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団地再生が地元への恩返し~グローバルデザイン様

2025年11月12日更新

団地再生が地元への恩返し~グローバルデザイン様

住宅展示場のモデルハウスから個人向け戸建住宅、マンション、オフィス、店舗まで様々な建造物の空間デザインを手がけるグローバルデザイン。創業者で代表の石川克友氏が松下幸之助経営塾を受講したのをきっかけに、2024年に地元埼玉県の団地再生に取り組む新ブランド「陽に新た不動産」を立ち上げ、「地元への恩返し」という思いを込めた2つ目の事業の柱を構築中。なぜ地元の団地の再生に立ち上がったのか、石川氏がみずからの歩みとともに、その経緯を語る。

INDEX

グローバルデザイン株式会社 代表取締役 石川克友(いしかわ・かつとも)

石川克友

1976年生まれ。'95年埼玉県立伊奈学園総合高等学校卒業。'98年中央工学校建築工学科卒業後、パナホーム埼玉中央(現パナソニックホームズ)入社。設計部インテリアデザイン課に配属され、年間約60棟のインテリアデザインを担当し、在籍期間中600棟近くのコーディネートを行なった。また、レジデンシャルライティングアワード2005(松下電工主催)佳作、同アワード2006インテリアコーディネート賞(優秀賞)を受賞。2008年独立しグローバルデザインを創業。'19年株式会社に改組、現在に至る。「松下幸之助経営塾」第26期卒塾。

グローバルデザイン株式会社

本社:埼玉県川口市/創業:2008年、設立:2019年/事業内容:モデルハウスや住宅、オフィス等の空間デザイン・インテリアコーディネート、戸建・集合住宅のリフォーム・リノベーション等

経営者・後継経営者のためのセミナー「松下幸之助経営塾」

安藤忠雄にあこがれ建築の世界へ

私が建築の世界に興味を持ったきっかけは、中学3年生の時にたまたま見たテレビ番組です。建築家の安藤忠雄さんを取り上げていました。元プロボクサーでありながら、独学で建築士の試験に合格。その後、世界を放浪しながら見聞を広め、帰国後は「住吉の長屋」「光の教会」等々で高い評価を得ながら、独自の世界観で建築と向き合っている姿を、単純にカッコイイと感じました。
高校に進学してからは、幼少期に習っていた空手に再び打ち込むことになりますが、建築への夢は変わることはなく、本格的に学びたいという思いが募ります。そこで、田中角栄元首相も学んだとされる、中央工学校に入りました。
当時の中央工学校は新たに3年制を導入するなど、建築系のコースに力を入れていて、指導が厳しかったのを覚えています。授業以外の課題が、本気で取り組むと寝る暇もないほど多く、1年後にはかなりの人数の同級生がいなくなっていました。しかし私自身は、同校での学習だけでは飽き足らず、講師を担当していた、(デザイン性・独創性を重視する)アトリエ系の有名建築家の事務所にアルバイトとして雇ってもらうなど、まさに「建築漬け」の3年間を送りました。

数少ない男性インテリアコーディネーターに

卒業後の1998年、パナホーム埼玉中央に入社します。インテリアをコーディネートする、ほぼ女性ばかりの部門になぜか配属となり、主に住宅展示場のインテリアを担当することになりました。意外にも男性のインテリアコーディネーターを指名するお客様が多く、新入社員のうちからたくさんの現場で経験を積ませてもらったことが、現在の仕事につながっていると感じています。
パナホーム埼玉中央では、今でもお世話になっている方々との出会いにも恵まれました。なかでも、現在はパナソニックホームズ埼玉西の社長をされている三木由紀郎さんとの出会いはとても印象的でした。
ある日、残業していると、他部署から叫び声が聞こえたのです。駆けつけたところ、声の主は、研修資料のデータをうっかり消去してしまった三木さんでした。私は、データを復元できないか試みたものの、結局できず、もう1人の社員と3人で、「また今からつくりましょう」ということになって、ワイワイ言いながら夜遅くまで作業したのが最初の出会いです。

