「新型うつ病」に対処する
2012年5月22日更新
職場におけるストレスが原因でメンタル面の不調を訴えたり、最悪の場合、自殺をするといった従来型のうつ病に加えて、昨今、大きな問題となっているのが「新型うつ病」です。
PHP通信ゼミナール「部下を『うつ』にしない職場をつくる!」では、この「新型うつ」の特徴について詳しく解説しています。前回に引き続き、この問題について考えていきたいと思います。
◆人的資源の確保~「新型うつ病」に対処する
最近、メンタルヘルス研修に「新型うつ病」をとり入れてほしいという、研修担当者からの依頼が増えています。みなさんの周りにも、一見「わがまま」に思える若手社員はいませんか。もし、単なるわがままに見える若手社員がいたら、それは、近年増加傾向にある「新型うつ病」かもしれません。
前図にあるように、これまでの「うつ病」は中高年に多く、真面目で完壁主義な人がかかりやすく、自分を責めて自殺に至るケースが多い、というイメージでした。
しかし、少子化や核家族化により、過保護に育てられた、人間関係で揉まれた経験が乏しいなどのさまざまな背景から、20~30代に「新型うつ病」が急激に増えました。
新型うつ病の特徴は、うつ状態は仕事中だけで、私生活や趣味など好きなことには普段通り活発に活動できます。
また自己愛が強く、自分は貴めずに「会社のせい、上司のせい」と他罰的な 傾向が見られる点です。
【新型うつ病のケース】
入社5年目の男性社員が医師の診断書を持って健康管理室に来ました。
「異動して3か月になりますが、同僚が私を無視し、仕事も面白くありません。上司にも相談しましたが、誰でも一度は経験すると取り合ってくれま せん。異動させてもらえなければ退職も考えています」と泣きながら訴えました。産業医は面談後、本人に了解を得たうえで、上司と直接話をしました。
産業医が「原因は同僚にあると言っている部下本人も、退職を考えるほど苦しんでいるので、一度じっくり話を聴いてあげてほしい」とアドバイスしたことにより、上司は仕事のマネジメントだけでなく、その社員と定期的に面談を行うことにしました。その結果、その社員は上司が常に見守ってくれているという安心感から、仕事に対する不安が解消され、前向きに働けるようになりました。
ケースのように「新型うつ病」の社員は、不調の原因を同僚や上司の責任にして、一見わがままにも見えます。
しかし、「うつ」状態である本人にと っては、どうしていいのかわからない、とてもつらい状況なのです。ですから、新型うつ病にかかわらず、上司はまず部下の話に先入観を持たず、本人の言い分に耳を傾け、理解するよう努めてください。
ただし、状況は理解できても特別扱いする必要はありません。なぜなら、特別扱いすることで、会社への依存者を生み出す恐れがあるとともに、他の社員のモチベーションを下げる危険性があるからです。
あくまでも上司として、原則は人事労務管理の枠内で対処することが大切です。
これからは、ストレスに弱い若手社員を 職場の戦力に育て上げていくことが、現代の上司に求められる新たな能力なのかもしれません。
一方で、企業が拡大成長していくには、人材育成が不可欠です。しかし、人材はすぐには成長しませんし、前述したようにストレスに弱い若手社員も成長させなくてはいけません。もし、さまざまな要因から元気だった社員が、健康問題で業務遂行に困難を感じる事態があれば、上図のように双方にリスクが生じて、企業には大きな痛手となります。
心の病は休職や離職に至ることが多く、企業の損失は計り知れません。人員減少によって、調整した業務が他の同僚への負担となり、不調者や離職者が急増して、職場崩壊を招くこともあります。
このように部下の戦力化だけでなく、人的資源の確保という面からも、メンタルヘルス対策を行うことが求められるのです。
【監修・執筆講師】
渡邊雅子 わたなべ・まさこ
産業衛生支援研究所主宰/ウェルリンク㈱研修講師
看護師/産業カウンセラー/産業保健指導者/心理相談員/産業カウンセラー協会研修講師
1977年、日本専売公社東京病院高等看護学院卒業。同年、日本専売公社東京病院勤務。1999年、1600名が勤める工業会社人事部「健康管理室」に勤務。従業員の入社時からの個人カルテを作成、「こころの健康づくり計画」の策定、メンタルヘルスケア研修実施、試し出勤規定立案。メンタル不調者対策として「こころの相談室」を開設。労働衛生会議の設置など、メンタルヘルスに関する幅広い実務を経験。2006年、メンタルヘルスアドバイザー、産業保健アドバイザーとして産業衛生支援研究所を設立。企業内でメンタルヘルス対策を確立した実務経験から、官公庁・企業・学校・病院などのメンタルヘルス研修や、コミュニケーション研修をはじめ、メンタルヘルス対策支援、復職支援、教職員カウンセリングなどに携わっている。
通信ゼミナール
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