上司にみんなの前で遅刻を叱責された~事例で学ぶパワハラ
2014年3月 7日更新
上司に、職場のみんなの前で遅刻を叱責され、腹が立ってヘルプラインに通報したケース。上司の行為はパワーハラスメント(パワハラ)に該当するでしょうか? 事例から解説します。
パワハラの定義
パワハラとは「職務上の地位または職場内の優位性を背景にして、本来の業務の適正な範囲を超えて、継続的に相手の人格と尊厳を侵害する言動を行うことにより、就労者に身体的・精神的苦痛を与え、職場環境を悪化させる行為」(2010年クオレ・シー・キューブ改訂版)と定義され、労働相談でも上位を占める労働現場における最も悩ましい問題の一つです。
パワハラ相談事例:上司にみんなの前で遅刻を叱責された
事務職で入社2年目の山城さんは日ごろからやや時間にルーズなところがあり、ときどき始業時間に遅れてしまいます。
この日の朝も、始業時間に10分近く遅れてきたため、とうとう岩倉課長の雷が落ちました。
「どうしたんだ! おまえはたびたび遅れてくるけど、俺たちの仕事はチームワークでやっているんだぞ。みんなに迷惑をかけていることがわかっているのか。謝れ!」
山城さんは、岩倉課長の怒鳴り声に圧倒されて、バツが悪そうにうつむいたまま黙っていました。何も言えなかったのです。そのあと、自分の席に座って仕事を始めたのですが、だんだんと岩倉課長の言動に腹が立ってきました。
「なにもみんなの前で大声で怒ることはないのに......。侮辱された気がする」
怒りが収まらない山城さんは、「これってパワハラではないか」と思いつめ、後日ヘルプラインに通報しました。
パワハラチェック表(判定)
チェック項目と評価
(1)明確な違法行為または違法行為の強要か →×
(2)職務上の地位または優位性を背景にしているか →○
(3)本来の業務の適正な範囲を超えた行為か →×
(4)継続的で執拗な行為か →×
(5)人格と尊厳を侵害する言動か →×
(6)就労者に身体的・精神的苦痛を与えているか →○
(7)就労者の働く環境を悪化させているか →不明
(1)は1つでも該当すれば最も悪質な「違法性が疑われるレベル」と認定。
(2)~(7)は 該当:〇=1.0 半分該当:△=0.5 該当せず:×=0.0 として評価。
合計が4.0以上の場合は「パワハラを疑うレベル」
3.5~1.5は「不適切なところはあるが、パワハラとまでは言えないレベル」
1.0以下は「パワハラではないレベル」とする。
事例の解説:上司として当然の業務。パワハラとまではいえない
パワハラチェック表で、該当する項目は(2)と(5)。残る4つの項目はすべて×となります。
合計は2.0で、岩倉課長の言動はちょっと言い方がきつく、不適切なところはあるが、パワハラとまでは言えないレベル。山城さんは遅刻した正当な理由があるのなら、その場できちんと説明すべきです。もし自分に非があったのであれば、「申し訳ありませんでした」とひと言謝り、イライラしていると思われる上司や周りの人のわだかまりを解消して次の仕事に取りかかるべきです。
一方、岩倉課長としてはここで叱らないと、「部下を叱れない上司」と見なされ、管理者失格になります。部下を適切に指導することは、上司の重要な業務の1つです。そのうえで、自分が教育的配慮(しつけ)から叱ったことに対し、その真意を部下が正しく理解しているかどうかを確認するため、叱ったあとのフォローも必要です。
出典:イラスト&ケーススタディー50『実践! コンプライアンス[パワーハラスメント編]』(著:星野邦夫監修:一般社団法人経営倫理実践研究センター(BERC))