経営難の下請け工務店から成長企業に躍進~ALLAGI(アレジ)様
2025年10月21日更新

先代の創業から54年。大阪の梅田に本社を置き、注文住宅や分譲、中古リノベーションから不動産売買や介護事業まで10に及ぶ事業を展開するALLAGI(アレジ)株式会社。ギリシャ語で「変化」を意味するその社名のごとく、20年前には数名だった社員数が今や300名を超え、関西住宅業界の注目企業に発展を遂げた。その発展の根幹にあるのは、業績を上げるために人材育成をするのではなく、「人を育てることそのものが会社の目的である」という強い信念。小さな工務店だった頃から二人三脚で苦難を越えてきたという、兄の谷上元朗(「松下幸之助経営塾」第5期生)・弟の富彦(「松下幸之助経営塾」第12期生)両氏に話を聞いた。
ALLAGI株式会社 谷上元朗(たにうえ・もとあき)

1972年生まれ。1996年4月、薮内工務店入社。2001年4月、谷上工務店(現ALLAGI)入社。'10年4月、取締役就任。'13年4月、代表取締役就任。「松下幸之助経営塾」第5期卒塾。
ALLAGI株式会社 谷上富彦(たにうえ・とみひこ)

1973年生まれ。1992年年3月、谷上工務店(現ALLAGI)入社。'10年4月、取締役就任。「松下幸之助経営塾」第12期卒塾。
ALLAGI株式会社
本社:大阪府大阪市/創業:1971年、設立:1986年/事業内容:注文住宅事業、中古リノベ事業、介護事業、桧家住宅事業、分譲事業、不動産売買仲介事業、宅地分譲事業、FPサポートデスク保険事業
お客様の要望に素直に応え事業を多角的に展開
――2018年に弊社の雑誌『衆知』(3-4月号)で御社の活躍を取り上げたことがあります。その時から売上がさらに4倍も伸びていますね。注文住宅中心だった事業も多方面に広がっています。
谷上元朗氏(以下、元朗) 前期(2024年5月実績)の売上は125億円を超えており、今期は170億円を見込んでいます。当社の根幹である注文住宅、分譲住宅、中古リノベ(中古住宅のリノベーション)の3事業だけでなく、それ以外の事業もすべてが伸びています。
ご指摘の通り今では10に及ぶ事業を展開していますが、実はどの事業も、自分たちからやろうと思って始めたものではありません。どうすればお客様が喜んでくださるかを聞いているうちに、結果的に増えたのです。たとえば宅地分譲は、家づくりには土地もすごく重要だということで始めたし、中古リノベの場合は「予算があまりとれない」というお客様もたくさんいるということで立ち上げました。
谷上富彦氏(以下、富彦) 当社の事業の中でいえば、宅地分譲を積極的にやっている会社は少ないですね。どこのハウスメーカーも自社の住宅を売りたいので、他社に土地を卸したがりません。注文住宅は土地から探す人が7割なので、土地探しが仕事の大半を占めます。
元朗 「それなら当社の持つ土地を使ってくだされば」と考え、1年半ほど前から、宅地分譲事業を始めました。分譲住宅事業で常に土地を仕入れているので、当社には土地の在庫があります。自社で土地を抱え込むのが業界の"常識"なのですが、それはとらわれた固定概念ではないかと考え、他のハウスメーカーに土地を卸す事業を始めたのです。"常識"ではありえない事業のため、最初は怪しまれることもありました(笑)。
けれども、絶対に需要のある事業だと見込んで立ち上げました。特に大阪市内では、土地探しが非常に難しい状況にあります。見込んだ通り、今では年間の仕入数の4分の1を他社に卸して、とても喜ばれています。
当社に様々な事業が立ち上がったのは、お客様の要望に応えるだけではなく、各事業を担当する人材に恵まれたからです。人が育ち、責任者として実力をつけてきたからこそ、多くの事業に取り組めるようになりました。
――今や名実ともに目を見張るような躍進ですが、お父様が創業された谷上工務店時代には、経営が大変なときもあったと聞きます。
元朗 当時はハウスメーカーの下請けでしたから、毎年、元請さんから単価が下げられ、会社の決算は厳しく資金繰りも大変でした。これ以上は限界だというところで、下請仕事から注文住宅の受注営業に転身したのです。ここが当社の転機となりました。
ただ、思い切って転身はしたものの、私の前職はゼネコンの施工管理、弟(富彦氏)は谷上工務店の大工だったので、2人とも営業の仕事が未経験でした。そこで「他社はどうしているんだろう」と話し合い、姫路にある住宅会社が開催している見学会に出かけてみました。
最初は向こうも私たちを一般のお客と思ったようですが、車が県外ナンバーなのですぐばれて(笑)。「すみません。大阪の工務店なんですが、営業の経験がないので、教えてもらえませんか」と正直に打ち明けました。
富彦 そうすると、意外に教えてくれるんですよね。というのも、その会社は当社と境遇が似ていて、もともとはハウスメーカーの下請けだったそうです。「一緒やな」と。営業について教えてもらい、自分たちも「やっていける」と確信しました。それからは、さらに営業について学びを深めようと、外部の研修をたくさん受講しました。
元朗 初めて受けた商品化に関する研修が500万円。受講前に弟と喫茶店に入り、「何がなんでもやりきらんと終わりやぞ!」と言ったのを覚えています。それぐらい真剣な気持ちで学んだので、高額とはいえ、とても身につきました。そのほかにも研修を数多く受け、つぎ込んだ金額は相当にのぼりましたが、とにかく営業ができるようになりたいと必死に勉強しました。
今までの仕事人生で、その頃が一番苦労しましたね。営業も設計もコーディネーターも、全部できるようになりました。そこの苦労を乗り越えたからこそ、今があると思っています。

