女性活躍・キャリアアップの課題と支援【コラム】~杉本美晴
2015年2月25日更新
女性がキャリアアップするためには、どのような課題があるのでしょうか。また、女性活躍を支援するための施策は? ――PHPゼミナール講師としてご活躍中の杉本美晴氏のコラムです。
* * * * *
私は、「男女雇用機会均等法」が施行された年に、大手のコンピューターシステム会社に入社し、社会人としてスタートを切りました。当時、その会社には「産前産後休業」の制度はあっても「育児休業」の制度がありませんでした。私を指導してくださった先輩の女性はとても優秀な方だったのですが、出産後すぐに復帰されたために、お手洗いで搾乳するというような様々な苦労をして仕事を続けておられたのを覚えています。
私自身は結婚を機に退職し、出産後、社会復帰を考えました。コンピューターの世界で技術的に難しい仕事をしていましたので、そのスキルがあれば復帰は難しくないと思ったのです。ところが、1995年から翌年にかけて、大きな変化が起きていました。「Windows95(R)」が世に出たのです。そして私は、その短いブランクによって、今のままではこの業界に復帰できないと人材派遣会社に言われました。社会人として必要とされていない、居場所がないということに大きなショックを受けたのですが、ここで必死になって資格をとり、仕事を続けられることになったのです。こうした経緯から、私は、女性とキャリアの問題について関心をもつようになり、その後、46歳から大学院で研究に取り組みました。
「女性とキャリア」の問題について、学問的なことをご紹介しましょう。1986年「ウォール・ストリート・ジャーナル」紙のキャロル・ハイモウィッツとティモシー・シェルハートが発表した「ガラスの天井」という考え方が、女性が出世しにくい理由として長らく地位を得ていました。「ガラスの天井」というのは、女性には上級管理職への登用・昇進を阻害する見えない障壁がある、という考え方です。しかし、役員クラスに上り詰めるもっと前の段階に多くの難関があり、大勢の女性たちが脱落していることに目を付けたアリス・H・イーグリーとリンダ・L・カーリーが、2007年に「キャリアの迷宮」についての論文を発表しました。どの段階にも先に進むことを拒む要因がいくつも絡み合い、女性はこの“迷宮”に入り込んでしまうという内容です。代表的な「キャリアの迷宮」として、偏見の名残がある、女性がリーダーになることへの反発がある、家庭との両立をしなければならないなどがあげられています。
私は大学院で、日本の働く女性たちの「キャリアの迷宮」を明らかにするため、200人を対象にアンケート調査を行なったことがあります。そのアンケートで、「キャリアを阻害する要因」について尋ねたところ、「周囲の両立への理解のなさ」「仕事の環境や制度の不足」「女性への偏見と期待のなさ」「自分の意識と能力のなさ」という回答が上がってきました。
このなかで、「自分の意識と能力のなさ」という回答については、30代、40代になると増えていく傾向があります。勤続年数が長くなるほど、「自分は同じ仕事ばかりして成長していないのではないか」「新しい仕事に取り組むのは無理なのではないか」と考える女性が増えているのです。これは、女性が携わる仕事が、今、その場で対応する性質のものが多く、ものを調べたり、考えたりする機会が少ない、そして教育を受ける機会も十分に与えられていないということが原因として挙げられると思います。また、20代の女性は、比較的、性別を意識せずに育ってきているのに対し、30代、40代は、性別によるギャップや周囲の理解のなさを強く感じてきているという社会的な背景も要因の一つと言えるでしょう。
こうした「キャリアの迷宮」を回避するためには、女性が抱える諸問題の理解を深めるための研修導入や復職のチャンスを与える制度の導入、採用や評価を透明化するなどの企業の取り組み、子育て神話や性役割観の実態を明らかにすることでの個人の意識改革、女性が気軽に参加できる社内でのイベントを行うなどの企業の組織や風土の変革が必要であり、迷宮が明らかになることで女性の管理職・リーダーの増加への一助となると思われます。
例えば、「意識と能力のなさ」につながる女性の弱点として、働く環境への認識不足があげられます。社会のなかの、企業のなかの、そこで働く私の仕事、というとらえ方が難しいという点です。さらに、組織に属する一人ひとりが何のためにここにいるのか、そのために何をしなければいけないか、それを考え、周りの人に働きかけ巻き込んでいくといったリーダーシップ、あるいはロジカルシンキングについても、教育・研修の内容に盛り込むことが求められます。
安倍総理は「2020年までに指導的地位に占める女性の割合を30%にする」と宣言しています。今後、もっと社会で活躍したいという女性が増えていくのは間違いありません。「女性は〇〇だ」というステレオタイプの考え方を捨て去り、職場でのコミュニケーションを増やし、教育機会や制度を整えることによって、女性が活躍する場面はもっと広がっていくはずです。
実は先日、私の息子が外資系企業に入社しました。目立ちたがり屋の傾向がある彼は、新人研修の最終日に、同期のなかで「ぼくは頑張ってトップをとろうと思います」と抱負を述べたそうです。そうすると隣に座っていた女性に、「あなた、私に勝てると思っているの?」と真顔で問われたのだとか。彼女のような頼もしい女性が、今後どんどん増えていくことを願ってやみません。
【講師プロフィール】
杉本美晴(すぎもと・みはる)
大手コンピューターシステム会社を経て独立。メーカー、商社、金融機関、全国の自治体や商工会議所、大学なども多数担当。各方面で女性創業塾の講師も務める。キャリアデザインをはじめ、ビジネススキル、コミュニケーション、CS、クレーム対応、モチベーション、エネルギー回復トレーニングなど、「女性活躍支援」に関連する幅広いテーマの研修経験が豊富で指名が絶えない。
[PR]
PHP研究所では人事教育ご担当者を対象にした「効果を上げる女性活躍支援研修」のプレゼンテーションを定期的に開催しています。ぜひご参加ください。