを「衝動のコントロール」と呼んでいます。
「怒りのピークは長くても6秒程度」というのは、意外と短いと感じられるのではないでしょうか。わずか6秒間の対処で怒りの感情を制御できるのであれば、それは決して難しいことではないと考えられます。
6秒間待つためのテクニックとは
次に「6秒間待つ」ためのテクニックをいくつか紹介しましょう。
(1)タイムアウト
怒りの原因から離れることで、反射的に怒らないようにする対処術です。スポーツの試合ではタイムや選手交代を使い、選手の気持ちを落ち着かせることがあります。同じように、少し間を置いて怒りを落ち着かせるのです。
ビジネスの場面では、「考えをまとめるので席を外します」「確認して折り返します」と断って離席し、冷静になってから対応しましょう。あとで対応すると明確に示すことがポイントです。
(2)呼吸リラクゼーション
大きく深呼吸することで、怒りから解放されてリラックスする対処術です。人は怒りを感じているとき、アドレナリンが分泌されて、呼吸が浅く速くなっています。そのため、ゆっくりと大きな呼吸をすることにより、気持ちを落ち着かせるのです。
深呼吸をするときは、まず、ゆっくりと口から息を吐き出してください。4 秒かけて息を吐いたら、2 秒かけて大きく息を吸ってみましょう。これを2、3 回するだけで、かなり気持ちを落ち着かせることができます。(後略)
(3)コーピングマントラ
>怒りを感じたとき、自分の気持ちを落ち着かせる呪文を唱える対処術です。コーピングマントラは直訳で、「困難を切り抜けるための呪文」となります。
「大丈夫、大丈夫」
「何でもない」
「死ぬこと以外はかすり傷」
このように、フレーズは何でもかまいません。自分が言われると落ち着く言葉にしましょう。家族や恋人、ペットの名前などにする方もいます。ただし、フレーズは身近で簡単なものを選びましょう。怒りで反射的に行動しそうになった際、すぐに、確実に思い浮かばないと困るためです。
いずれも簡単で分かりやすい方法だといえます。少しだけその場を離れたり、深呼吸をしたり、自分で決めておいた呪文を唱えたりしているうちに、すぐに6秒くらいは経ちます。
6秒経ったときには怒りのピークが過ぎているため、その時点である程度気持ちが落ち着いており、衝動的・反射的な対応をしなくて済むというわけです。
これら以外にも「スケールテクニック」といって、自分の感情を「穏やかな状態」から「人生最大の怒り」まで10段階に分けて、今感じている怒りが何段階めなのかを考える方法も紹介されています。自分の怒りの程度を考えているうちに、あっという間に6秒間が過ぎていきますし、「この怒りは2段階だから大したことはない」といった具合に判断することで、怒りを鎮めることにつながります。
自分の「べき」が怒りを生み出す
では、そもそも私たちはなぜ腹が立つのでしょうか。
通常、怒りの原因は、「部下がミスをした」「上司が指示を間違えた」「誰それが不適切な発言をした」といった具合に、自分の外側にあるように思いがちです。
しかし本当は、もともと自分の中にある「○○はこうするべきである」「△△はこうするのが当たり前だ」といった基準があって、それが裏切られたときに怒りが生じるわけです。すべての「べき」が普遍的であれば、すべての怒りも正当なものとなります。しかし、「べき」はそれぞれの立場やそのときの状況によって変化するものであり、必ずしも固定したものではありません。それだけに対処が難しいともいえます。
難しいとはいえ、怒りの正体が個人個人の「べき」だと気づくだけでも、物事との向き合い方が違ってくるのではないでしょうか。こうした考え方を社員教育で「共有」することによって、上司と部下あるいは部署と部署、先輩と後輩との接し方が変化すれば、職場における人間関係の改善や、チームワークの向上につながるはずです。
参考記事:PHP人材開発「アンガーマネジメントの6タイプ診断~職場のあの人は公明正大タイプ? 威風堂々タイプ?」
「Iメッセージ」で伝える
アンガーマネジメントにおいては、「アサーティブ」と呼ばれるコミュニケーションのスタイルが重視されています。アサーティブコミュニケーションとは、「自分の権利と共に相手の権利も尊重しながら、自分が言いたいことを相手に伝えるスタイル」といわれます。そして自分と相手との両方を尊重することで、「双方にとって利益となる着地点」が見出せるようになるのです。
アサーティブコミュニケーションを実行する際には、主語が「あなた」になる「Youメッセージ」から、主語が「私」になる「Iメッセージ」への切り替えが必要です。
例えば会社として残業時間を減らそうと取り組んでいるのに、その方針に従わず、毎日残業ばかりしている部下がいたとします。連日長時間残業をしていて、いかにも疲労がたまっている様子です。無理な残業をしているのではないかと思って部下に注意をする際、Youメッセージだと「君はいつも残業をしているが、そんなことをしていて大丈夫か?」となります。これではいわれた方は、自分が一方的に責められているように感じます。
そうではなく、Iメッセージで「私はいつも長時間残業をしている君のことが心配なんだよ」と穏やかに伝えれば、残業している相手を否定せずに、双方の立場を尊重しながら、「残業を減らしてほしい」という意図が伝わるはずです。
このようにアンガーマネジメントを導入し、これに基づいたコミュニケーションが取れるようになれば、日々のやり取りや意志の疎通がスムーズになり、職場風土の改善にもつながっていくでしょう。
※本記事はPHP通信ゼミナール『「アンガーマネジメント」実践コース』を抜粋・編集して制作しました。
森末祐二(もりすえ・ゆうじ)
フリーランスライター。昭和39年11月生まれ。大学卒業後、印刷会社に就職して営業職を経験。平成5年に編集プロダクションに移ってライティング・書籍編集の実績を積み、平成8年にライターとして独立。「編集創房・森末企画」を立ち上げる。以来、雑誌の記事作成、取材、書籍の原稿作成・編集協力を主に手がけ、多数の書籍制作に携わってきた。著書に『ホンカク読本~ライター直伝!超実践的文章講座~』がある。