リーダーが学びたい「メタ認知」「自己観照」~神経科学で自分と組織の成長を促す力を読み解く
2025年9月18日更新

松下幸之助は自己観照の重要性を繰り返し説いてきたが、はたしてビジネスリーダーにとって、自己観照、そして似た概念でもあるメタ認知が、どういう意味を持つのだろうか。神経科学の分野で、脳と人の成長の研究に携わるDAncing Einstein代表の青砥瑞人氏に、話をうかがった。
INDEX
株式会社DAncing Einstein代表 青砥瑞人(あおと・みずと)

日本の高校を中退後、米国大学UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)の神経科学学部を飛び級卒業。脳の知見を、医学だけでなく人の成長に応用し、かつAIの技術も活用する、NeuroEdTech(R)とNeuroHRTech(R)という新しい分野を開拓。同分野において、いくつもの特許を取得する脳神経発明家。新技術も活用し、ドーパミン(DA)があふれてワクワクが止まらない新しい学び体験と教育・共育をデザインすべく、株式会社DAncing Einsteinを2014年に創設。学校、企業、社会人などの垣根を越えた人の成長とウェルビーイングのデザインに携わっている。著書に『BRAINDRIVEN』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)など。
「メタ認知」は脳に自分の情報を書き込むことから
松下幸之助氏は生前、自らを客観的に観察し、能力や適性を正しくつかむ「自己観照」の重要性を、折に触れて説きました。
私が研究対象としている「メタ認知」も、一般的な意味合いで言うと「自己と向き合い、客観的に評価すること」ですから、少なからず共通性が見られます。
これをさらに、神経科学上の観点から、私が幸之助氏の言葉をひもといて感じるところも踏まえつつ、両者の関係性を考えて論じてみたいと思います。
科学的な定義としてのメタ認知は、単なる自己客観視にはとどまりません。客観視したうえで、自分自身の情報を「脳に書き込んでいくこと」を指します。これを繰り返して、「記憶痕跡」を脳に刻んで、初めてメタ認知といえるのです。
なぜ、書き込むことが必要なのか。それは、記憶というものが非常に消えやすいからです。
英単語一つとっても、人は何度も書いたり、読み上げたりしなくては覚えられませんね。まして、自分自身となると情報量は膨大です。それを意識的に書き込んでいる人はめったにいないでしょう。真の意味でのメタ認知をしている人は、そう多くはないといえます。
さて、このように科学的にとらえ直したメタ認知を自己観照と比較すると、新たな共通性や差異が見えてきます。
幸之助氏は、自己観照を「書き込む」ことだとは語っていませんが、解釈によっては重なるところがあります。著書『素直な心になるために』(PHP研究所)には、自己の思想や価値観を人に伝えることの大事さが語られています。それは「衆知」、つまり互いの知を高めるという目的もさることながら、語ることによって自分の記憶に残すという作用も確実にあるでしょう。
違いを挙げるとしたら、自己観照の対象は、メタ認知よりもさらに広範囲だと感じます。多様な角度から自己を、そして世界を俯瞰し、会社・社会・世の中全体に対してどうあるべきか考えをめぐらせるのです。メタ認知も、極めればこの領域に達するでしょう。
両者はいずれも、リーダー層の方々にとって不可欠です。自己を知らない人、すなわち脳に自分の情報を書き込めていない人は、周囲の情報や事情に流される危険があります。
逆にいえば、自己を知ると、明確な判断と意思決定の基準が形成されます。外界にどう働きかけるか、ひいては「どう生きるか」の指針もできます。つまりは、自分自身と組織の成長を促す力が備わるのです。
「立志」――意図的に注意の方向性をマネジメントする
メタ認知ないし自己観照をするとき、脳では何が起こっているのでしょうか。これについては、自己認識の2つの種類についてお話しする必要があります。
1つ目は、自分について「なんとなく」考えをめぐらせる状態です。不快な出来事や、興味のある情報など、何らかの刺激を受けたときに「自分はこうだ」という考えが脳内に展開されます。このとき脳内で主に使われるのが「デフォルトモードネットワーク(DMN)」です。ネットワークとは、脳の部位の連動的な働きのこと。DMNでは、脳の中で自然に「重要」と感じたものに注意が向きます。
これは生物として欠かせない機能です。快にせよ不快にせよ、そこに注意を払うことなしに人は生存できません。しかし、不快への注意が集中するのは問題です。もともと脳には「ネガティビティバイアス」といって、負の情報に注意が向きやすい傾向があるのです。
