ほめる~松下幸之助「人を育てる心得」
2015年12月26日更新

指導者はほめるべき時にほめることを惜しんではならない
加藤清正の家老に、飯田覚兵衛という武勇軍略にすぐれた士があった。その覚兵衛は、清正が死に、加藤家が改易になったあと、再び仕官することなく、京都で隠居生活を送ったそうだが、ある時こういうことを語ったという。
「自分が初めて戦場に出て、軍功を立てた時、多くの朋輩が敵の弾に当たって死ぬのを見て、"恐ろしいことだ、もう武士はやめよう"と思った。ところが帰陣するや否や清正公から、"きょうの働きはまことに見事であった"と刀まで賜ったので、やめそびれてしまった。その後も合戦に出るたびに、"今度こそ"と考えるのだが、いつも時を移さず陣羽織や感状を与えられ、周囲の人もそれを羨んだり、ほめそやすので、それに心ひかれてとうとう最後まで自分の本心通りにいかず、ご奉公してしまった。考えてみれば、清正公にまことに巧みに使われたと思う」
飯田覚兵衛という音に聞こえた勇者でも、戦のたびに、その恐ろしさに武士をやめようと考えたというのは興味深いことだが、それが清正にほめられ続けた結果、とうとう侍奉公を続けてしまったというのは面白いことだと思う。人間というものは、ほめられることによって、それだけ感激もし、発憤もするものなのだということであろう。
もちろん、清正という人は誠実な人情のあつい人だから、単に手練手管でほめたのではないと思う。やはり覚兵衛の働き、軍功が抜群であったから、心からそれをほめたのであろう。それも、覚兵衛が"時を移さず"といっているのを見ると、陣地に帰ってきた覚兵衛の顔を見るなり、「きょうの戦いぶりは全く立派であった、他の範となるものである」というようにほめ、その場でほうびや感状を与えたのだろう。その気持ちが胸にビンビンひびいてきて、覚兵衛も終生忠誠を尽くしたのだと思う。
やはり人間だれでもほめられればうれしい。自分の働きが人にみとめられないほど淋しいことはないと思う。ほめられればうれしくもあり、自信もつく。今度はもっと成果をあげてやろうという意欲も起こって、成長への励みともなる。
もちろん、失敗や過ちに対しては、大いに叱ることは必要である。しかし、何かいいことをした時、成果をあげた時には、心からの賞賛とねぎらいを惜しまないことが、指導者としての一つの要諦であろう。





































































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