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[組織マネジメント]人は合理性だけでは動かない

2014年9月 2日更新

[組織マネジメント]人は合理性だけでは動かない

組織マネジメントについて悩んだときには、「人間」を組織の真ん中において考えることにしているという佐藤剛氏(グロービス経営大学院教授)。最新刊『[実況]組織マネジメント教室』から、実践のためにポイントをご紹介します。
 
 
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「感情をもつ存在」としての人間

 
人間は、意識的に物事を考えたり行動したりするのに使われる脳活動の割合は1%に過ぎず、残りの99%は感情と無意識が占めているともいわれています。人間とはそれだけ感情や無意識によって行動しており、理屈だけでは人はなかなか動かないものです。
感情はものの考え方、判断基準、さらには記憶にも大きな影響を与えます。たとえば、いったん好印象をもてば、その人のあらゆる行動を快く受け入れることができますが、逆もまたしかりです。後者の場合、仕事を進めるうえで障害になることは十分にありえます。ときには判断を誤らせることになりかねません。
しかも相手がどのような感情をいだいているかは、把握することが難しいこともあります。もし、感情に反するような言動をした場合には、いくら理路整然と説得しても同意してくれないこともあります。
 

言葉の力

 
もちろん「人を動かすのに理屈なんて必要ない」という話ではありません。人間にとって理屈は重要です。この文脈で言う理屈とは、合理性と言葉を置き換えてもいいでしょう。人間は言葉を組み合わせて世界観を作っていきます。そのため、たとえ言葉だけの世界であっても、それがあたかも真実であるかのように振る舞います。たとえば、8月15日を終戦記念日だと考えている人は多いのですが、国際法上、戦争が終結した日は1952年4月28日なのです。
我々は言葉をイメージし、そのイメージによって思考や行動が制御されています。これを社会構成主義という言い方をすることもあるのですが、要は言葉で世界観を作り、その世界観に左右されるのが我々人間であるということです。その意味で言葉は人切なのです。そして言葉は合理的に構成されていますから、人間にとって合理性は必要不可欠なのです。
 
ところが、日本人はじつは言葉を使うことが得意ではありません。
「暗黙の了解」や「以心伝心」という言葉があるようにコンテクストが非常に重視されるコミュニケーションが好まれる傾向にあります。明確に言葉で表現するのではなく、文脈に依存し、心を読んでいくことが社会人として重要な資質であるという考え方が伝統的にあります。
このような日本型のコミュニケーションが、一概に良いとも悪いとも判断できません。
日本型の場合、コミュニケーションコストがかからないというメリットがあります。会話をするたびに背景から1つひとつ順序立てて説明しなくても、自然と相手が理解してくれるわけですから、時間の節約になります。ただし、このようなミュニケーションスタイルは長期的な関係と当事者同士の均質性が前提となります。
 
しかし、ビジネスにおけるコミュニケーションは、様々なバックグラウンドや価値観を持つ人たちがいるのが大前提です。またグローバルでビジネスするときは、より価値観の差異が大きいため、相手を互いに察するという姿勢ではコミュニケーションは成り立ちません。たとえ流暢な英語を使ったとしても、「明確に言わなくてもわかるだろう」という発想は通用しません。「自分の感覚は、相手には簡単には理解されない」という前提で、言葉を尽くさないと十分なコミュニケーションはとれません。
じつは、組織内でのマネジメントにおいても、同じことがいえます。かつては、上司の背中を見て部下は育つとか、肚で互いに理解し合うとことが一般的だったかもしれません。しかし、環境変化の激しいなかでは、これまでの常識が通用しないことがよくあります。そのようななかでは、1つひとつの言葉の意味を確認しあいながら議論することが大切になります。
 

選択のジレンマ

 
「人間の不完全さ」ということを考える上で、「選択のジレンマ」を知っておく必要があります。マネジメントを行う際にも大きな課題となります。
「選択のジレンマ」とは、人間は自分の自由意思で物事を判断している気になっていますが、現実はそんなものはほとんどない、ということです。
人間は誰もが社会的な文脈を埋め込まれて意思決定をしています。その社会のルールが内在化されているため、自分では自由に選択しているつもりでも、文化的、社会的規範の中でコントロールされて行動していることも多いのです。
物を買うときであれば、物理的に近くの物と遠くの物だったら、近くのモノを買ってしまうのも、選択のジレンマです。環境によって自分の行動がコントロールされていて、自分は好きなモノを買っているつもりでも、じつは手に取りやすい場所の物を必然的に買っているのです。
組織内でも同じことが言えます。企業など特定の組織に属すると、自分の考えで喋っているつもりでも、無自覚的にその組織の文脈で判断してしまいます。きわめて個人的な見解だと思っていても、いつの間にか会社を代表するような意見に偏ってしまいがちです。
とくに強い社風を持つ伝統的な会社では、新しいイノベーティブな発想をすることができなくなってしまうのは、選択のジレンマが大きな要因のひとつとなっています。
マネジメントにおいても、自分や部下が選択のジレンマに陥っていないか、注意が必要です。
 
 
 

 
【著者紹介】
佐藤 剛(さとう・たけし)
クロービス経営大学院教授
慶應義塾大学大学院経営管理研究科博士課程修了、博士(経営学)。2006年よりグロービス経営大学院教授、東洋大学大学院経営学研究科非常勤講師、中小企業大学校東京校中小企業診断士養成講座講師。著書に、『イノベーション創発論』(慶應義塾大学出版会、2008年)、『組織自律力』(慶應義塾大学出版会、2006年)、『チーム思考』(共著、東洋経済新報社、2012年)、『組織マネジメント戦略』(共著、有斐閣、2005年)などがある。現在、主な研究テーマとして、1)自律的人材の育成とマネジメントを通じて組織を活性化する手法の開発、2)エグゼクティブの認知特性に基づいた学習支援、3)テキストマイニングによるリーダーのコミュニケーション分析と支援、4)地域医療連携の最適化手法の開発、5)医療機関に必要とされるマネジメントスキルの開発、などに取り組む。
 

 

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