「フィードバック研修」の効果を上げる3つの鉄則
2019年6月14日更新
PHP研究所では、中原淳氏(立教大学経営学部 教授)と共同開発したフィードバック研修の普及に取り組んできました。これまで数多くの企業・団体で実施してきましたが、その経験知をふまえ、どうすれば研修効果が上がるのか考えてみたいと思います。
「残念なフィードバック研修」の特徴
「今、はやりのフィードバック研修を実施したい」「フィードバックのスキルだけ教えてくれればいい」「現場が忙しいから、半日でプログラムを組めないか」......。
私どもPHP研究所には、企業・団体の人事・人材開発ご担当者の方から、フィードバック研修に関するお問い合わせやご相談が数多く寄せられます。いずれも、その企業・団体の直面する現状を反映しての相談なので、極力ご要望どおりに対応しなければいけませんが、ご相談内容によっては、違う形での実施を提案させていただくことがあります。
貴重なお金と時間を投入して研修を実施しても効果が上がらない「残念なフィードバック研修」には、次のような特徴があります。
(1)スキルオンリー
たとえスキルを習得したとしても、部下との信頼関係が構築できていなかったらフィードバックは機能しません。上司-部下間の関係が険悪な状況でフィードバックを実施してもうまくいかないのは自明の理であるにもかかわらず、「短時間でスキルだけ学びたい」というご要望が多いです。
学んだスキルが活きるためには、部下に対する肯定的な人間観(彼・彼女には可能性があるという信頼感)を上司がもち、相互の信頼関係を構築する必要があります。ピラミッド構造の土台を築くことなく、上層部だけ学んでも研修効果はあがらないでしょう。
(2)ロールプレイの状況設定に"あるある感"がない
プログラムの品質面でも講師の力量面でも、共に申し分ないとしても、研修の中で扱う事例や用語が受講者の実態に合っていないと、研修効果は限定的になってしまいます。特にフィードバック研修の場合は、ロールプレイを中心にスキルを学ぶ構成になっていますので、ロールプレイの状況設定が学びの質を決めると言っても過言ではありません。「このロールプレイの状況って、うちの職場にもあるなあ」という"あるある感"を感じさせるような状況設定にしないと受講者を本気にさせることはむずかしいでしょう。
(3)研修後のフォローがなく、やりっぱなし
企業・団体で実施されるフィードバック研修は、1日で完了するケースがほとんどです。「働き方改革」の影響で研修時間が短縮されるのはやむを得ないですが、問題は事後のフォローがなされず「研修さえ実施すればそれでよし」とする傾向があることです。
人材開発の基本は反復しかありません。フィードバック研修で学んだ考え方とスキルについても、現場で何度も繰り返し使ってみて初めて身につくものです。
したがって、研修実施後の職場実践と、その成果を確認する仕組みをデザインしていないと効果はあがりにくいでしょう。
ここまで、効果があがりにくい「残念なフィードバック研修」の特徴をご紹介しましたが、これらを逆説的に捉えることで、研修効果を上げる3つのポイントが見えてきます。
【事例】フィードバック研修の効果を上げる3カ条
(1)スキルとマインドをバランスよく学ぶ
既述のピラミッド構造の如く、「スキル」を支える「上司-部下間の信頼関係の構築」と「部下に対する肯定的な人間観」を併せて学ぶことで、研修効果は高まります。
[事例]
製造業のA社(従業員数2,000名)では、スキル偏重の研修を長年管理職に対して実施していましたが、職場の活力が一向に高まらず離職者が増え続けるという問題を抱えていました。管理職の多くが人を育てる意識が希薄で、研修で学んだスキルも、「効率的に部下を動かす道具」として使う人が大半でした。そこで、研修内容を見直し、スキルだけではなくマインドも併せて学ぶプログラムに切り替えたところ、従業員の定着率が改善するという効果が出たのです。
(2)受講者がリアリティを感じながら学ぶ
研修の中に、リアリティを感じる状況を意図的につくることで、受講者の理解と気づきが深まります。そのためには、関係者からのヒアリングや現場の視察等を通じて、リアルな情報を収集し、それを活かしたカスタマイズプログラムを用意することが望ましいでしょう
[事例]
総合病院のB病院から弊社あてに、「医療現場にフィットしたフィードバック研修を実施したい」とのご相談がありました。そこで、病院の現場を見学させていただき収集した情報をもとに、「立ち仕事をしながら短い時間で行うフィードバック」のロールプレイのシナリオを開発しました。受講生からは「現場に帰って何をすればいいかよくわかった」との感想が上がっています。
(3)学んだことを職場で実践する
学びっぱなしではなく、学んだことを職場実践につなげていく仕組みをつくることで受講者の意識変容・行動変容は促進されます。経験学習モデルにあるように、経験と振り返りを通じて人は成長するのです。下記のプログラム例にあるように、研修実施後のフォローを最初からビルトインした仕組みを作ることが重要となるでしょう。
今、注目のフィードバックは、管理職の指導力強化という観点からだけではなく、組織開発の観点からも大きな可能性を秘めた手法と言えます。そのためにも、上記3カ条を参考にしながら自社に合った正しい導入のあり方を追求していただきたいと思います。
的場正晃(まとば・まさあき)
PHP研究所人材開発企画部部長
1990年、慶應義塾大学商学部卒業。同年PHP研究所入社、研修局に配属。以後、一貫して研修事業に携わり、普及、企画、プログラム開発、講師活動に従事。2003年神戸大学大学院経営学研究科でミッション経営の研究を行ないMBA取得。中小企業診断士。