看過できない「漠然とした不安」【コラム】~三崎美津江
2011年6月13日更新
メンタルヘルス・セルフケア研修では、自分のストレスについて話してもらう演習を取り入れています。「人が減らされて仕事がまわらない」、「コンプライアンス対応で仕事が増えた」、「目標達成のプレッシャーがさらにきつくなった」、「納期が短くなり締め切りに追われている」といった話からは、仕事の負荷が高くなっている状況が伝わってきます。
そして、数は少ないものの、最近増えてきたように感じるのが、『漠然とした不安』に関するものです。「仕事の先行きが見えない」、「どれもうまくいく気がしない」、「皆ばらばらの方を向いて仕事をしている感じがする」といったものです。厳しい状況でがんばっているのに、それが報われている感じがしないのでしょう。
“学習性無力感”という言葉をご存じでしょうか。人は長期間ストレスを避けられない状況に置かれると、「何をしても意味がない」ということを学習し、状況を変える努力すら行なわなくなってしまうことをいいます。これはまさに『漠然とした不安』を感じている人の心境に近いと思います。働く人たちの心の中に、じわじわと無力感が広がってきているのではないでしょうか。人は無力感を感じているとストレスの影響を受けやすくなりますので、メンタルヘルスの観点からは、こうした状態はとても看過できません。
そうした無力感から抜け出すためには、まずは本人が傍観者から当事者の立場に意識を切り替えることが必要だと思います。演習の中では、「解決できないにしても、この状況を少しでも改善するために、自分にできることは何か?」を考えます。どんなにささいなことでも、自分にできることがあるのだと気づければ、そこを足がかりにして無力感から一歩抜け出すことできるからです。
ただ、本人の力だけでは動かしがたい組織のあり方が、無力感を引き起こしているケースも見受けられます。組織の側にも、将来ビジョンの共有化や、互いに支え合う組織づくり、努力が公平に報われるような人事制度の見直しといった取り組みが必要なのではないでしょうか。研修の場での気づきと、組織の取り組みの方向性が一致しているとき、大きな相乗効果が生まれ、人のポジティブな力がより引き出されていくと思います。
みさき みつえ
1991年 (株)PHP総合研究所 入社。1996年より慶應義塾大学大学院医学研究科に留学し、精神医学、臨床心理学を学ぶ。1998年修士課程修了。2001年まで慶應義塾大学病院精神神経科にてカウンセリングにあたる。2009年 (株)PHP研究所退職。
現在、PHPゼミナール講師。心理カウンセラーとして、精神的に悩みを抱える方を対象にした電話相談活動や、企業・団体様におけるメンタルヘルス研修や講演を行なっている。