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裁量労働制・高度プロフェッショナル制度は生産性向上につながるのか

裁量労働制・高度プロフェッショナル制度は生産性向上につながるのか

(2018年5月31日更新)

 
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「働き方改革」のなかで検討されている裁量労働制・高度プロフェッショナル制度は、生産性向上につながるのでしょうか。生産性向上とは何か、という定義をふくめて、わかりやすく解説します。

 

 

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「働き方改革関連法案」のなかでも注目を集めるのが…

今の通常国会で審議中の「働き方改革関連法案」(働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律案)。時間外労働の上限規制や同一労働同一賃金の制度化、高度プロフェッショナル制度の創設などの改正事項を含み、政府が今国会において最重要と位置づける法案です。

当初、法案には「高度プロフェッショナル制度の創設」とともに、「裁量労働制の適用拡大」が盛り込まれる予定でした。最終的に同制度の拡大は法案から削除されましたが、法案提出前からその内容が話題となったこともあり、裁量労働制や高度プロフェッショナル制度など、労働者に仕事の配分や進め方を委ねる働き方が再び注目を集めています。両制度については、対象労働者が自律的に働くことで生産性向上が期待できるとの意見がある一方で、長時間労働を助長するため生産性向上は見込めないという意見もあり、様々な議論を呼んでいます。今回は、裁量労働制および高度プロフェッショナル制度(以下「裁量労働等」といいます)が生産性向上につながるのかについて考察します。

 

生産性向上とは?

生産性とは、投入(input)に対する産出(output)の割合を示したものです。

 

生産性=産出(output)/投入(input)

 

生産性には、「投入」に関して資本に着目した「資本生産性」や、労働に着目した「労働生産性」などがありますが、裁量労働等の生産性向上を考える上では、「労働生産性」を見ることになります。労働生産性とは、労働者1人当たり、あるいは労働1時間当たり(投入)で、どれだけの付加価値(産出)を生み出したかを示す割合です。つまり、「労働生産性が向上する」ということは、同じ労働量(input)でより多くの付加価値(output)を生み出すか、これまでと同じ付加価値(output)を、より少ない労働量(input)で生み出すことのいずれかにより実現することとなります。

 

裁量労働等の特徴

生産性向上の具体的な論点に入る前に、裁量労働等の特徴について簡単に述べておきます。

裁量労働制とは、みなし労働時間制の一つで、業務の性質上、その遂行の方法を大幅に労働者の裁量に委ねる必要があるため、業務遂行の手段および時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をすることが困難な一定の業務に就かせた場合に、実労働時間にかかわらず、あらかじめ労使協定または労使委員会の決議により定めた時間働いたものとみなす制度です。裁量労働制には、研究・開発業務やデザイナーなど、厚生労働省が定める一定の対象業務に対して適用する「専門業務型」と、事業運営上の重要な決定が行われる企業の本社などにおいて、企画、立案、調査および分析を行う労働者を対象とする「企画業務型」があります(詳細は本コラム「『裁量労働制』をポイント解説~対象業務は? 導入手続きはどうなる?」参照)。

これに対して高度プロフェッショナル制度とは、働き方改革関連法案に盛り込まれている新しい制度で、一定額以上の年収があり、時間で働くことがなじまない高度の専門的知識を必要とする業務に従事している労働者について、本人の同意や労使委員会の決議を要件に、労働基準法における労働時間、休憩、休日、深夜の割増賃金等の適用を除外する制度です。

両制度は、労働時間を一定時間とみなす、あるいは労働時間管理の対象外とすることで、会社の定めた所定労働時間等にとらわれず、労働者が自律的に、効率良く働くことを可能にする制度です。

 

生産性向上につながるケース

それでは、裁量労働等の導入によって、生産性向上につながるのはどのようなケースでしょうか。前述のとおり、労働生産性は「投入(input)」に対する「産出(output)」の割合です。たとえば、専門業務型裁量労働制の「研究・開発業務」のように、独創性や創造力が求められる職種の場合、実際に労働した時間と仕事の成果は必ずしも比例しません。裁量労働制の導入によって、労働者自身が働く時間や仕事の進め方などを自律的に決め、効率的に働くことができれば、実際に働く時間が減少、つまり「投入(input)」が減ることが期待できます。「投入(input)」が減れば、「産出(output)」が変わらなくても労働生産性は向上しますが、研究・開発業務の場合は、効率的な働き方をすることによって、労働時間が短縮される一方、労働者の創造性が発揮され、高付加価値商品が生まれるなど、「産出(output)」が大幅に増える可能性も考えられます。この場合、労働生産性は大きく向上することになります。このように、労働者が自律的な働き方をすることにより「産出(output)」を大幅に高めることが可能な職種においては、裁量労働等の適用によって、生産性向上が期待できるといえるでしょう。

 

「自律的な働き方」が鍵を握る

しかし、実際は、裁量労働制の適用者が長時間労働となっているケースも見受けられるのが現実です。裁量労働制が「長時間労働の温床」と言われたり、適用拡大に反対論が根強いことも、そこに起因しています。しかし、これは裁量労働等の制度そのものの問題ではなく、制度が適用されている労働者の業務や働く環境に問題があるといえます。制度に適していない業務に適用していたり、業務遂行に自由度がなく、適用する環境が整っていない場合は、「産出(output)」を増やすために長時間労働をしてしまうことが十分考えられます。このように、裁量労働等を導入したからといって生産性向上が見込めるわけではありません。制度の趣旨に沿った職種に適用すること、また、適用労働者の自律性を確保することが重要なのです。

 

 

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藤原伸吾(ふじわら・しんご)

特定社会保険労務士。社会保険労務士法人ヒューマンテック経営研究所 代表社員。東京都社会保険労務士会理事。

M&Aにかかる人事労務面からの総合支援やIPO支援、トータル人事制度の企画・立案、諸規程の制改定など人事労務全般にわたるコンサルティングを手がけている。『基礎から学ぶ賃金・賞与・退職金の法律実務』(経営書院)、『人事労務管理 解決ハンドブック』(日本経済新聞出版社・共著)など著書多数。


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