年齢と持ち味~松下幸之助「人を育てる心得」
2016年10月13日更新

人間はそれぞれ、その年齢によって発揮する持ち味が違う。お互いにその違いを尊重しあい、それぞれの持ち味を生かしていきたい。
六十歳を過ぎるころから私も、どことはなしに疲れやすくなって、体力の衰えというものを感じることが多くなりました。それ以来、自分ではまだまだ元気なつもりでいても、やはり年には勝てんな、と思いつつ、折々に考えてきたことがあります。
それは、いったい人間というものは、年とともにどう変わっていくのだろうかということです。
まず体力はどうかといえば、体力がいちばん盛んなのは、十代の後半から二十代にかけてと考えられます。それはもちろん私の勝手な独断ですが、だいたい三十歳にもなると、もう下り坂になっているような気がします。
たとえば大相撲の世界でも、三十までに横綱になっていなければ、それからではちょっと無理だ、ということがいわれていますし、また若くして横綱になったとしても、三十歳を過ぎると、その地位を保つのがむずかしくなってくるようです。ですから、体力は一応三十歳がピークだといってよいと思うのです。
それでは知力のほうはどうか。これも私の勝手な判断ですが、知力は三十歳が一番のピークとはいえない。では、何歳くらいがいちばん旺盛かというと、おおむね四十歳といったところではないでしょうか。
四十歳を過ぎると、知力はだんだんと衰えてくる、というのがお互い人間の一般的な姿ではないかと思うのです。もちろん人にはそれぞれ個人差がありますから、例外もあるでしょうが、一応のところはそう考えていいだろうと思われます。
ところで、三十を過ぎると体力が衰えはじめ、四十を過ぎると知力が衰えてくるということであれば、人間は四十を超えると、世の中でその地位を保つことも、仕事をしていくこともできなくなるのかというと、そうではありません。むしろ、さらに高い地位につき、よりすばらしい仕事をしていく人が多いのが実際の姿でしょう。
そこで、なぜそういうことが可能なのかをさらに考えてみますと、いわゆる社会的な構成によるところが大きいように思われます。その人が先輩であるとか、経験が豊かであるとかいうようなことから、若い人を中心とした多くの人から支持される、あるいは敬意を表されるというようなことが生じてきて、それがその人をより高い地位に押し上げ、より大きな仕事をさせているのではないかということです。
実際、五十歳、六十歳になっても、相当の知力を要する仕事に携わって、成果をあげておられる方も少なくありませんが、それはやはり若い人たちの総合的な援助というか、協力を得ているからこそ、可能になっていることでしょう。まったくの裸にして、知力の秤、体力の秤にかけてみると、六十歳の人は四十歳、三十歳の人に劣るのではないかと私は思うのです。
そこが世の中のたいへん面白いところで、相撲のように個人の総合的な力というものが、はっきりとは現われないところに、非常な妙味、面白味があるわけです。ですからお互いの人生においては、こうしたことの認識がやはりきわめて大切だと思います。
たとえば、五十、六十になって、なおかつ社長という責任ある地位にあり、その仕事を遂行して立派に成果をあげておられる方でも、これはその人一人だけの力で、そういう姿を生み出しているのではない。やはり、その人の部下というか、三十歳、四十歳の、周囲の人たちの協力があり、その上にみずからの経験を働かせているからこそできているのだ、ということをよく知らなければなりません。
また、三十、四十の人たちも、自分たちのもてる力がより生かされるのは、先輩たちの豊かな経験に導かれているからだということをよく知る。加えて、やがては自分たちも年をとり、将来は自分たちもこの先輩たちと同様の立場に立つのだということを考えて、その経験を学んでいこうという姿勢をもつことが大切だと思います。
このように、豊かな経験、旺盛な知力、体力というように、それぞれが発揮する持ち味は年齢によって違いますが、老いも若きも、その年齢による違いを尊重しあい、それぞれを生かしあっていく。そういうところから、より力強い社会の働きというものも生み出されてくるのではないかと思うのです。
【出典】 PHPビジネス新書『人生心得帖/社員心得帖』(松下幸之助著)





































































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