人材開発の仕事は自分を育てる最高の機会
2013年10月24日更新
私はこの十月で、企業向けの研修講師としての生活がちょうど二十五年になりました。営業マンとして社会人生活をスタートさせた私は、その後、人材開発部門に異動しました。異動後すぐに研修講師として登壇しはじめ、次第に日本中の企業の皆様に向けて研修プログラムを提供させていただくようになったのです。
ここでは講師生活の中で、私自身が特に強い思いを持っていることについて、研修での体験をふまえてご紹介できればと考えています。
意外とおろそかにされている社内講師の養成
企業研修では、社外の講師(プロ)が語るからこそ高い価値があるものもありますし、逆に社内の人が教えるからこそ効果的なものもあります。私は社外講師として企業様の人材開発を担当させていただくことがメインではあるのですが、「社内講師養成研修」の講師として登壇することも多いのです。その背景には、次のような理由があると考えられます。
まず、社内教育講師の養成は、非常に重要であるにもかかわらず、意外とおろそかにされている分野であるということです。
また、研修スタッフのモチベーションも重要です。これまで営業や技術部門の第一線で活躍していたのに、人材開発部門への異動を告げられたとたん、急に引退勧告を受けたように感じたとおっしゃる受講者もいらっしゃいました。「なぜ自分が教育部門なんかに……」と思う人が少なくないようです。
ここで西日本を拠点とされているA社のことをご紹介します。A社で私は、ビジネスライティングなどのスキル教育のほかに、社内講師養成研修を担当させていただいています。また、規模が大きい企業のため、部門開催の研修でも階層教育や部門教育の講師養成を担当させていただいています。
新入社員や若手向けに専門知識や技術を教える講師を任される方は、年に一、二回、数時間の登壇にすぎませんが、実務と並行して行うため、「なんで忙しいなかで講師なんか……。面倒だな」と感じている人も多いのが実情です。A社での講師養成研修のスタート時に、皆さんの本音をきいてみると、九割程度の人がこうしたモチベーションの低い状態にありました。
そのような状況での講師養成ですから、「余計な仕事がまた増えた」ぐらいの認識で研修に出席するのです。ほかにプロフェッショナルとして活躍している分野があり、そこで全力を発揮したいという気持ちも十分わかります。
しかし、ひとつ気づいていないことがあるんですね。
それは、「影響力」です。
企業内研修に携わる人の「影響力」は絶大
研修スタッフや講師の姿勢は、そのまま受講者に伝わるものです。もちろん、階層教育などで役員や上級管理職者が行う「講話」も同様です。
たとえば、研修のスタート時の事務局オリエンテーション。
私はこれまで、数えきれないほど多くの研修に参加してきましたが、研修スタートのあいさつや案内の姿勢で研修の雰囲気がセットされてしまうことにほとんどの人が気づいていません。それはたった一分の事務連絡でも、五分の人材開発課長のあいさつでも、三十分の役員基調講話でも同じです。その企業の人材開発に対する本気度が、ハッキリと受講者に「空気」として伝わってしまうのです。
何より感じるのは、ほとんどの方の意識が「自分に向いている」ことです。
人前で話をするときは、緊張します。
「しっかりと用意した内容を言わなくてはならない」「自分は人からどう見られているだろうか」などと考えてしまうと、意識が自分に向かいます。
人前で話すこと(プレゼンテーション)は、相手に対して情報のプレゼントをする場であるはずなのに、相手よりも自分に意識が向くことはおかしいですよね。
私の講師養成では、相手に意識が向くような空気づくりや講師の影響力への認識を徹底的に修正していきます。「講師のミッション」をしっかりと見つめることからスタートするのです。
講師とは、
●企業の経営戦略の中の「人材戦略」実現にかかわる重要な責務である。
●ときには経営幹部の「代弁者」にもなる。
●会社における「見本」として、研修の場だけではなく日常業務の場面でも規範となる存在である。
という役割を担い、演じる人のことです。
ですから、事務局を担当する研修スタッフの方にも受けていただきたいとお勧めしています。
潮田、滋彦 うしおだ しげひこ
PHPゼミナール講師、トゥ・ビー・コンサルティング代表取締役
1964年、東京都生まれ。東芝エンジニアリング株式会社で海外プラント営業を経験後、人材開発事業に従事。以後、新入社員から役職者に至る各階層研修、ロジカルシンキングや創造性開発などの各種プログラムを独自開発。2001年からPHPゼミナール講師。現在、トゥ・ビー・コンサルティング株式会社代表取締役。企業向けの人材開発講師として25年間で1万時間以上の講師登壇と、のべ10万人以上への指導実績、200社以上への指導実績がある。米国NLP協会認定トレーナー。
公開研修 ロジカル・プレゼンテーション入門コース
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