社員の育成目標・方針を明確化する―人材育成のフレームワーク
2013年8月 5日更新
人が人の親になるとき、まず、何をするだろうか。恐らく、「こんな人に育ってほしい」という願いを込めて「名前」をつけることだろう。教育担当者も同じである。社員に対して、「どんな人材に育ってほしいか」を明確に言える担当者でなければならないのだ。
目標地点を把握させる
カーナビでもそうである。「ここに行きたい」と入力しなければ、目的地に辿り着くことはできない。行き先=目標があること。「細い道を行け」「大通りを行け」、さらに、道を外れてしまったら「戻れ」と、カーナビなら教えてくれるはずである。
ただし、カーナビにはもうひとつ情報が必要である。それは「今、ここにいる」ということ、すなわち現在地=現状である。現在地が分からなくては、目標地点に辿り着くことは困難である。したがって、教育担当者は、社員の「現状」も把握しておかなければならないのだ。
問題解決思考で育成する
次の10か条を見ていただきたい。実はこれは、通知票の一部に記載されている小学5年生として求められる生活態度や行動のあるべき一覧である。
1.基本的な生活習慣を身につけ、礼儀正しい行動をする。
2.健康に気をつけ、体力の向上に努め元気に生活をする。
3.目標を立て、課題に根気強く取り組む。
4.自分の役割と責任を自覚し、行動する。
5.自分の考えをもち、物事に前向きに取り組む。
6.思いやりと感謝の心をもち、みんなと協力し合って活動する。
7.自然や生命を大切にする。
8.みんなのことを考え、進んで仕事や奉仕活動をする。
9.誰に対しても公正・公平に行動する。
10.きまりを守り、人に迷惑をかけないように心がけて生活する。
お気づきいただけたであろうか。企業人として求められる行動規範となんら変わりない。教育担当者は、何よりもまずこうした「あるべき人物像」を示さなければならない。
これを明示することが、人が人を育成するときの出発点なのである。「仕事のできる部下が欲しい」。よく耳にするセリフである。では、「仕事のできる」とは、自社ではどういう人物なのだろうか。何ができれば、どのような能力があれば、また、どのような意識をもっていれば、「仕事ができる」のだろうか。それがはっきり言える教育担当者がいま求められている。逆に、どんな人材に成長すべきなのか、それを知らされもせずにOJTを振りかざされる社員は不幸であろう。
目標と現状のギャップが「問題」である。育成も、問題解決とまったく同じ発想で行うべきである。社員の現状と、目標の間にあるギャップをつかむところから、教育担当者の仕事は始まるのである。
社員の仕事ぶりの、何が強みで何が弱みなのか。育成目標を指し示した後に、現状を認識させてやることが必要である。育成される側の自己理解と、育成する側が把握している当人の現状がブレているのはよくある話だ。
忍耐で育てる
人が人を育成する営みは、すぐに成果が現れるものではない。空っぽのコップに水を少しずつ注ぐがごとく、一向に一杯にならない。注いできたことが実感できるのは、一杯になって、水が溢れはじめてからのことだ。
しかし、注ぐことを決して諦めないことである。松下幸之助翁は、経営に必要なもののひとつとして「忍耐」を挙げたが、同時に、経営は人づくりと言って憚らなかった。まさに、人づくりに忍耐は欠かせないと解釈できよう。
社員に成長してほしい姿を指し示し、現状を把握させ、そのギャップの原因を明らかにする。その上で、日々の仕事を通じ、ギャップを埋める努力と支援を行う。育成の営みは、忍耐が必要であるが、次代を創るという“尊い仕事”である。なぜなら次代とは、未来にほかならないのだから。
松下幸之助翁は、部下を育てるポイントをこう語っている。
「一つめは、部下にものを尋ねること、二つめに、方針を明確に示すということ、三つめに権限を委譲するということ、そして四つめが感動させるということである」
育成のフレームワーク
ここでは、育成のフレームワークについて整理しておくので、参考にされるとよいだろう。
【育成のフレームワーク】
1.育成目標、方針の明確化
2.部下の能力の実態確認
3.育成が必要な点の把握
4.育成計画の作成
5.教育の実施
6.成果の評価
7.補修指導
※出典:『[実践]社員教育推進マニュアル』(2009年1月・PHP研究所発行)
【著者プロフィール】
茅切伸明 かやきり のぶあき
慶應義塾大学 商学部卒業後、(株)三貴入社。 その後、(株)日本エル・シー・エー入社。平成1年3月 住友銀行グループ 住友ビジネスコンサルテイング(株)(現SMBC コンサルティング(株))入社。セミナー事業部にて、ビジネスセミナーを年間200 以上、企業内研修を50以上担当し、他社のセミナーを年間50以上受講する。平成18年4月 (株)ヒューマンプロデュース・ジャパンを設立。「本物の教育」「本物の講師」「本物の教育担当者」をプロデュースするという理念を掲げ、現在まで年間500以上、累計3,000以上のセミナー・研修をプロデュースするとともに、セミナー会社・研修会社のコンサルティング、セミナー事業の立ち上げ、企業の教育体系の構築なども手掛ける。著書に、『実践社員教育推進マニュアル』、通信教育『メンタリングで共に成長する新入社員指導・支援の実践コース』(以上、PHP研究所)、『だれでも一流講師になれる71のルール』(税務経理協会)
松下直子 まつした なおこ
株式会社オフィスあん 代表取締役。社会保険労務士、人事コンサルタント。神戸大学卒業後、江崎グリコ(株)に入社。新規開拓の営業職、報道担当の広報職、人事労務職を歴任。人事部門では、採用、育成、人事制度設計と運用、労務管理と幅広く人事業務に携わる。独立後は学習塾の経営や大学講師の経験を経て、現在は、社会保険労務士、人事コンサルタントとして顧問先の指導にあたる一方、民間企業や自治体からの研修依頼は年間200本を超える(2011年実績)。人材育成を生涯のライフワークと決意し、社会人教育に意欲的に向き合うかたわら、士業家の独立支援事業、文化教育事業にも取り組み、幅広く人材育成に携わっている。