肩書きが人を成長させる
2015年5月 7日更新
人は肩書きが変わると、肩書きが与える「印象」とのギャップを解消するために努力をするものです。そうした努力が人を育てていくことになります。三坂健氏(株式会社HRインスティテュート取締役 チーフコンサルタント)は述べています。『「印象」で得する人、損する人』からご紹介します。
人事の方とお話をしていると、「肩書が人を成長させる」という話題が頻繁に出てきます。この通説は間違っていないと思います。
大学を卒業して、私は損害保険会社に入社しました。そこでは「営業」に配属され、文字通り「営業マン」として走り回っていました。
当時、私自身、「自分は営業マンだ」と思って仕事をしていましたし、「保険を売るのが仕事だ」と思っていました。そして、周りのお客様や上司、部下、同僚、ひいては家族も、私のことを「営業マン」だと思って接していたでしょう。しばらくして転職を志し、今の会社に移りました。
営業の経験しかない私が与えられた名刺の肩書は「コンサルタント」でした。もちろん経験などありません。営業マンとして保険の相談にのるという経験はしていましたが、経営の相談にのる、人材育成の相談にのるというのは全く畑の違う世界の話です。
しかし、20代後半の私は、周囲の方から、突然、「コンサルタント」として見られることとなったのです。
出版社から本を出しているコンサルティング会社の「コンサルタント」、会社の問題点や解決策を提示してくれる「コンサルタント」......、お客様はその「コンサルタント」という肩書に対して相談してくださるのです。
「まだコンサルタントなんていえる状況じゃないんだけどな......」
「この方、人事部に10年いるなんて、僕よりずっと経験が上なんだから相談することなんてないだろうに......」
本音でいえば、周囲からの見られ方と、自分の中での実態とのギャップに、しばらくの間、苦しみました。
しかし、今振り返ってみると、このギャップが与えられたことにより、私は成長することができた、といえます。
周囲が私に持つ「コンサルタント」としての印象と、私自身が認識している実態とのギャップを埋める努力を一生懸命しました。弊社の創業者であり現在会長である野口??昭が実際に行なったということを参考に「1日1冊本を読む」ことを自分に義務づけ、毎日毎日、自己投資をしました。
週末には図書館に行って、ビジネス誌を読みまくり、企業のケースをノートにメモしたりもしました。
「経営の相談にのるためには経営者の考え方を知らなければならない」と思い、「リーダー列伝」というコンセプトでクライアントに提供するコンテンツを企画、作成しました。それは、松下幸之助、本田宗一郎などの名経営者十数名の書籍を読み漁り、それぞれの人物の考え方を自ら体系的に資料にまとめ、クライアントに提供するというものでした。
これらの作業、自己投資は、コンサルタントとしての私の財産となり、自信の源となっていきました。
他にも身なりや態度を改め、それまでの「営業マン」から「コンサルタント」になるための努力を「表面的」にも実施しました。
今思い出せば恥ずかしい話でもありますが、「コンサルタントであれば手帳がかっこよくなければならない!」と思い、数万円もする手帳セットを購入(今は700円ぐらいのものを使用しています......)したり、TUMIのバッグを購入し、外資系のコンサルタントを真似てみたりもしました。
転職当初、他のコンサルタントに「スーツが営業マンっぽい」と言われたことをきっかけに、渋谷界隈のセレクトショップに駆け込み、お金をはたいて、イメチェンしたこともありました(これも今や、こだわりが薄れつつありますが......)。
このように、私の場合は「営業マン」から「コンサルタント」になることで、そのギャップを解消するために努力する必要が生じ、周囲のメンバーやクライアントに認められようとすることが成長につながったのです。
他にも社員やスタッフの呼称や肩書にこだわることで、「相手の印象」と「スタッフの能力」のギャップを解消しようとする例は数多くあります。たとえば、ディズニーランドでは、アルバイトスタッフのことを「キャスト」と呼びます。それは、お客様を魅了する舞台の一員として自他ともに「キャスト」であることを求めているからに違いありません。
ソニー生命では、保険のセールスパーソンのことを「ライフプランナー」と呼びます。これも単に保険を売ることだけが仕事ではなく、お客様の人生の相談にのる仕事であることを意味しているのでしょう。テレビCMでも、「ライフプランナーバリュー」というキャッチフレーズで展開していますが、これはお客様にそのような印象を与えるだけでなく、そこで働く人たちが抱く印象にも影響を与えています。「私はセールスパーソンではなく、ライフプランナーでなければならない」と思わせる狙いもあるのではないでしょうか。
また、それまで係長だった人が、課長を名乗ると、やはり「変わったなあ」という印象を持ちますし、「後継者として経営を任せていいのか」と若いころ不安視された方でも、実際に社長になると、今までの「印象」が一変して「社長」の風格が漂う、ということは往々にしてあるものです。これらは「印象」のギャップが、その人自身を成長させ、結果的に、そうした実力を備えるに至らせているのです。
「なるようになる」という言葉には、「自分がなると思ったようになる」という意味が込められています。肩書は「自分はこうならなければ」という目標を与え、周囲からの期待と、自分の実力とのギャップを生じさせ、結果的に成長への動機を生み出し、実力へと転化させてくれる効果を持っているのです。
【出典】『「印象」で得する人、損する人』~チャンスを呼び込むシンプルな習慣~
「成果として結実するかどうか」は他人に認められるか否かにかかっている。2万人以上のビジネスパーソンと接してきたコンサルタントが、ビジネスの現場で跋扈する「印象」の本質に迫る一冊。
三坂健(みさか・けん)
株式会社HRインスティテュート取締役 チーフ・コンサルタント、早稲田大学エクステンションセンター講師。慶應義塾大学経済学部卒業後、株式会社損害保険ジャパンに入社。法人営業を経て、HRインスティテュートに参画。以後、経営コンサルティングおよび、論理思考や課題解決をはじめとするスキルトレーニングの開発、実施を中心に活動。近年は国内での活動のほか、海外での企業支援を行なっており、日本とアジアの往復を繰り返している。