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メンタルヘルス対策と上司の役割

2012年5月28日更新

メンタルヘルス対策と上司の役割

職場からメンタル不調者が出た場合、職務上の立場でどこまでかかわればよいのか悩むことがあると思います。部下の健康や安全に配慮するのは上司の義務ですが、上司は医師ではありません。メンタルヘルスケアは危機管理の一環としてとらえ、「上司としてできること、しなければならないこと」を明確にすることが必要です。今回はメンタルヘルス対策の捉え方と上司の役割について考えていきます。

 

◆企業のリスクマネジメント~会社ののれんを守る

 

大手広告代理店の若手社員が過労から自殺し、

両親が提訴するという事件がありました。裁判の結果、企業の安全配慮義務違反が問われ、企業側は遺族に1億6800万円を支払うことで和解しました。


この判決がニュースになって以来、職場のストレス要因からうつ病になったり、自殺に追い込まれたりしたとして、企業を訴える民事裁判が増えています。企業だけでなく、管理監督者である上司を訴えるケースもあります。


もし自殺等で企業責任を問われたり、訴えられないまでも労働災害として認定された場合、企業のイメージダウンは甚大です。事件が公表されるとネット社会の中で多くの人の知るところとなり、得意先との取引が停止になったり、一般顧客の不買行動を招いたりと、これまで大変な苦労をして築き上げた“会社ののれん”や信用に傷がつきます。メンタルヘルス対策は企業のリスクマネジメントとして、きわめて重要な課題です。

 

◆企業の社会的責任(CSR)~社員を幸せにする

 

メンタルヘルス対策が日々行われている企業は、一人ひとりを大切にしているというメッセージを、社員全員に発していることになります。職場のモラルが向上し、社員のモチベーションが高まり、雰囲気が良くなって、結果的に離職率が低下します。


こうした評判は社外にも流れ、評判を聞きつけて良い人材が集まり、ますます職場の士気が上がるという好循環を起こします。さらに、うつ病で長期休職する社員が減れば、医療費や傷病手当金も減少します。


メンタルヘルス対策というと、ともすれば「面倒だ」「会社のお荷物になる」と敬遠する向きも多いのですが、決してそんなことはありません。むしろ逆に、経営戦略上有利に働き、社員を大切にする会社、社員の幸福に寄与する会社として、アピールできます。


企業の社会的責任(CSR:CorporateSocialResponsibility)の考え方がかなり普及してきました。社員にやさしい会社はCSRの基本です。メンタルヘルス対策は、CSRの一環でもあります。

 


◆上司はマネジャーであり、医師ではない


社会人として活躍するには、まず「心も体も健康」であることが大前提です。メンタルヘルス・マネジメントを行うにあたり、よく勘違いされている上司の方がいます。それは、自分自身が治療者(医師)にならなければと思い、職場を病院のように考えることです。部下のメンタルケアを積極的に行うことは大切ですが、メンタルヘルスの病に詳しくなり、自分の知識で部下をケアしょうとし、悪化させてしまうケースがあります。


上司としてやるべきことは、病気に詳しくなることではなく、メンタル不調者にそれぞれの立場でできるマネジメント対応を行うことです。それは、専門の産業保健スタッフに連絡することかもしれませんし、部下の話を真剣に聴いてあげることかもしれません。“上司としてできることをする”これが、メンタルヘルス・マネジメントでは大切だと覚えておいてください。


メンタルヘルス対策は、日々のストレス・コントロールこそが重要です。「うつにしない、させない!」職場をつくるのは、上司であるあなたなのです。

 

【監修・執筆講師】

渡邊雅子 わたなべ・まさこ

産業衛生支援研究所主宰/ウェルリンク㈱研修講師
看護師/産業カウンセラー/産業保健指導者/心理相談員/産業カウンセラー協会研修講師

1977年、日本専売公社東京病院高等看護学院卒業。同年、日本専売公社東京病院勤務。1999年、1600名が勤める工業会社人事部「健康管理室」に勤務。従業員の入社時からの個人カルテを作成、「こころの健康づくり計画」の策定、メンタルヘルスケア研修実施、試し出勤規定立案。メンタル不調者対策として「こころの相談室」を開設。労働衛生会議の設置など、メンタルヘルスに関する幅広い実務を経験。2006年、メンタルヘルスアドバイザー、産業保健アドバイザーとして産業衛生支援研究所を設立。企業内でメンタルヘルス対策を確立した実務経験から、官公庁・企業・学校・病院などのメンタルヘルス研修や、コミュニケーション研修をはじめ、メンタルヘルス対策支援、復職支援、教職員カウンセリングなどに携わっている。

 


 

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