お客様の要望に応えるかたちで事業が拡大し、今ではX-mobileを入れた10の事業に及んでいる
業績を上げるための人材育成にあらず
――2017年には社名をALLAGI(アレジ)に変更され、理念にもとづく経営にますます力を入れておられます。
元朗 当社の企業理念は、「自分たちの事業を通して世の中をよくする。ライフスタイルの創造で世界を幸せに!」。経営理念は、「家づくりを通して、それに関わるすべての人々を幸せにする。」。社内のあらゆるミーティングでは、絶えずこの理念を念頭に、話をするようにしています。当社の根幹ですから。
富彦 当社では経営理念手帳もつくっていますが、それを使うよりも、普段の会話の中で理念を交えた話をするほうが圧倒的に多いですね。それだけ理念が浸透しているといえるでしょう。
――2006年は5人だった社員数が、今では300名にも。人を育てることを特に重視されていますね。
元朗 当社には「人を創り、世の中をよくする」という考え方があります。自分の足で立ち、自分の未来を切りひらいていける人をつくっていきたい。業績を上げるために人を育てるのではありません。人を育てることそのものが会社の目的です。
会社の成長に伴って人員も増え、近年は人件費が半年ごとに2割ほど上がっています。しかし、売上が目標に達していれば、何も問題ありません。むしろ、人手不足なぐらいです。人が育てば、おのずと業績は上がるものです。当社の事業や店舗が増えているのも、実際に人が育ってきたからだと考えます。
――どうしてそれほど人づくりに力を入れているのでしょうか。
元朗 まず、自分自身が父親を見て育ったということがあげられます。父は職人なので商売はうまくないのですが、お客様からは信頼される人でありました。私は考え方の違いから父とよく衝突したものの、そういう面では学ぶこともある父でした。
もう一つは「やればできる」「人間の力は無限である」という信念です。当初は世の中の壁にぶち当たり、努力をしても限界があるのではないかと弱気になった時期もありましたが、次第に営業のやり方を身につけてくると、不可能だと思っていたことが実現し、人の力は無限だと確信するようになりました。
それからというもの、誰にでも無限の可能性があると信じて、人づくりに力を入れてきました。ただ、人には個人差があります。初年度から成果を出す人もいれば、成果が出るまで時間のかかる人もいます。営業で芽が出ず、心が折れそうになるのを見て、他部署に異動させることもありました。しかし、異動先で芽が出るのを見ると、環境やきっかけが大事だということもわかります。
――採用難の時代にあって、応募者が非常に多いと聞きます。
元朗 新卒採用の場合、エントリー2500人、会社説明会参加者が1000人、4次選考までやって、今年40人採用の予定です。当社の風土に合うような方に入っていただけるよう、選考方法は工夫しています。もっとも、人数でみれば現状、新卒よりも中途採用者のほうが多いです。
今でも採用は難しいと感じることがあります。ある中途採用者の面接で、「ちょっと違和感を覚えるけれど、売る実力が非常にある」と思った人を採用したことがありました。しかし、会社の方向性とは考え方が違う方で、マネジャーを任せたところ、組織にほころびが出てしまったのです。
採用にあたっては、「成長したい」という思いがどれだけあるか、その点を重視していますが、加えて人間性もよくみています。自分のことばかり考えるのではなく、周囲のメンバーとともに成果を上げていけるような人望が求められます。
固定概念にとらわれず変化に対応できる人材に
――同業者の中での自社の強みは何だと考えますか。
元朗 当社のビジネスモデルに何かすごい特徴があるわけではありません。しかし他社に勝てるのは、同じビジネスモデルでも、やるべき当たり前のことを徹底してやっていることでしょうか。たとえば、お客様に返事をするとき、他社が3日かかるところを当社では1日で返す。集客の電話も他社が100件なら、当社では500件かける。そういう地道な行動の違いが業績の差に出ているのだと思います。
