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日本企業に裁量労働制を導入しても生産性が向上しない2つの理由

日本企業に裁量労働制を導入しても生産性が向上しない2つの理由

(2018年6月21日更新)

 
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裁量労働が適用されても、生産性向上につながらない企業は少なくありません。その原因を、日本企業の現状から解説します。

 

 

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今の通常国会で審議中の「働き方改革関連法案」(働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律案)。一部修正を経て5月31日の衆院本会議で可決、6月4日に参議院で審議入りしており、今国会で成立する見通しとなっています。

当初、法案には「高度プロフェッショナル制度の創設」とともに、「裁量労働制の適用拡大」が盛り込まれる予定でした。最終的に同制度の適用拡大は法案から削除されましたが、国会で議論となったこともあり、これらの制度に対する関心は高まっています。両制度は本来、その導入により生産性向上の効果が期待されるものですが、現状では、裁量労働制が長時間労働の温床となっているケースも見受けられ、制度そのものに対する批判の声があるのも事実です。では、日本では裁量労働によって生産性を向上させることはできないのでしょうか。今回は、裁量労働制および高度プロフェッショナル制度は日本企業になじむのかについて考察します。

 

裁量労働等は労働者が自律的に働くための制度

裁量労働制とは、業務遂行の手段および時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をすることが困難な一定の業務に就かせた場合に、実労働時間にかかわらず、あらかじめ労使協定または労使委員会の決議により定めた時間働いたものとみなす制度で、研究・開発業務やデザイナーなど一定の専門業務や、会社の本社等において事業運営に関する企画・立案をする業務などが適用対象業務として定められています(詳細は本コラム【「裁量労働制」をポイント解説~対象業務は?導入手続きはどうなる?】参照)。

一方、高度プロフェッショナル制度とは、働き方改革関連法案に盛り込まれている新しい制度で、一定額以上の年収があり、時間で働くことがなじまない高度の専門的知識を必要とする業務に従事している労働者について、本人の同意や労使委員会の決議を要件に、労働基準法における労働時間、休憩、休日、深夜の割増賃金等の適用を除外する制度です(詳細は本コラム【高度プロフェッショナル制度とは?】参照)。

この二つの制度は、通常の労働時間制度と異なり、必ずしも所定労働時間働くことを前提とせず、実際に労働した時間を労働時間管理や賃金支払いの基礎とすることもありません。高度な専門性や独創性、創造性が求められる業務を行う労働者が、会社の所定労働時間にとらわれることなく自律的な働き方をすることで、トータルの労働時間が短縮できたり、より創造性を発揮して付加価値の高い仕事をすることになれば、結果的に生産性向上へと結びつくことになります。

 

日本企業における裁量労働制の現状

現在の日本では、裁量労働制を採用している企業は全体の3.5%、制度を採用している企業が多い1,000人以上の規模に絞っても約16%と、導入率は決して高くありません(※)。しかし、制度に対する注目度は高く、企業には同制度を評価し導入を希望する声がある一方、労働時間の管理を厳密に行わないため適用対象者が過重労働になってしまうケースがあるのも事実です。実際に、死亡した裁量労働適用者について、死亡原因が過重労働であったとして労災が認定されるといった深刻なケースもあります。このように、裁量労働が適用されても、労働時間がかえって増える結果となり、生産性向上につながらない企業は少なくありません。

※2017年就労条件総合調査より

 

なぜ生産性向上につながらないのか

それでは、なぜ裁量労働を導入しても生産性が向上しないのでしょうか。一つには、適用している業務そのものが制度の趣旨に沿っていないことが挙げられます。生産性は投入(input)に対する産出(output)の割合ですから、労働における生産性が向上するためには、同じ労働量(input)でこれまでより高い付加価値(output)を生み出すか、労働量(input)を減らしてこれまでと同じ付加価値(output)を生み出すか、いずれかによることになります。つまり、労働時間の長さとその成果が単純に比例するような定型的な業務ではそのようなことは難しく、生産性の向上は望めないわけです。

もう一つは、職場環境や企業風土が挙げられます。裁量労働を採用していても、実際には業務遂行に自由度がない場合や、長時間労働することを「がんばっている」として評価する、上司や同僚より早く帰りづらいといった企業風土があると、適用労働者が自律的に、効率よく働くことができません。裁量労働制は適する業務、適した職場環境がない企業が採用してもその効果を得ることは難しいのです。

 

意識、制度両面の改革が必要

日本では、前述のように労働者の業務内容が曖昧であったり、長時間会社にいることをよしとする風土がある企業は少なくなく、その意味では、裁量労働制や高度プロフェッショナル制度はまだ多くの日本企業になじまないといえるかもしれません。しかし、「働き方改革」が求められる昨今、働き方に対する企業風土を刷新して意識改革を行い、「プロセス」ではなく、「成果」を評価することで、個々の労働者に自律的な働き方を促す企業が増えるなど、労働に対する考え方も変わりつつあります。高度プロフェッショナル制度など新しい働き方が創設されることを機に、あらためて自律的な働き方について考える必要があるでしょう。

 

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藤原伸吾(ふじわら・しんご)

特定社会保険労務士。社会保険労務士法人ヒューマンテック経営研究所 代表社員。東京都社会保険労務士会理事。

M&Aにかかる人事労務面からの総合支援やIPO支援、トータル人事制度の企画・立案、諸規程の制改定など人事労務全般にわたるコンサルティングを手がけている。『基礎から学ぶ賃金・賞与・退職金の法律実務』(経営書院)、『人事労務管理 解決ハンドブック』(日本経済新聞出版社・共著)など著書多数。


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