ローソンの理念の先にある「コンビニ3.0」~私たちは"みんなと暮らすマチ"を幸せにします。
2025年8月28日更新

7年以上にわたってローソンの現場取材を続け、竹増貞信社長を中心とした大変革と業績改善を目の当たりにしてきた小川孔輔氏。この大変革を通して見えてきたものは、来るべき未来のコンビニ像であった。ローソンが描くコンビニの未来とはどういうものかうかがった。
INDEX
法政大学名誉教授 小川孔輔(おがわ・こうすけ)

1951年、秋田県生まれ。'74年、東京大学経済学部卒業、同大学院進学。'76年、法政大学経営学部研究助手、講師('77年)、助教授('79年)。'82年、カリフォルニア大学バークレー校留学。'86年、法政大学経営学部教授。2004年から、学部兼任で同校経営大学院イノベーションマネジメント研究科教授。'22年から同校名誉教授。日本フローラルマーケティング協会会長(創設者)、公益財団法人ランナーズ財団評議員。著書に『ブランド戦略の実際』『マネジメント・テキストマーケティング入門』(ともに日本経済新聞出版)など多数。
24時間営業、フードロス......社会課題と対峙する
2015年4月、ローソンの玉塚元一社長(当時)に電話をもらってから、2025年3月に拙書『ローソン』(PHP研究所)を上梓するまでの間、私は何十回もローソンを訪問し、経営者、従業員、オーナーたちを取材してきました。
そうした活動を続ける中で見えてきたのは、日本において「コンビニエンスストア」という業態が、1974年にセブン-イレブン1号店が東京都江東区豊洲にオープンしてから約50年の間に、「コンビニ1.0」から「コンビニ2.0」へとシフトし、今後の25年で「コンビニ3.0」と呼ぶにふさわしいフェーズに移行するだろうということです。
本記事では便宜上、コンビニ1.0の期間を1974年~99年頃までの約25年間、コンビニ2.0の期間を2000年~24年頃までの約25年間と定義して話を進めます。
コンビニ1.0をひと言でいえば、セブン-イレブン一強の時代です。1号店オープン当時、大学院生だった私の「コンビニは大きなビジネスに発展していくのではないか」という主張は研究室の先輩、同期に一顧だにされなかったほど、コンビニというビジネスは日本人にとって未知のものでした。
それでも、セブン-イレブンの国内店舗数は順調に増加し続け、1980年度に1000店舗を突破し、1990年度には4000店超まで成長、1991年にはアメリカのセブン-イレブンの運営会社であるサウスランド社の株式を取得し経営に参画。そして現在は国内2万店舗超、アジア、北米、オセアニア、ヨーロッパの店舗を合わせると8万店舗を数えるまでになっています。ちなみに、ファミリーマート直営1号店はセブン-イレブン1号店より早い1973年9月に埼玉県狭山市にオープンしています。ローソンの1号店である「桜塚店」(大阪府)のオープンは翌々年の1975年です。
次の「コンビニ2.0」のスタートは、ローソンが三菱商事と業務提携した2000年頃です。1998年には伊藤忠商事がファミリーマートの筆頭株主となっており、商社がコンビニ業界に進出する中、ローソンとポプラとの業務提携、セーブオン(ベイシアグループ)のローソングループへの編入、サークルK・サンクスのファミリーマートへのブランド統合等、業界再編が加速しました。現在、ファミリーマートの国内店舗数は1万6295店(2025年4月時点)、ローソンは1万4662店(2025年4月末時点)となっています。
コンビニ2.0で忘れてはならないのが、東日本大震災時にコンビニがライフラインとして機能した点です。飲食店やスーパーを含めてあらゆるサービスが壊滅的な被害が出る中、たとえば、ローソンの場合は政府の協力を得て自衛隊のヘリコプターを現地に飛ばして商品を補充するなど、迅速に判断し、行動に移しました。
現地のオーナーやクルーたちもまた被災者であるにもかかわらず、店舗の食材を活用して炊き出しを実施するなど、温かい食べ物を供給し続けました。
そうした活動の影響もあり、2010年代には、これまで若者でかつ男性の利用者が多かったコンビニの客層が、高齢者、そしてファミリーへと広がっていくことになります。
一方、コンビニを支えてきた24時間営業、FC(フランチャイズ)システムが生み出した「便利さ」の負の側面、フードロスといった社会課題に光が当たり始めたのも2010年代であり、そうした課題は「コンビニ3.0」に引き継がれていくことになります。
バトンは新浪氏、玉塚氏、竹増氏へと引き継がれる
「コンビニ3.0」、すなわちコンビニの未来について考える前に、ローソンの「竹増改革」についてお話ししたいと思います。なぜなら、コンビニ2.0時代にローソンがどんな種をまいてきたかを理解することが、そのままコンビニ3.0の姿を表現することになるからです。
コンビニ2.0のスタートと重なる2000年に、三菱商事ローソンプロジェクト統括室長兼外食事業室長に就任したのが、2002年に社長となる新浪剛史氏です。その後、そのバトンは玉塚元一氏、そして現社長の竹増貞信氏に引き継がれていくことになります。3人はそれぞれの強みを活かして、ローソンがコンビニ3.0へと進化することに尽力したわけですが、3人のトップに仕えた宮﨑純氏は次のように教えてくれました。
「新浪さんは、根本から改革を実行する変革者。玉塚さんは、周りを鼓舞して先頭で引っ張るスポーツチームの主将。竹増さんは、各自のミッションを導いて作品を完成させるオーケストラの指揮者」(『ローソン』より)
言い得て妙であり、新浪氏はオーナーをアントレプレナーに育てる「MO制度」や幹部養成を目的とした「ローソン大学」といった人を大切にする仕組みをつくりながら、「ローソンが社会にどう役立っていくか」を考えるマインドを根づかせ、その後の進化の礎を築きました。玉塚氏は本人が「お友達作戦」と呼んでいるように、他社のトップを巻き込みながら、いくつもの事業提携、経営統合を実現しています。
そして、新浪氏、玉塚氏が残した遺産を引き継いだ竹増社長が、コロナ禍という未曾有の危機を乗り越えながら、グループ全体をコンビニ3.0に向かって力強く牽引できているのは、「オーケストラの指揮者」タイプだからにほかなりません。
竹増社長のマネジメントを語るうえで欠かせないのが、松下幸之助の「人間は磨けば輝くダイヤモンドの原石」という人間観です。様々なインタビューで竹増社長はこの言葉を引用して、上司の心得として語っています。
ちなみに、竹増社長の部下の一人であり、グリーンローソンをオープンさせたインキュベーションカンパニープレジデントの吉田泰治氏は「普通の会社だったら、5回はクビになるくらいの失敗をしている」と語っています。
部下を信頼して任せて、よいところを伸ばしたいと考える竹増社長は、失敗を罰するのではなく、チャレンジを評価する経営者といえるでしょう。