そのためには、そんな当たり前の行動ができる人を育てなければなりません。そこが非常に大事だと考えます。今、時代はものすごいスピードで変わっています。住宅業界もAIが設計し、3Dプリンターで家が建つ時代を迎えています。極論かもしれませんが、当社で家をつくる事業ができなくなることだって、ありえなくもないのです。
でも、住宅関連以外の事業でも普通にこなせる人がいれば、何も怖くはありません。徹底して当たり前の行動ができる人は、どんな時代にも、どんな事業でも、通用するのです。私はそういう人を育てていきたい。
ただ、過去の経験の蓄積にとらわれている人の場合、今やっている事業では活躍するとしても、ほかで通用するとは限りません。「今までの経験を生かしたい」とアピールする人の採用は厳しくなってくると思います。これまで結果を出しているから、それがいいやり方だと思っている。業界の状況はあっという間に変わっていきます。
したがって、みずからの固定概念を崩していけるような人材が求められます。面白いもので、経験豊富な社員よりも、新卒で採用した経験のあまりない社員にリーダーを任せたほうが、事業が伸びる場合があります。固定概念にとらわれず、いいと思えばすぐに変えていくだけの判断や行動ができるのですね。
もちろん、今までの経験を捨てろと言っても、簡単に捨てることができるものではありません。経験の蓄積は必ず残っています。ですから、気持ちだけでも新しい自分になって入社してほしいのです。そういう姿勢で仕事をしていれば、むしろかえって、経験の蓄積がいい方向に生かされたりするものです。
――工事現場では、「日本一の現場づくり」を使命として掲げておられますね。
元朗 私たち2人は工事現場の出身です。いい現場づくりをしたいという思いはずっとありました。日本一の現場をつくるため、年に1回、職人さんや協力業者さんに集まっていただき、研修会も開催しています。
富彦 お客様が現場に来られることもあるので、職人さんにあいさつの練習など、ロールプレイをしてもらっています。現場改革は、それこそ当たり前という感覚で、常に進めています。同じことを繰り返していては、進歩がないですからね。
互いの信頼あればこそ。今後は東京進出へ
――ご兄弟お2人で力を合わせていく秘訣は何ですか。衝突したりすることはないのですか。
富彦 社長と意見が違うことはありますね。でもトップを支えるという気持ちは変わりません。社長は毎年のように「今年が勝負」と言います(笑)。長いこと一緒にやっているので、社長が会社をどうしたいのか、こういうときはこう言うだろうな、というのは、あえて聞かずともわかりますね。
元朗 だから弟と一緒にやれてきたのではないかと思っています。弟は絶対、私に気を遣っています(笑)。ナンバーツーには、ナンバーツーとしての苦しみがあるのはわかっています。ナンバーワンである社長の苦しみと比較できるようなものではない。
「男兄弟ではうまくいかない」と言われることもありますが、兄弟がけんか別れしたら親も悲しみます。私も父が社長のときはよく言い争いをしていましたが、だからといって会社を出ようとか独立しようと思ったことはありません。トップである父がそう言うなら、そうするしかないと思ってやってきました。
この会社も私一人だったら、今のように発展していなかったでしょう。私は兄だから弟に負けるわけにはいかないので(笑)、営業も頑張りましたが、営業は昔から、社交的な弟のほうがうまい。組織が一時がたついたときも、「オレ行くわ」と立て直しに行ってくれました。信頼しています。

経営難も力を合わせて乗り越えた谷上工務店時代(前列左から2番目が創業者の谷上博夫氏。向かって右が元朗氏、左が富彦氏)
――今後の方針について教えてください。
元朗 当社の事業は大都市圏で通用すると思っているので、東京進出を考えています。すでに自由が丘に中古リノベの店舗を出しています。関西では新たに店舗を出す余地がなくなってきました。東京で新卒採用を始めることも決めています。
また、社員の賃金を高くできる会社にしていきたい。そのためにはお客様に高い価値を提供し、報酬をいただくしかありません。人づくりを通して、当社のすべての事業がもっと価値を上げていかなければならないと考えています。
取材・構成:荒木さと子 写真提供:ALLAGI
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