そこに拍車をかけるのが、今の世の中のありようです。メディアは悲劇的なニュースやゴシップを連日発信し、ネット上では無数の人々が誰かの至らなさを指弾しています。働き手としても、人は絶えず評価や比較にさらされます。そうした中で負の情報ばかりを「なんとなく」脳内にめぐらせていると、脳も負の状態になってきます。
そこで活用すべきなのが、2つ目の自己認識。メタ認知や自己観照による、「意図的な」注意の向け方です。
人は、注意の方向性を自らマネジメントできます。外界のことであれ自分のことであれ「これに注意を向けよう」と思えば、それができます。
この意図を幸之助氏の言葉に当てはめると、「立志」となります。個人的な目標、理想とする自分像、会社が目指す姿など、何であれ「こうありたい」と決めたことは、すべて立志です。
立志を伴って自己と向き合うときに脳で使用されるのは、「セントラルエグゼクティブネットワーク(CEN)」です。これは刺激に対して受動的に働くDMNとは違う、能動的な営みです。意図的な方向づけをし、CENを働かせることで、自らの内側に、ありたい自分をつくることができるのです。
つかみづらい「感」がパフォーマンスを高める
当然のことながら、「ありたい自分」像は人によって違います。メタ認知や自己観照において、何に目を向けるかも千差万別です。そこも各自、立志してディレクティングしていくわけですが、その糸口は2つあります。
1つ目は「フィルター(Filter)」です。内側で記憶しているこれまでの経験に加え、外側の情報、すなわち書籍等のメディアや世の事象から、重要だと思うものを取捨選択することです。
2つ目は「反応(Rxn)」です。反応には、言語的反応性と非言語的反応性があります。前者は、ある情報に対して「こう考えた・こう行動した」と言葉で説明できるもの。対して後者は、言語化できないものです。たとえば、自転車の乗り方を言葉で説明するのは至難ですね。運動は総じて、非言語的反応性に該当します。
ちなみに、メタ認知の達人であるイチローさんは、「自分自身がどう感じて、どのように打てているかを認識できたとき、超一流の仲間入りができた」と語っています。
「どのように打てているか」のみならず「どう感じたか」と言及しているのがポイントです。この「感」も非言語的反応であり、メタ認知・自己観照においては、「感」をつぶさに観察していくことが欠かせません。
ビジネスではえてして、感情は非合理的で排すべきもの、と見なされやすいです。裏を返すと、言語や数字などの合理的なものは把握しやすく、処理しやすいということです。
ところがこちらは近い将来、AIに取って代わられる可能性のある領域です。言語情報をロジカルに体系立てる力も、持てる情報量も、機械のほうがはるかに上です。
しかし、機械には「感」はありません。このつかみづらい領域こそが、人間の強みです。「感」は人間の思考や行動の動機になります。世の営みの奥にも無数の「感」がうごめいています。自らの感じ方を知り、世を動かす感情を読む力は、ビジネスにおけるパフォーマンスを大いに高めるでしょう。
脳に繰り返し書き込んで「記憶痕跡」をつくる際も、「感」は大きな役割を果たします。
感情が動くときにこそ、記憶は強くなります。時間が経っても思い出せる印象的な事柄とは、イコール感情が動いた事柄です。「どう感じたか」に意識的に思いをめぐらせることで、脳に記憶が蓄積されやすくなります。
ただし前述の通り、DMNモードで受け取る感情は負に傾きやすく、これが蓄積された場合はかえってパフォーマンスが下がる恐れがあります。
ですからCENモードを働かせるときは、意図してプラスの感情に目を向けることが大切です。自分が何にワクワクするのか、どんなことに好奇心が刺激されるのか。そこに思いをめぐらすとき、脳内では高い集中力が生じ、記憶痕跡化を促すでしょう。

できると信じる脳の形成には「とらわれない」ことが大切
記憶痕跡化は、脳内の細胞や分子レベルで起こる構造変化です。メタ認知も自己観照も、一度や二度繰り返したところで、脳は簡単には書き換わりません。
ですから、とにかく続けることが肝要です。いわば筋トレに近いイメージです。何度も繰り返すことでより太い筋肉がつくられるように、神経細胞も、継続によって厚みを増していきます。
一方で、自己観照は筋トレなどより「うまくできているか否か」がつかみづらくもあります。本当に客観視できているか、不安なこともあるでしょう。
先に答えを言いますと、できていません(笑)。そもそも人間という「主体」が完全な客観視をすることが不可能です。その不可能性をも認識したうえで、いかに客観性を高められるか。メタ認知はその練習であり、完成形のない挑戦です。
他方、客観性の不足はスタート地点の追い風にもなります。何かを始める前に「できるような気がする」と感じることがありますね。この根拠なき自信があるからこそ、人は「やってみよう」と思えるのです。
