80歳までの働き方~福嶋眞
2011年11月 2日更新
普段、中小企業を対象に経営者の勉強会の講師や、幹部教育をやっているのだが、地方には驚くような中小企業がある。
先日、私の開催している勉強会によく顔を出し、多く楽しい発言をしてくれる経営者の会社にお邪魔した。どのような仕事をしているかは数年前から知っていたのだが、実際に見学し社業について詳しく聞かせてもらったのは初めてのことだった。
仕事としては省力化機械をつくっている町工場なのだが、これが、ちっとも工場臭くない。町工場だけに、油や埃にまみれて多くの従業員が忙しげに働いているものと想像していたが、この工場は窓が多く、明るく、花が活けてある。事務所にはパソコンがあり、御年配の社員さんが操作している。
随分想像していたイメージと違うと思いながら、詳細をうかがって、また驚いた。従業員は10人前後なのだが、平均年齢は75歳、そして最高齢は85歳だという。
社長は80歳になったばかりで、富士通を定年退職した息子さんが今年の新入社員だと笑っている。そして55歳の息子さんは、これから3つほどの国家試験を通らなければならないので、1年間は勉強漬けになるということだ。
「うちでは、70歳を過ぎた人でもパソコンの3次元CADで設計をしている。パソコンが使えないようじゃ、今の時代は通用しない」と言う社長。アップル社のiPadを見事に操作しながら経営についての話をしてくれた。
もともと大手製紙会社の研究室で20年以上開発の仕事をしていた。しかし、会社の状況が思わしくなく営業開拓に回された。普通はここで腐るのだけれど、この人が思ったのは、マーケティングは面白いという事だった。「人がやらない隙間の市場はどこにもある」。そして定年退職をした時、退職金を投入して今の会社を起こしたという。
その時、考えたのが「これからは人が足りない時代だ。だからいろいろな現場で女性やお年寄りが働くようになる。その時に重たい物を持つのは大変だ。それを楽にする機械をつくれば大きな市場がある」ということ。コンセプトは「腰痛よ、さうなら」だという。自分が腰痛で苦しめられた経験が生きているというのだ。
会社の体制は週休3日制、朝はラジオ体操から始める。昼休みを長くとり、全員血圧を測る。残業はしない。無理もしない。体調が悪ければ休む。それで黒字決算を続けている。
今、経済が厳しい状況という中で、信じられないような企業があるという想いだった。
世の中では年金支給年齢を引き上げる話もあり、若年労働者も含めて就職難とも言われている。元気でいる限りは働いて自立していたいというのは、誰しも願う事ではないかと思う。これからは、こんな企業がどんどん増えていってもらいたいものである。そして、そのような企業づくりの役に立ちたいと思った。
その経営者に、これからの抱負をうかがった。
「現在80歳なので、5年くらいかけて息子に経営を譲りたい。これからのその5年間は、自社の為ではなく地域や国の為に役に立つ事を残したい」と言い、具体的な内容も話してくれた。実に楽しげに話してくれた。
先日も50才代の若い(?)経営者を20人ほど集めて、iPadを営業に使う方法のレクチャー講座を開いていた。ハッピーリタイアという考え方もあるのだろうが、楽しく働きながら人生を終わる。
まだまだ先輩達には教えていただく事ばかりである。
福嶋 眞 ふくしま・まこと
富士通デイラー企業でシステムエンジニア
(主として都市銀行システム開発マネージャーシステム 要員教育に携わる)約8年
コンピューターソフト会社を設立
代表取締役として経営に携わる 約9年
経営コンサルティング会社を設立
コンサルタントとして現在に至る 約10年
PHPコーチング・認定ファシリテーター
(財)しずおか産業創造機構
経営アドバイザー