ジェフ・ベゾス「新しいことに挑戦するかどうかで迷ったなら、『かまうもんか』と自分に言い聞かせろ」~名経営者の人材育成
2016年3月 9日更新
桑原晃弥氏の「名経営者たちの人材育成論に学ぶ」シリーズ。今回はアマゾンを創業したジェフ・ベゾスのエピソー
イノベーションに挑戦する企業文化
1994年にアマゾンを創業(事業開始は95年)したジェフ・ベゾス(当時30歳)はプリンストン大学を首席で卒業、就職した企業では会社史上、最も若い副社長に就任するなどエリートと呼ぶに相応しい経歴の持ち主だ。
それだけに創業当初から採用する人材に求めるハードルはとても高かった。但し、それは学力や学歴だけでなく、新しいことに挑戦する意欲にあふれた、一緒にいて楽しいと感じる人たちだった。理由はイノベーションに果敢に挑戦する企業文化こそが競争力の源泉と考えており、そのためには初期の採用こそが大切だと信じていたからだ。こう話している。
「企業文化は30%が起業家が心に描いた通りの姿、30%が初期の社員の質、残りの40%は偶然の作用の混合文化」
社会に貢献し、たくさんのファンのいる会社は、いい企業文化があり継承されている。一方、たとえ急速な成長があっても、そこから衰退する企業には良き企業文化がないというのがベゾスの考え方であり、だからこそ初期の採用にこだわり、良き企業文化を築き上げることが大切だと考えていた。
そのうえで少しずつ基準を引き上げ、今日雇われた人が5年後には「あの時採用されてよかった。今ならとても採用してもらえない」と思える企業にするのがベゾスの願いだった。
「まず、やってみよう」
こうした厳しい基準で採用した人たちにベゾスが何より求めたのは、やる前から「イエス、ノー」を判断するのではなく、「まず、やってみよう」という実験の精神だった。こう話している。
「社員には、あえて袋小路に入り込んで、実験しろとはっぱをかけている。実験の回数を100回から1000回に増やせば、イノベーションの数も劇的に増える」
「新しいことに挑戦するかどうかで迷ったなら、『かまうもんか』と自分に言い聞かせろ」
新しい挑戦や難題を前にすると、「できない」「ノー」から入る人が少なくない。そんな時、ベゾスは「ノー」ではなく、「イエス」から入るように勧めた。理由は「イエス」から入れば、次に考えるべきは「どうすればできるか」だけになるからだ。
「ピザ2枚分」少人数のプロジェクトチーム
ベゾスはこうして採用した精鋭たちで「ピザ2枚分」と呼ぶ少人数のチームをつくりプロジェクトを進めている。ピザ2枚でお腹が膨れるくらいの人数で、一人一人が自由にアイデアを出し、いろいろ試すことのできる環境をつくる。そうすればイノベーションが起こりやすくなり、変化のスピードも速くなるというのがベゾスの流儀である。
優れた社員とは「顧客にとって良い選択をする」人
こう見てくるとアマゾンは典型的なエリート集団に思えるが、その一方でベゾスは自社に顧客志向の文化を植えつけるために数千人に及ぶ管理職全員に毎年2日間、コールセンターでの訓練に参加するよう義務付けてもいる。アマゾンのサービスを顧客が実感するのは配送とコールセンターだ。どちらか一つにでも不備があれば誰もアマゾンを利用しようとはしなくなる。
「コールセンターの業務は全員ができなくてはならない」がベゾスの考え方であり、配送とコールセンターを通して顧客との約束を守ることこそがアマゾンの成長を後押しすると考えている。どんな企業も自らの力だけで成長できるわけではない。企業に成長をもたらし、社員の職を保証するのは満足してサービスを利用してくれる顧客だけだ。ベゾスにとって、優れた社員とは能力の優秀さに加え、「顧客にとって良い選択をする」人を指すのである。
参考文献:『ジェフ・ベゾスはこうして世界の消費を一変させた』(桑原晃弥著、PHPビジネス新書)、『アマゾン・ドット・コム』(ロバート・スペクター著、長谷川真実訳、日経BP社)
桑原晃弥(くわばら・てるや)
1956年、広島県生まれ。経済・経営ジャーナリスト。慶應義塾大学卒。業界紙記者、不動産会社、採用コンサルタント会社を経て独立。人材採用で実績を積んだ後、トヨタ式の実践と普及で有名なカルマン株式会社の顧問として、『「トヨタ流」自分を伸ばす仕事術』(成美文庫)、『なぜトヨタは人を育てるのがうまいのか』(PHP新書)、『トヨタが「現場」でずっとくり返してきた言葉』(PHPビジネス新書)などの制作を主導した。
著書に『スティーブ・ジョブズ全発言』『ウォーレン・バフェット 成功の名語録』(以上、PHPビジネス新書)、『スティーブ・ジョブズ名語録』『サッカー名監督のすごい言葉』(以上、PHP文庫)、『スティーブ・ジョブズ 神の遺言』『天才イーロン・マスク 銀河一の戦略』(以上、経済界新書)、『ジェフ・ベゾス アマゾンをつくった仕事術』(講談社)、『1分間アドラー』(SBクリエイティブ)などがある。