チームマネジメントができる課長を育てるには?
2023年8月 1日更新
プレーヤーとしての実績を求められる傾向が強く、チームマネジメントや部下育成に十分な時間を割けない課長。どうすれば「リーダー型マネジャー」へと飛躍できるのでしょうか。
課長職の現状と課題
ミドルマネジャーのなかでも課長職は、一昔前と違って、管理職でありながら現場を任されている、ほんとうにたいへんな層といえます。トップ方針の具現化、業績向上、新しい仕事の創造、変革推進など、実に多岐にわたる責務を負うのが課長です。
課長研修で受講生の悩みや課題を聞いてみると、次のようなことが出てきます。
- 「権限がないし、どこまで任されているのかわからない」
- 「現場の問題は課長が決裁を下していたのに、ある事故がきっかけで、すべて部長報告が必要になった」
- 「プレーヤーとして実績を求められる傾向が強く、チームマネジメントに時間を割けない」
- 「仕事を部下に任せられない」
- 「若手が何を考えているかわからない。コミュニケーションが難しい」
ここで気になるのが「部下に任せられない」という課題です。自分がいなくなったときに誰に現場を任せるのか、つまり自らの後継者育成は課長の最重要ミッションといえるものです。しかし、最近の傾向として、課長はプレーヤーとしての実績を求められる傾向が強く、チームマネジメントや部下育成に十分な時間をさけない状況にあります。自分が手本を示して部下に教えるというような十分な関わりができていないため、部下が育たない、若手が何を考えているのかわからないという悩みが出てきます。
さらに、プレーヤーとしては力を発揮するものの、チームの方針を自分の言葉でメンバーに伝えるといった、マネジャーとしての役割がおろそかになっている、ならざるをえないという状況にもなります。「今期、うちの方針はこれで行きます。なぜなら上が言っているから」。これでは部下のモチベーションは上がりません。
自分自身のリソースマネジメントをしてみる
そうした課長の皆さんの現状をふまえ、課長研修では「仕事の重要度と緊急度」の表をつかって、皆さんに仕事を客観的に分類していただいています。つまり、自分自身のリソースマネジメントをしてみるということです。
ここで緊急度が高く重要度が低い第4象限の仕事に仕事が偏っている場合には、課長が「火消しの仕事」に忙殺されている、ということになります。そういった状況では、仕事が回らず、マネジャーとしての責務を果たせません。部下ができる仕事は、どんどん権限委譲していくべきだということがわかります。言うまでもなく、課長として力点を置くべきは第1象限、第2象限の重要度の高い仕事なのです。
マネジャーとリーダー
さて、ここで、マネジャーとリーダーの違いについて考えてみましょう。
両者とも、人や組織を動かすという点では同じ機能をもっていますが、その意味するところは若干異なります。
ここで重要なのが、それぞれの成立の根拠です。マネジャーは人格そのものというよりも一つの機能であり、組織からの任用で成立します。一方、リーダーはメンバーからの認知で成立します。「よし、今日から俺がリーダーだからな!」と本人が言っても、これは成立しないわけです。
また、マネジャーが業務の「運営者」「管理者」であるのに対し、リーダーは業務・組織の「変革者」の役割を担います。あらゆる管理監督者にこの両者の要素がありますが、人によってそのバランスは異なります。かつてはマネジャー的要素だけで十分管理者たりえたものですが、社会の変化が速く、価値観の多様化・グローバル化が進む現在のビジネス環境においては「リーダー型マネジャー」が強く求められているのです。
衆知を集めた強いチームづくり
また、ビジネス環境の変化に対応して、変革を推進し、業績向上に貢献するために、課長職には「強いチームづくり」が求められます。ここで言う「強いチーム」を次のように定義してみましょう。
メンバー全員がやる気と主体性をもって活き活きと活動し、各自の個性と能力が存分に発揮され、それがある方向に向かって結集され前進し続けているチーム
こうしたチームを100点満点とするとき、あなたのチーム、職場は何点でしょう? 50点から60点というのではなく、35点、70点、88点といった具体的な数字を出して一度考えてみてください。――どうでしたか? このように客観的に点数をつける技術をスケーリングといいますが、そうすることによって、今おかれている状況を客観的に把握することができます。そして、その足りない点数を満たすために、より強いチームをつくるために、どういう方策が考えられるのかに踏み込んでいけます。
「衆知を集める」とは?
PHPゼミナールの課長研修では、「衆知を集めた強いチームづくり」の考え方とスキルを学んでいただいています。「衆知を集める」とは、部下、お客様、取引先など、皆の知恵を集めることです。それは、単に会議をする、相談し合うということではなく、責任者が衆知を集めて経営を進めていくことの大切さを知り、日ごろから努めて皆の声を聞き、自由にものを言いやすい空気をつくっておくということです。そういうことが日常的にできていれば、事にあたって責任者が一人で判断しても、その判断にはすでに衆知が生きています。
PHPゼミナールの創始者である松下幸之助は、衆知経営の大切さを説き、「自分がやってきたのも、そういうことであったと思う」と語っていました。
さて、貴社の課長職は、衆知を集めた強いチームづくりができているでしょうか。PHP公開セミナー「課長研修」が、これまでの在り方を振り返り、リーダー型マネジャーへと飛躍していただくきっかけとなるよう、これからもお手伝いをしていきたいと考えています。
北川智章 (きたがわ・ともあき)
人材育成コンサルタント。
1989年、キヤノン販売株式会社(現キヤノンマーケティングジャパン株式会社)に入社。エリアセールスを経て、民間大手企業のアカウント営業を担当。顧客の取引先満足度調査第1位を獲得したことをはじめ、多くの大型案件を獲得。1996年から人材育成事業に携わる。研修トレーナー、コンテンツ開発リーダー、研修企画プランナーを歴任し、その後、人材開発コンサルティング業務に従事。2009年、ビジネスソリューションカンパニーの人材育成事業責任者に就任。カンパニー人材像の策定、若手中長期育成計画、世代別・階層別プログラム、メンター制度などを企画・推進する。2013年、人材育成コンサルタントとして独立。現在、PHPゼミナール講師、パフォーマンスデザイン・コンサルティング合同会社 代表。