「マチを幸せにする」という理念があってこそ
竹増社長の改革をひと言でいえば、「逆張りの経営戦略」です。ここではその戦略を実現し、成功を引き寄せた竹増社長の考え方について言及したいと思います。
竹増社長の愛読書の一つは『経営者になるためのノート』(柳井正著、PHP研究所)であり、「商売の原点。それは『お客様のために』です」という言葉に接し、自分たちはセブン-イレブンを見ていたが、セブン-イレブンはお客様を見ていたことに気づいたと言います。その気づきは、もともと人を大切に考えてきた竹増社長の考え方をさらに一歩進めることとなりました。
2020年、竹増社長は、一度中断していた変革プロジェクトを「ローソングループ大変革実行委員会」として再始動させました。たとえば、「売場大変革」はお客様のためであり、オーナー、クルーを含めたグループ全体の「働きがい」がアップし、「収益構造」が改善することがひいてはお客様、そしてマチを幸せにするという考えのもとに計画されています。
極めつけは、2024年に発表された「ハッピーローソン・タウン構想」というポンチ絵です。竹増社長は私とのインタビューで次のように答えてくれました。
「稚内での評価が、日本全国にある『オールドタウンの課題解決』にチャレンジできるチャンスになるのではないか。(中略)例えば、ドローンが飛ぶ。シニアの方と若い方たちが世代を超えてリアルでつながることはもちろん、デジタルを活用し、リモートでもつながり合う。そこには、保育園から老人ホームから医療クリニックまである。エンタメもある。本当に、皆がそのマチの中で楽しく暮らせるような、そういうような再開発というか、マチづくりができるのではないか」(『ローソン』より)
竹増社長の発想はローソンの企業理念「私たちは"みんなと暮らすマチ"を幸せにします。」と合致するものであり、コンビニ3.0の姿そのものだと私は考えています。
ちなみに、「稚内での評価」というのは、20年来、物流効率等の面から難しいと考えられていた最北端の過疎地である稚内への出店(2023年)を実現したことを指しています。綿密な市場調査に加え、マチを幸せにするという理念があったからこそ実現したプロジェクトと言ってよいでしょう。
竹増改革を進める中で、創業当時から取り入れてきた「値引き」と適正発注(AI発注)を組み合わせることによりフードロスを削減でき、利益も増やすことができました。店内の「まちかど厨房」では温かい弁当やサンドウィッチを提供することにより、丁寧な接客が差別化になり、リピート客を増やすことに成功しています。また、アバターを使ったリモート接客の実験に取り組み、オペレーターの新しい働き方をつくる準備を着々と進めています。顧客のベネフィットに寄り添い、地域社会に貢献できる便利さを追求しながら持ち越された課題を一つひとつクリアにして、根本からビジネスの仕組みを変えていったのです。

