キャリア形成助成金の活用~出口正章
2012年11月28日更新
1990年代以降、企業の人材育成投資は年々減少してきました。厚生労働省の「賃金労働時間制度等総合調査」・「就労条件総合調査」によると、現金給与以外の労働費用に占める教育訓練費(常用労働者1人1か月平均)の割合は、1988年の2.4%から、1991年は2.2%、1995年は1.6%、1998年は1.6%、2002年は1.5%となっています。
企業規模別の大小にかかわらず教育訓練費の割合は減少していますが、一貫して規模による大きな格差が存在していることが分かります。例えば、上の表で2002年の数字を見ると、5,000人以上の企業の教育訓練費を100とする、30~99人の規模の企業では28.8しかありません。
それでは、企業規模による教育訓練の格差は、具体的などのような教育に現われているのでしょうか。企業の基幹的な人材となる正社員の教育状況から検討してみます。
正社員の職業スキルはどの程度か「働く人の就業実態・就業意識に関する調査」(ニッセイ基礎研究所・2004年)から見ていくと、業務のスキルが十分なレベルにあると考えている正社員の割合は、301人以上の企業で働いている場合が最も割合が高くなっており、総じて規模が小さい企業の場合は割合が低くなっています。また、こうしたスキルを獲得した方法を専門的な業務のスキルの場合で見ていくと、「仕事をしながら自然と」身に付けた割合がすべての規模の層で60%を超えており最も高く、次いで「自分で自発的に学習して」が高くなっています。基本的にはOJTなどの業務を通じた習得や就業者自身の努力によってスキルを身に付けているということがいえます。
しかし、OJT及び自発的な学習によるスキル獲得には規模による違いは見られませんが、「勤務先が実施する研修に参加して」については規模による差が顕著になります。300人以下の企業の場合は、10%~20%程度であるのに対して、301人以上の企業の場合は35.6%となっており、スキルを身に付けている者の割合と、研修によるスキルの獲得割合が共に規模が大きい企業ほど高くなっています。このことから、規模が大きい企業の方では、OJTや本人の努力だけでなく、企業による積極的な教育が人材の育成に重要な役割を果たしているといえます。
厚生労働省の調査から企業の規模別に正社員に対してOJT以外の教育を行なった割合を見ると、ここでもやはり規模が小さい企業ほど行なっている割合が低いことがわかります。
つまり規模が小さい企業では、OJT以外の、研修などコストがかかる教育はあまり実施されてはいないということになります。
しかしながら、資本や設備に乏しい中小企業ほど、就業者のスキル・ノウハウがより大きく業績を左右するといわれます。つまり現状とは逆に、中小企業ほど就業者の教育が必要ということです。そこでご紹介しているのが、「キャリア形成助成金」を有効に活用した教育研修です。これは、雇用する労働者のキャリア形成を促進するために、年間計画に基づいて訓練等を行なった事業主に対し、その経費と訓練期間に支払った賃金の一部を助成する制度です。
活用できる事業主は、以下の要件を満たすことが求められています。
1)雇用保険の適用事業主
2)労働保険料の未納がない
3)過去3年間に雇用保険二事業による助成金の不正受給がない
4)訓練を受けさせる期間に、所定労働時間を超えて訓練を実施した場合には、割増賃金を支払っている
また、活用のため基本的要件は以下のようになっています。
1)労働組合等の意見を聞いて、事業内職業能力開発計画及びこれに基づく年間職業能力開発計画を作成している事業主であって、当該計画の内容をその雇用する労働者等に対して周知しているものであること。
2)職業能力開発推進者を選任していること
国内需要の停滞、グローバル化と空洞化、少子・高齢化の進行など、中小・中堅企業はいま、企業の存続・発展に向けて、変革のときを迎えています。今後の事業の進展のためには、業績を伸ばす人材の育成が欠かせません。こうした制度を活用して、中長期の成長戦略としての人材育成に有効な投資を行なっていきたいものです。
出口正章 でぐち まさあき
社会保険労務士法人ティグレ・事務局長 社会保険労務士
2000年12月から労働保険事務組合ティグレ東大阪に専任、実務経験を経て2006年8月社会保険労務士法人ティグレ設立、事務長に就任、2007年7月事務局長に就任。多数の助成金申請実績を持つ。