意を決して転職するも経営難に直面して独立

パナホーム埼玉中央で10年近く、インテリアコーディネーターとして仕事を続けるうちに、違うフィールドで自分の力を試したい、もっと違う世界を見てみたい、と思うようになっていきました。2007年に、仕事で知り合ったデザイン事務所への転職を決意します。
ところが転職後まもなく、デザイン事務所の経営が悪化し、従業員のリストラもやむを得ない状況となりました。私は、長年勤めている方々のほうが不安ではないかと考え、事務所側に「入社して半年もたっていませんし、私がまずは辞めます」と告げて、独立することにしました。したがって、そのときはまだ、独立しようと思ってしたわけではなかったのです。
そこからは本当にご縁に助けられた毎日でした。パナホーム埼玉中央時代にお世話になった方々に事務所開設のご挨拶にうかがったところ、「すぐに仕事を頼みたい」とお申し出いただいたのです。また、「以前、住宅展示場で石川さんから説明してもらった際に名刺交換した者ですが、うちの展示場の相談にのってもらえませんか」と、私の独立を聞きつけてお電話してくださった方もおられました。
とりわけ三木さんから、「付き合いが長いから仕事の相談をするのではなく、石川さんがコーディネートすると、お客様の満足度が高いからお願いしているのです。石川さんと仕事をするのは、当社にとってもプラスになります」と言っていただいたのは、本当にありがたく感じましたね。

内装1

インテリアコーディネートで高い評価を得る

石川克友氏

独立直後は元勤務先時代の人たちの支えに助けられたという

ご縁に助けられ当初は順調。しかし経営の継続に不安

おかげさまでそんなご縁に助けられ、グローバルデザインの事務所を開設してから10年間は、いわゆる「営業」をしなくとも、関東以外の地域からのご依頼も多く、売上が順調に増加し、扱える領域もだんだん広がっていきました。その意味で、はたから見れば、順風満帆な経営に映っていたかもしれません。
しかし、当時の事務所の運営は、「経営」と呼べるものではなく、「ご依頼頼み」であり、とても「自分の実力」と胸を張って言えるような状態ではありませんでした。引き続き安定してご依頼をいただけるかわからず、不安がつきまとう日々を送っていたのです。
さらに2020年以降はコロナ禍となり、一時的にではありますが、仕事がゼロになることもありました。その頃には社員を採用しており、自分のことだけを考えるわけにもいきません。「このまま経営を続けるべきか、いったん事務所をたたんだほうがいいのか」と、思い悩むようになっていきました。

幸之助の教えを学び、社員との関係に変化も

2023年1月、三木さんと、三木さんに紹介いただいた日本環境マネジメント社長の片山安茂さんと3人でお会いした際、お二方から「今度、松下幸之助経営塾(以下、経営塾)に参加することにした」とお聞きしました。
経営塾について早速ネットで調べ、翌朝には三木さんに電話で「私も参加したい」と伝えました。パナホーム勤務時代に松下幸之助さんの教えに触れる機会があったことに加え、三木さんと片山さんが興味を持っているのであれば、自分にとって間違いなくプラスになるはずだと予感したからです。
その予感は、2カ月ごとに経営塾に通うたび、確信に変わっていきました。松下幸之助さんの考え方は平易であり、言われてみれば当たり前のことがほとんどです。
実は経営塾に通うまで、会社では社員との関係性があまりよくありませんでした。私の社員に対する期待が高すぎるのか、成果物を見て落胆することがあり、社員も萎縮してしまったのではないかと思います。
しかし経営塾を受講することで、私の意識は180度変わりました。これまで「なぜもっといい成果物を出せないのか」と思っていた気持ちが、「うちのような会社に来てくれて本当にありがとう」という感謝の気持ちへと変わっていったのです。
そうした変化を社員のほうでも感じ取ってくれたらしく、経営塾に参加するたび、「社長、今回はどんな内容でしたか」と楽しそうに聞いてくるようになりました。そうやって尋ねられると私も熱が入り、ときには半日もかけて、「今回はこんな内容だった」と説明することもありました。
また社員が、『実践経営哲学』をはじめ、松下幸之助さんの著作を読むようになってくれました。そうすると、社員とのコミュニケーションが増えただけでなく、経営や仕事に関する「共通言語」ができあがり、以前とは比べものにならないほど、深い議論をし合えるようになったと感じています。

