グロ一バル人材の育成に必要なこと
2012年2月 3日更新
これから紹介する陳梨華さんは、1年の半分を海外出張や短期駐在で過ごすという、まさにグローバルな仕事をしているひとりです。少し詳しく彼女のプロフィールを見てみましょう。
【ケース】グローバル人材とは
陳梨華さんの父親は香港系の中国人、母親は日本人。二人はニューヨークの大学に留学中に出会って結婚。留学後もニューヨークに留まって生活を続ける。
梨華さんはニューヨークで生まれ、小学校の低学年までニューヨークで育つ。その後、母親の都合で田本に戻ることになり、中学時代までの6年間を東京で過ごす。中学卒業と同時に父親の転勤で香港に移り住む。そこで現地の高校に通っていたが、香港の中国返還を前に家族でカナダに移住することになったため、カナダの大学に入学し、経営学を学ぶ。
大学を卒業後はドイツ系企業のカナダ法人に就職し、2年間、財務部門で働いたあと、ドイツ本社の経営企画部門に転勤。そこで出会ったチェコ人と結婚する。
ドイツで5年間働いたのち、その会社を退職して、日本の経営大学院に入学し、MBAを修得。現在は家族で日本に在住し、日系企業の海外営業部門の企画部に勤務中。1年のうち半分は海外出張や短期駐在という生活をしている。
陳さんのような人は、“先天的なグローバル人材”と考えられます。生まれながらにして、グローバルな人たちです。友人や仕事仲間だけでなく、家族がそもそも多国籍。多くの国に住んだ経験をもち、いろいろな言語で話すことができます。当然、世界のどこに行っても、あっという間に適応して、何の不自由も感じることなく仕事をすることができるはずです。
“グローバル人材"という言葉を耳にすると、どうしても陳さんのような人をイメージしてしまいがちになります。このような経歴をもった人でないと、グローバルで活躍することは無理と考えてしまうのです。実際に、グローバル人材の採用でも、多くの企業が陳さんのような人をなんとか探しだして、採用しようとしています。でも・陳さんのような経歴をもっている人はきわめて少ないのです。求めてもまず採用できません。
多くの人たちは、日本人の両親から日本で生まれ、日本の学校を出て、日本で就職しています。海外の経験といえば、何度か海外旅行に行っただけ。それでも問題はありません。今、グローバルに活躍している人たちも、初めから海外での経験を多くもっていたわけではありません。グローバルな仕事を少しずつ経験するうちに、だんだんとグローバル人材になっていったのです。
陳さんのように、両親がちがう国の人であったり、子どもの頃から多くの国で生活したり、という経験をもっていると、グローバルであることが当たり前になります。そうした人たちには、以下のような特徴があります。
◎どの国・地域にいても、ほとんど違和感をもたない。
◎母国語が2つあり(バイリンガル)、その他にも話せる言語をもっている。
◎家族自体が多国籍なので、他国籍のチームにもすぐに馴染める。
◎冒険心が強く、新たな経験を積極的にしょうとする。
◎物事を論理的かつ明快に考える。
つまり、相手が誰であってどんな言葉をしゃべっていても、自分がどこに置かれていても、それを気にすることなく普通に仕事ができるわけです。また、あえてそのような異質性をもった集団や場に飛び込みたいとの思いが強いという特徴もあります。
さらに、同質性が高い集団のなかであれば暗黙の了解が成り立ちますが、お互いに異質な集団のなかでは、明確な論理で説明しなければ理解しあうことができません。家族のなかでも、そのような論理的でクリアなコミュニケーションをしつづけてきたわけですから、論理的な力は子どもの頃からかなり鍛えられているはずです。
こうしたことが、グローバルで活躍するために求められる特徴であることは間違いありません。こうしたカが、今までの生活のなかで自然と身についているのは、うらやましいかぎりです。
ただし、「幼少の頃から身についていなければ、大人になってからでは無理」というものでもありません。
では、後天的にグローバル人材となるためには、何が必要なのでしょうか。
先天的グローバル人材のもつ特徴を補うためには、以下のような点が大切になってきます。
◎どの国・地域にいても、ほとんど違和感をもたない。
⇒異質性に対するポジティブなマインドセット
◎母国語が2つあり(バイリンガル)、その他にも話せる言語をもっている。
⇒異言語同士でも理解しあえるグローバルコミュニケーション力
◎家族自体が多国籍なので、他国籍のチームにもすぐに馴染める。
⇒異質な人との間でシナジーを生む社会性
◎冒険心が高く、新たな経験を積極的にしようとする。
⇒新たなことにチャレンジしょうとする動機と創造性
◎物事を論理的かつ明快に考える。
⇒複雑な状況でも本質をシンプルにとらえる思考力
これらの力を鍛えていけば、いつからでもグローバル人材になることができます。もちろん、英語をはじめとする語学力、グローバルビジネスに関する知識・経験の向上などに真剣に取り組むことも不可欠です。しかし、語学や知識を身につけただけでは、真のグローバル人材にはなれません。
ここにあげた5つの力がないと、どれだけ英語が話せても、どれだけその国のビジネスについて知識をもっていても、周囲からグローバル人材とは認められないのです。
このたび開講する通信教育「『グローバル人材』の基本がわかるコース」では、これらの5つの力をどう高め、鍛えていけばよいのかについて、一つずつ解説していきます。
川上真史 かわかみ しんじ
京都大学教育学部教育心理学科卒業。産業能率大学総合研究所研究員、ヘイコンサルティンググループコンサルタントを経て、現在、タワーズワトソン組織・人事部門ディレクター。主に、人事の採用・評価・育成システムについて、設計から運用、定着までのコンサルティングを担当。また、これらのコンサルティング活動にとどまらず、心理学的な見地からの新しい人材論についての研究・開発を行うことで、次世代の人材についての考え方を提唱する。企業内におけるセミナー、研修の講師のほか、テレビや講演会にも多数登壇。2003~2009年、早稲田大学文学学術院心理学教室非常勤講師。2005年~ ビジネス・ブレークスルー大学専任教授。
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