対立をどう防ぐ~松下幸之助「人を育てる心得」
2017年10月18日更新
ある一つの部門で、社員どうしあるいは課長どうしのあいだに対立が生じて、人間関係がスムーズにいかなくなるということがあります。
それは好ましくない姿であることはいうまでもありませんが、お互いが人間である以上、そのような姿が起こってくるのは一面やむを得ないでしょう。
したがって、ある程度は、そのような対立も是認しなければならないということになりますが、幹部社員としては、そのような対立ができるかぎり少なくなるような配慮を、人事面でしていくことが大切だと思います。
たとえば、一つの部門を三人の課長で運営するという場合、三人がまったく同じような性格で同じような実力の持ち主であれば、どうしても意見の対立が多くなります。ですから、一人は決断力に富む人、一人は協調性がある人というように、それぞれ持ち味の異なる三人を組み合わせて一つのチームを編成するようにする。そうすれば、そこに対立が少なく効率のいい運営ができるという姿が生まれてくるでしょう。そのような人事配置面での周到な配慮が、幹部社員には絶えず求められていると思うのです。
もっとも、自分の部下については、そのような配慮をすることで、ある程度スムーズな運営ができるとしても、むずかしいのは、自分自身を含めた幹部社員どうしの意見の対立にどう対処していくかということです。幹部社員どうしの意見の対立は好ましくないから、これを防ごうと思っても、自分もその一人だとなかなかうまくいきにくいという一面があります。しかし、その場合でも、やはり、それぞれの担う役割を異なるようにもっていくことが、一つの大きなポイントだと思います。
たとえば、幹部社員が三人でチームを組むという場合、三人がまったくの同格であると、やはりなかなかうまくいきません。だれか他の一人を最高責任者にして、その人の意見を絶えず尋ねながら事を決していくという行き方をとるか、自分が首脳者になって、他の二人の意見をよく聞きながら、その取捨選択を自分がしっかりするか、どちらかの行き方をとるようにすべきだと思います。
そのようなことに関連して、私は以前、ある人に一つの忠告をしたことがあります。その人は社長として活躍している人でしたが、私はその人に、「君のいちばんいかんのは、君の会社の幹部に、君の友人をおいていることだと思う」ということを言ったのです。
それはどういうことかといいますと、その社長は自分の友人をその会社の常務に迎えていたのですが、その点を私は心配したのです。つまりそうした場合には、まず「君がこれから私の会社に入ってもらうについては、これまでのように友人ではなく、私の部下になるんだという意識に立ってもらえるか。そういう意識をもってもらえるならば、喜んで君を迎えよう。しかし、友人としてぼくを手伝うという気持ちであるならば、この会社には入らず、外部にあって協力してほしいが、どうか」といった念を押しておく必要があると思うのです。
社長がそのような見識に立たず、曖昧なままで友人を常務にするというようなことをしますと、その友人は、常務として社長に対するというより、やはり友人として社長に接します。そうなると、たとえば意見が異なる場合には、大いに言うことが友人として正しい態度だというように考えますから、社長がこうしようと決断しようとしても、常務がなかなか納得せず、必要以上に意見の対立が生ずるといったことになりがちだと思います。
そういう弊害が感じられましたので、私はその社長に忠告をしたわけですが、自分自身も含めて人の組み合わせに十分な配慮をするということが、幹部社員にとってはきわめて大切ではないかと思うのです。