「コンビニ3.0」では業界間の境界がなくなっていく
ここまで、セブン-イレブンから始まるコンビニの歴史、ローソンの改革を通して、コンビニ1.0とコンビニ2.0を振り返ってきました。では、コンビニ3.0時代にはどのような変化が待ち受けているのでしょうか。
すでに起こっている変化であり、これからますます際立ってくると考えられるのが、コンビニ同士の競争ではなく、異分野との競争、あるいは協業です。業界間の境界がなくなっていくという表現のほうがわかりやすいかもしれません。
その萌芽はすでにあちこちに存在しています。たとえば、2005年に1号店を出店したイオングループの小型スーパー「まいばすけっと」。企業サイト掲載の「店舗数推移」を見ると、2015年には600店舗を超え、2024年にはその倍の1204店舗まで増加しています。小型スーパーとはいえ、生鮮食品を中心に生活に欠かせないものがある程度そろっていることに加え、なんといってもリーズナブルな価格設定となっているのは消費者にとって魅力的に映ることでしょう。
また、イオングループのウエルシアホールディングスとツルハホールディングスの統合が発表されるなど、業界再編が続くドラッグストアも見過ごせない存在です。すでにドラッグストアの一部では、薬、日用品、化粧品等に加え、冷凍食品や弁当を扱っている店舗もあり、生活インフラとして機能している点はコンビニと相通じるものがあります。
その意味でいえば、コンビニとドラッグストアは協業関係にあるととらえることも可能です。実際、ローソンの店舗の中には、ミズ芦屋中央病院前店や彦根八坂店のように調剤薬局を備えた店舗があったり、「ローソンツルハドラッグ杉並和田店」というかたちでドラッグストア機能を充実させた店舗も存在しています。
ほかにも、ローソンと無印良品とのコラボレーション、ファミリーマートのコンビニエンスウェア等々も、文具や衣料品業界とのキワが曖昧になりつつある好例といえそうです。
また、すでにマイナンバーカードを活用することで、コンビニで住民票の写し等、各種証明書の発行が可能です。今後、過疎化等で行政サービスの提供が難しくなる自治体が増えれば、その一部をコンビニが代替する可能性は十分あります。過疎化という文脈でいえば、ローソンが秩父(埼玉県)でKDDI等と共同で実験しているドローン配送は物流のラストワンマイル問題の解決策の一つです。現在、コンビニ各社の商品開発力やオペレーション能力は上位3社の間では大きく差がつかないレベルにまで拮抗しています。
では今後、何がコンビニ各社の成長のエンジンとなるのでしょうか。コンビニの経営者は他社にはない差別的な優位性をどこに求めていくべきでしょうか。結論を言えば、それは企業の「理念」であり、そこから導き出される未来に向けての「コンセプトの構想力」だと私は考えます。ローソンの竹増社長が、「ローソン・タウンの構想」の中で端的に表現しています。未来のコンビニは、マチで暮らす人々のため、地域のハブの役割を担うようになる。そうしたユニークなコンセプトは、簡単にはコピーができないものです。
取材・構成:池口祥司 写真・資料提供:オフィスわん
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本記事は、電子季刊誌『[実践]理念経営Labo』Vol.14から転載したものです。登録不要、全編無料でお読みいただけますので是非ご覧ください。





































































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