次世代のために【コラム】~喜志房雄
2011年5月18日更新
【学習効果】
「最近の若い者は、おれたちの若いころは」。 これに関して平安時代にも同様な文献があることを話していたら、先日、エジプト時代にもあることを受講生から教わった。一方、経営書には、「過去を捨てて未来に生きよ」とあるがこの考えにはいささか異論がある。
私が修得した経営再建鉄則の一つは「歴史に学ぶ」、すなわち現状分析に6割から8割の力を注ぎ、失敗や成功のパターンを抽出することである。先人が積み上げ、隠れていた大いなる学習効果が表出され、同じ過ちを繰り返さない心構えができるのである。
【講師の心がけ】
私が企業の事業責任者を退任したとき、PHPゼミナール講師を志した動機は二つである。
一つは四十代後半にPHPゼミナール(経営道-企業研修)を受講して感動したこと。当時、事業責任者として一定の収益を継続し、少し天狗になっていたが、視聴したビデオにあった「おれは分かっとるという工場長になった」はまさしく自分の姿であった。これを機に猛反省し、今一度初心に戻って、あらゆる現実に向き合った。
もう一つは、後年、いわゆる痛みを伴う構造改革を実行し、多くの血を流した。初心の大切さを伝えたいこと、次世代には痛みが少ない構造改革を目指して欲しいとの思いから今日に至っている。
【受講者目線】
「受講者目線で分かりやすく」は当然ながら、経歴が異なる受講者一人一人に、経営の要諦を理解してもらうのはなかなかに困難が伴う。しかも講師としての思いが先行してどうしても資料が多くなり、これに時間的な制約がある。逆にどこにでもある内容を並べて、読み上げるだけでは失礼である。
私が担当する講座では最初に「攻めの受講」をお願いしている。受講者それぞれが仮説を持ち、これを検証する場としたい。経営の要諦の一つを意思決定とするなら、限られた時間内に結論を出すこと。そのためには日常的な問題意識を整理整頓していることが望ましい。すなわち、開講時に、「参加のきっかけ」「持ち帰りたいもの」を話してもらい、選び取る力「自修自得」を実践あるいは共有してもらうことを心がけている。これに応えるために、一般的な内容も自分の言葉に翻訳したり、自分の経験を受講者の言葉に言い換えたりすることでいわゆる双方向性が生まれてくる。ここに共感性が湧出して一体感がでるのである。
【講師冥利】
「会社倒産-再建が分かっていたので、教育投資のために受講」は、最も印象に残っている受講動機の一つである。しかもその後、見事に再建され数年を経た今日も健全である。ハングリー精神を持ち、砂地が水を吸い込むようにあらゆる内容を持ち帰り、復習をされたと聞いている。私の経験とは全く異なる業種だが、自修自得、経営の要諦を理解され、社内に展開されたものと想像している。ここに講師を志した動機、「次世代のために」が活きているのである。
最後に、先輩から教わったことば「子供叱るな我が来た道ぞ、年寄笑うな我が行く道ぞ」
1965年、日本ビクター(株) 入社。研究開発本部で物性研究、ソフトウェア開発に従事後、コンピュータ周辺機器関係会社社長を務めた。1993年、情報機器部長、プロジェクションシステム事業部長、米国プロジェクター関係会社社長、テレビ事業部長を経て、1998年、同社取締役テレビ事業部長に就任。その後、取締役IT事業推進室長(環境担当取締役)、常勤監査役、顧問を歴任。現在、PHPゼミナール講師。