ジャック・ウェルチ「人への投資の収益は永遠に続く」~名経営者の人材育成
2016年3月 2日更新
「選択と集中」で知られる、GEの前CEО ジャック・ウェルチは、厳しいボスであり、また人づくりの大切さを誰よりもよく知っていた経営者でした。桑原晃弥氏のコラムをご紹介します。
ジャック・ウェルチの「選択と集中」
スティーブ・ジョブズが2000年代最高の経営者の一人とすれば、GEの前CEОジャック・ウェルチは20世紀を代表する経営者の一人と言っていい。
GEは発明王エジソンが1876年に創設した会社に由来している。スタートは電機メーカーだったが、現在では電気製品だけでなく、航空エンジン、金融、医療、電力、放送などで各業界をリードする複合企業となっている。ウェルチは1981年に45歳でCEОに就任しているが、当時、時代遅れになりかけていたGEの組織と事業を改革し、売り上げ、利益、時価総額を大きく伸ばしたことで知られている。
ウェルチの最も有名な戦略の一つは「選択と集中」だ。当時のGEには43の事業部門と350の事業があったが、実際には15の事業が収益全体の90%を稼いでおり、他の事業の競争力は極めて低かった。そこでウェルチは「市場でナンバーワンかナンバーツーの事業だけで勝負するGEにしよう」と多くの事業に「再建か閉鎖か売却か」を迫り、結果的に多くの事業を切り捨て、社員も44万人から26万人へと大幅に削減している。
学習する文化、やりがいを持って仕事に臨める風土づくり
こうした苛烈さから「ニュートロンジャック」とも批判されたが、にもかかわらずその後のGEが世界最強企業へと変身することができたのは世界中からすぐれたアイデアを求める「学習する文化」をGEに持ち込み、「3人いれば、3つのアイデアが欲しい」と、社員も管理職も関係なしに一人一人がアイデアを出し、やりがいを持って仕事に臨める風土をつくり上げたことが大きいと言われている。
それ以前のGEはエジソンに由来する会社だけに、アイデアは自分たちでという自前主義が強かったが、ウェルチはアメリカの企業だけでなく、日本のトヨタやキヤノンといった企業で生み出されたアイデアにも注目、取り入れるべきものはどんどん取り入れている。さらにアイデアを立案するのはエリートで、普通の社員は実行するだけという文化から、「数十万人の人々が、ある時は教師になり、ある時は生徒になって教え合うアイデアと学習が煮えたぎる」企業へと大きく舵を切っている。
実行する社風への転換
とはいえ、企業は学ぶだけでは強くはなれない。ウェルチが何より重んじたのは「実行する社風への転換」だった。会議ではアイデアの価値に対する議論は全体の10%であり、残りの90%は「アイデアの活用法」についてだった。ウェルチは言う。
「競争に勝つための究極の武器は、学習する能力と、学習したことを取り入れて素早く行動に移す能力だ」
何よりも実行を重んじるだけにウェルチが社員に求めたのは、失敗を恐れることなく高い目標に向かってフルスイングすることであり、管理職には「賢い管理者でいるだけでは十分ではない。人の気持ちを燃えさせなければならない。常に前進させるのだ」と人に活力を与え、全員を仕事に参加させる「情熱」を求めていた。
そして人づくりの大切さを誰よりもよく知っていた。こう話している。
「最も重要な仕事は、部下を『育てる』こと、部下の夢の実現にチャンスを与えることだ」
「人材開発は毎日行うべきこと、日々の仕事の一部でなければならない」
強い企業であるためには、日々、人を育て、チームを強くしなければならないというのがウェルチの考え方だった。ある時、研修センターのために多額の資金が必要になり、担当者が費用対効果を金額で示したところ、ウェルチはその金額に×印をつけて、こう書きなおした。「無限」。人への投資の収益は永遠に続くという意味だ。
ウェルチは厳しいボスだが、人の持つ可能性を誰よりも信じる経営者でもあった。
参考文献:『ジャック・ウェルチ』(ジャック・ウェルチ、ジョン・A・バーン著、宮本喜一訳、日経ビジネス人文庫)
桑原晃弥(くわばら・てるや)
1956年、広島県生まれ。経済・経営ジャーナリスト。慶應義塾大学卒。業界紙記者、不動産会社、採用コンサルタント会社を経て独立。人材採用で実績を積んだ後、トヨタ式の実践と普及で有名なカルマン株式会社の顧問として、『「トヨタ流」自分を伸ばす仕事術』(成美文庫)、『なぜトヨタは人を育てるのがうまいのか』(PHP新書)、『トヨタが「現場」でずっとくり返してきた言葉』(PHPビジネス新書)などの制作を主導した。
著書に『スティーブ・ジョブズ全発言』『ウォーレン・バフェット 成功の名語録』(以上、PHPビジネス新書)、『スティーブ・ジョブズ名語録』『サッカー名監督のすごい言葉』(以上、PHP文庫)、『スティーブ・ジョブズ 神の遺言』『天才イーロン・マスク 銀河一の戦略』(以上、経済界新書)、『ジェフ・ベゾス アマゾンをつくった仕事術』(講談社)、『1分間アドラー』(SBクリエイティブ)などがある。