いうべきをいう~松下幸之助「人を育てる心得」
2015年11月16日更新

指導者はいうべきことをいうきびしさをもたなくてはならない
明治維新の彰義隊の戦いの時、官軍の指揮をとったのは、長州の大村益次郎であった。もともとこの戦いは、官軍の兵力が少なく、そのため、官軍首脳部にも慎重論が多かったのだが、彼は、十分勝算ありとして、武力討伐の方針を決めたのである。
さて戦いが始まると、最初は彰義隊の勢いもなかなかはげしく、官軍も苦戦をしいられ、特に薩摩藩が攻めた黒門口では最も激戦になった。そこで薩摩の一隊長が来て、増兵を頼んだが彼は許さなかった。その隊長は憤然として、「あなたは、薩軍に全員死ねとおっしゃるのですか」といったところ、彼は「もちろん、その通りだ」と答えた。それを伝え聞いた薩摩勢は、「よしそれならば」ということで全員決死の覚悟で獅子奮迅の働きをし、ついに黒門口を占領したという。
彼はまた、これに先立つ第二次長州征伐の際にも、川を前にして進軍を躊躇している味方を、「全員溺れろ」と叱咤激励して奮起させ、大勝利をおさめたともいわれている。
まことにきびしいといえばきびしい話である。しかし、勝つか負けるかというはげしい戦争の中で、「死ねとおっしゃるのですか」といわれて、「いや、別にそういうわけではない。気を悪くしないでくれ」などと相手の機嫌をとっていたのでは、士気を奮い立たせ、勝ちを制することはとてもできるものではない。大村益次郎はすぐれた軍略家であり、彰義隊との戦いも、全体としては彼の巧みな戦術によって見事な勝利を得たといわれるが、個々の局面では、こうしたきびしさが官軍を奮い立たせ、大きな戦果をあげたといえよう。
これは戦争という特殊な状況下のことであるが、やはりどんな場合でも指導者はいうべきことをきびしくいうことが必要だと思う。いうべきことをいわず、いたずらに迎合していたのでは、一時的に人気を博することはあっても、それは人心を弛緩させ、結局は大局をあやまることになってしまう。
かつてアメリカのケネディ大統領は、その就任演説で、「アメリカ国民諸君、今は国家が自分に何をしてくれるかを問うべき時ではない。自分が国家に対して何ができるかを問わねばならない時である」と国民に訴えた。
指導者たるものはいかなる時にあっても、このケネディのように、いうべきをいい、訴えるべきを訴えるきびしさを一面にもたなくてはならないと思う。
【出典】PHPビジネス新書『指導者の条件』(





































































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