石川克友氏

松下幸之助経営塾での学びをきっかけに、社員に対する感謝の気持ちが湧くと同時に、社員との関係性が深まった。石川氏の使命ともなった団地再生は社員のアイデアによる(背後の建物は埼玉県草加市の新栄団地)

経営理念を新たに策定し「陽に新た不動産」を掲げる

10カ月間、経営塾で学ぶことを通して、新たに以下のような会社の理念を策定しました。

・MIND:ご縁を大切に。関わってきた人々の信頼を裏切らないよう、皆で幸せな暮らしを実現する。
・MISSION:ご縁を大切にしながら住まいと不動産の価値向上を通じ、お客様と地域への貢献を行う。一人ひとりの毎日が、地域の未来がより良い明日になるように行動する。


このMINDとMISSIONを実践する方法の1つとして、松下幸之助さんがよく用いた「日に新た」という言葉をお借りし、新たな不動産ブランド「陽に新た不動産」を立ち上げました。この不動産ブランドで2024年から、団地再生プロジェクトを進めています。具体的には、埼玉県草加市の新栄団地をリノベーションすることで、その価値や魅力を高めることを目指しているのです。
実はこうした新ブランド名も、団地再生のアイデアも、私ではなく、社員の発案によるものです。「衆知を集める」という松下幸之助さんの言葉通りの実践が、自分の会社でこんなにも早くできたことに驚きました。
また、志を立て、地元に恩返しをしたいと真剣に考えて、それを周囲の方々に発信していると、不思議なことに、ご縁が次から次へとつながって、情報が集まり、志に共鳴してくださる人の輪が広がりました。さらには自分でも驚いたことに、資金の提供までしていただける方とも出会いました。あるお客様に、自分の志は団地の再生であると語ったところ、その場で「支援する」と申し出てくださったのです。
加えて何よりうれしかったのは、団地の管理組合の方々にご賛同いただけたことです。最初にリノベーションした部屋にご招待した際には、「自分たちの団地がこんなに変わるなんて!」と喜んでくださいました。実際、分譲販売したところ、ありがたいことに購入希望者が相次いで現れました。社員のアイデアに耳を傾け、そのアイデアを形にできて、本当によかったと心の底から感じています。

内装2

石川氏がリノベーションした新栄団地の部屋。静かな環境で日中は日差しがよく入る。夜は落ち着いた雰囲気の部屋に。機能面でもデザイン面でも現代的な住居に生まれ変わり、価格もリーズナブルで人気だという

あと20年は地元に貢献。やるべきことを地道にやる

経営塾では、そうそうたる経営者の方々が実際に経験されたお話(特別講話)を目の前で聞き、たくさんの気づきを得ることができます。私はそれを会社経営に生かすべく、忘れることのなきよう、今でも仕事場の机に経営塾のテキストとノートを置いています。
そして頻繁に見返しながら、「昨日の対応は少し感じが悪かったかもしれない」「社員に対してもう少し違った言葉がけが必要なのではないか」と、「自己観照」するように心がけています。経営塾で配付されたカードサイズの蛇腹折り「素直な心になりましょう」も、いつも財布に忍ばせています。
今では、コロナ禍に事務所をたたもうと考えていたことがウソのように、少なくともあと20年は、地元に貢献できるように精進したいと思っています。
新栄団地に限らず、全国の団地では住民の高齢化が進んでいる半面、テレビドラマ等の影響もあって、若い人たちの中で団地が話題になっていたりもします。今まで団地に興味を持っていなかった世代にしっかりとアプローチできれば、団地に、そして地域に、もっとにぎわいを創出できると考えています。
もっとも、団地の再生というのは一朝一夕に実現するものではありませんし、必ずしも利益率の高い仕事ではありません。それでも、当社のMINDとMISSIONに照らし合わせると、こうした活動こそ地道にやり続けるべきことであり、私自身、やりがいを感じながら日々取り組んでいるところです。

取材・構成:池口祥司 写真提供:グローバルデザイン

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本記事は、電子季刊誌『[実践]理念経営Labo』Vol.15から転載したものです。登録不要、全編無料でお読みいただけますので是非ご覧ください。

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