接客マナー研修は「マニュアル通り」でいいのか?
2017年10月 3日更新
接客マナーは売上に直結する顧客満足の重要な要素です。商品での差別化が難しくなっている昨今、お客様は感じの悪い会社からモノやサービスを買いません。購入プロセスにおいて、お客様の感情をいかに満たすか――接客マナーは売上を左右する戦略的な無形の商品と言えます。
接客マナーに心がこもっていますか?
接客マナーが戦略商品となるためには、心がこもっていなければなりません。文字に落としこまれたマニュアルの内容を、形だけでなく見えない心の部分までも、どのように教えるのかが指導において最も重要です。そこで今回は、どうすればマニュアルを超えたマナー教育ができるのかをお話しいたします。
ビジネスマナーは社会人の基本として、新入社員に最初に教える内容です。社員をセミナーに派遣したり、自社独自のマニュアルを作成して社内講師が指導するケースもあるでしょう。特に社内で指導する場合に気をつけたいのは、その教え方を誤らないことです。それはお客様応対時や対人関係において、形はできていても心がこもらないことがしばしば見受けられるからです。
たとえば「いらっしゃいませ」という歓迎の言葉です。会社を訪問したときや物販・飲食の店舗に入ったとき、通常この挨拶で出迎えられます。たった一言の挨拶ですが、そこに「ようこそお越しいただきまして、ありがとうございます」という気持ちがこもっているか、それとも条件反射的に決められた言葉をただ発しているだけなのかは、お客様はすぐにわかります。迎える側は気づかなくても、お客様は瞬時に感じ取るものです。
マニュアル徹底は、時に主体性や創意工夫を奪ってしまう
皆様の会社にはマナーマニュアルがありますか? マニュアルではなく市販のマナーテキストでも構いません。特に指導時には、マナーの教科書的なツールが絶対必要で、その理由は次の通りです。
1)誰が教えても、その内容に一貫性を持たすことができる。
2)基本形が明確になるだけでなく、マナーが会社の風土として根づく。
3)基準があるため、マナー水準を一定レベルに保てる。
特に、教えられる側からすると、指導してもらう先輩によって指導内容が違うと戸惑うだけでなく、その後の成長にも影響を及ぼすものです。一貫性のある指導をするうえで、マニュアルはなくてはならないものです。
ただ、その教え方については、マニュアル通りに教え込むのではなく、なぜそうするのかという理由や意味をしっかり考えさせて、理解し納得した上で形を習慣づけることが大切です。
意味や理由を考えさせることなく、形を覚えるためのトレーニング中心になると、形はできても、心のこもらない応対になってしまいます。また、応用もきかなくなるため注意が必要です。
一般的にマニュアルに記述されている内容が、詳細であればあるほど、人はそれを忠実に再現しようとします。つまりマニュアル通りにすることにばかりに意識が働いて、それ以外のことを考えなくなってしまいます。マニュアル通りのマナーを身につけると安心、満足してしまい、マニュアル以外のことに目がいかなくなるという弊害が出てきます。マニュアルを徹底することに注力すると、考えないで行動するロボットを生み出して、主体性や工夫、応用する思考を奪ってしまいます。
キャビンアテンダントの新聞サービスの事例
これは私がキャビンアテンダント時代のことです。一時期、マニュアルを徹底する通達が出されたことがあります。これによって、お客様サービスが大幅に低下するという事態を招いてしまったのです。
機内では新聞サービスがあり、時間帯によって朝刊、夕刊の搭載が決まります。朝刊は10時までなので、マニュアル通りだとそれ以降のフライトでは新聞は一切出せませんし、出したくても搭載されていないのです。それでも、10時過ぎのフライトでは、お客様からしばしば新聞リクエストをいただきます。そこで、新聞搭載時間帯のフライトで残った新聞を下ろさずに残しておいて、10時以降のフライトでリクエストのあるお客様用に利用していました。
しかし、そのような状況の中でも、10時以降は残った新聞があっても出さずに、お断りをするというマニュアルに忠実な人もいるわけです。そうすると、その時のキャビンアテンダントによって出す、出さないが出てきます。お客様からは「前回は11時だったけれど、新聞があったよ。なぜ今日はないの?」とクレームをいただくようになってしまいます。
こうしたことが頻繁に起こるようになり、会社はマニュアル徹底の通達を出しました。しかしその後、マニュアル通りのサービスは徹底されたものの、それに伴って臨機応変な思いやりのサービスは大幅に低下し、お客様からもサービスが悪くなったとのお声をいただくようになったのです。
すると、またすぐに再度の通達が出ました。今度は「マニュアルから逸脱せよ。今あなたができる最善を尽くしたサービスを提供しなさい」という通達です。新聞サービスについても、「新聞が搭載されるフライトは10時まででございます。本日はたまたま前のフライトの新聞が搭載されておりましたので、そちらをお持ちいたしました。本日は特別ということでご了承いただけますでしょうか」と言葉を添えて、ご納得いただいたうえでサービスをすればいいのです。
このような一言を面倒だと省いてしまうと、当然ながらクレームを引き起こす事態になります。マニュアルをスタートラインとして、いい意味でマニュアルを逸脱し、お客様や状況に合わせた臨機応変な対応、自分にできる最善を尽くしたいものです。
接客マナーは、お客様に対しておもてなしの心を表すことです。すべてのお客様に一律ということではありません。マニュアルに加えて思いやりの個別対応で、お客様の期待以上を目指して指導したいものです。教育を担当される方は、ぜひ自らが主体的に行う好意の行動、思いやりの行動であることを教えていただきたいと思います。
増谷淳子 (ますたに・じゅんこ)
株式会社ソフィアパートナーズ 代表取締役。日本航空(株)の客室乗務員として培ってきたおもてなしの心とコミュニケーション力を活かし、企業の人材教育企画、指導、育成に従事。2006年、株式会社ソフィアパートナーズ設立。「人間力教育」により「使命感」「気配り」「感謝の心」を育み、組織に貢献できる社員に導くことを使命とする。教育に関する問題解決のため、「ひと」のマインド&スキルアッププログラム提案、カスタマイズされた誠実な教育には定評があり、リピート依頼も多数。