その勢いで、まずは始めてしまいましょう。自分と向き合い、こうありたいと思う自己自身の思考や感覚に従って、行動をしましょう。
すると次は十中八九、自信を否定される段階が来ます。行動しても良い結果が出なかったり、自己認識とは違う面を他者から指摘されたりと、現実世界のフィードバックは手加減なしです。多くの人がここで自信喪失し、継続を放棄します。
この局面を越える秘訣は何か。幸之助氏は、それも教えてくれています。
幸之助氏は自己観照を語る際、しばしば「とらわれない」ことの大事さを説きました。それは客観視を保つための知恵であり、科学的観点でいうと、ネガティビティバイアスに引きずられないことです。
自信喪失時は、注意がネガティブ要素に傾きます。その結果「失敗だ、自分には無理だ」と思ってしまうわけですが、この「成功か失敗か」という着目点こそが「とらわれ」です。
注意を向けるべきは、一回一回の成功失敗ではなく、「前より」どれだけ変化できたかです。時間軸を俯瞰して、成長の跡に目を向けることが大事なのです。
そしてもう一つ、コツがあります。変化や成長に気づいたら喜ぶだけで済まさず、「できなかったとき」のことを思い出すのです。
「できなかった」記憶と「できた」記憶は、脳内の保存場所が違うため、喜びを感じているときも、できなかった記憶は手つかずで残されます。しかし、喜びながら同時にできなかった記憶を引き出すと、異なる場所にある神経細胞が同時に発火します。
神経科学には、「Neurons that fire together,wire together(同時に発火した神経細胞どうしは結びつく)」という原理があります。この結びつけを、変化を感じるたびに行ないましょう。
繰り返していれば、やがて「できないことも、できるようになるはず」と信じる脳が形成されていきます。
これはスタンフォード大学のC・ドゥエック教授が提唱する「グロースマインドセット」にあたるものです。教授の定義では、「自分自身の能力や知能が変化することの理解」。この理解が脳に刻まれたとき、人は挑戦への意欲のみならず、簡単に投げ出さない継続力をも獲得するでしょう。
チームに共有の価値を提供するのがリーダーの役割
最後に、メタ認知・自己観照が、リーダーとして組織を動かしていく際にどう作用するか、させていくべきかをお話ししましょう。
前提として持つべき心得は、メタ認知や自己観照をしてもなお、完全な客観視はできないということです。自分をどう認識するかも、自分の何を観照するかも、ありたい自己像も、仕事における信念や理念や判断軸も、最終的には自分の価値観に依拠する、一つのバイアスです。その事実をも客観視したうえで、自分の意思決定や行動をすることが大切です。
リーダーが自己観照をして導き出した信念や理念や判断軸を周囲に言葉で伝えるかどうかはそれぞれの判断ですが、欠かせないのは、それを行動で表すことです。仕事の中で実践し、やってみせることです。
言うまでもなく、チームのメンバーは一人ひとり違った個性や強みを持っています。みんな一緒である必要はありません。チームの生産性を上げるという意味では、一人ひとりが自己と向き合っていくことが重要になります。そのためにリーダーは、メンバーそれぞれが自己と向き合う手助けをすることも役割になってくるでしょう。そして、リーダーもそれぞれの個を理解できているほうが、チームの生産性は高まります。それぞれが自己を知り、強みを認識できるチームだと、足りないところを補完し合ったりすることができます。
中国の思想で、「共好(ゴンハオ)」という考え方があります。個々の違いにストレスを溜めるのではなく、共有できる価値を見つけていこう、という意味です。
その価値を提供するのがリーダーの役割です。拠り所となる共通の方針があれば、違いがありつつも、チームとして成果を出すにはどうするか、どう補い合うかに注意が向きます。リーダーはもちろんのこと、メンバー一人ひとりの中にも同じ意識が生まれます。
これは、チームにおける「立志」ともとらえられるでしょう。多様な個性を結びつけ、ともに成長していく......。リーダーの自己観照は、組織を強化し繁栄させる礎にもなりえるのです。
取材・構成:林 加愛 写真・資料提供:DAncing Einstein
本記事は、電子季刊誌『[実践]理念経営Labo』Vol.13から転載したものです。登録不要、全編無料でお読みいただけますので是非ご覧ください。





































































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