管理職の「部下の面倒を見る時間がない」は本当か?
2017年2月 9日更新
新入社員にとって「理想の上司」は面倒見がよい人。しかし今、団塊ジュニア世代を中心に、部下の面倒を見ない管理職が増えています。対策はあるのでしょうか。
「理想の上司」は面倒見がよい人
ある人材サービス会社が、2016年度の新入社員を対象に「理想の上司」についてアンケート調査したところ、「面倒見がよい」が1位だったそうです。しかも、2位の「明るく振る舞う」に2倍近い差をつけていました。ドラマで凛とした役柄を演じてきた女優の天海祐希さんが「理想の上司像」のようです。
上司が天海祐希さんのような管理職であればいいのでしょうが、実際、あなたの会社には「部下の面倒を見ない」あるいは「部下の面倒を見られない管理職」がいるのではないでしょうか。
面倒見の悪い管理職で最も多いタイプは?
(1)プレイヤーとして優秀だった管理職
面倒を見ない管理職で最も多いのは、プレイヤーとして優秀だった人です。自分がたたき上げで育ってきているため、部下にも厳しい環境を与えて、自分で這い上がってくるのを待っています。「これくらいでヘコんでどうする?」「いやなら辞めろ!」と精神論で発破をかけて突き放します。
また、仕事に自信を持っているため、部下に自分のやり方を押し付けます。「そのやり方は違う」「このやり方でやってみろ!」と有無を言わせません。
(2)自分の手足として奴隷のように部下をこき使う管理職
部下に指示命令で面倒な仕事を押し付けたり、雑用だけをやらせたりする管理職もいます。丁寧に教えることなく、仕事を丸投げしておいて、部下がミスをしようものなら「何をやっているんだ!」と烈火のごとく怒ることがあります。
(3)「忙しい! 忙しい!」とあたふたしている管理職
「部下を育成する暇がないから、自分がやるしかない」「この仕事は俺じゃないとできない」「部下に任せられない」などという管理職もいます。「忙しい」が口癖で、忙しい自分を見せることでそれを自慢しているのです。
「部下の面倒を見る時間がない」って本当でしょうか?
プレイングマネージャーの管理職は、「部下育成する暇がない」とよく言います。本当でしょうか?
プレイヤーとして活躍してきた管理職は、「優秀なマネージャー」になるとは限りません。しかも管理職になっても担当業務を持ったプレイングマネージャーであるため、部下にかまっている時間がないと嘆きます。
しかし、部下とのコミュニケーションには、必ずしも長い時間をかける必要はありません。1日5分でも10分でもいいのです。
管理職は「自分が引っ張っていって成果を出す人」ではなく、「働きやすい環境をつくって、部下の力を発揮させて成果を出す人」です。部下の力を発揮させるために一番必要なことは、「任せる」ことです。部下がぎりぎりできそうな仕事を任せ、部下ができないところだけをアドバイスすることで部下の潜在能力を引き出します。
OJT計画表を部下と一緒に立ててください。(1)なにを (2)いつ (3)どのように任せるのか、年度初めに計画をつくり、できれば毎週1回の定期面談で進捗を管理するといいでしょう。
部下育成を怠ることが続けば、部下は「自分は期待されていない」「能力を低く見られている」と感じます。結果的に、その管理職は部下から信頼されなくなっていきます。
さらに、チームのコミュニケーションが減り、信頼関係がなくなっていきます。困っている人がいても支援しなくなったり、チームワークが悪くなったりします。そのような状態が続くと、会社の業績はどんどん下がり、部下はどんどん退職していきます。
部下の面倒を見る管理職はどう育てる?
部下の面倒を見ない管理職はなぜ生まれるのでしょうか。それは、「自分が上司・先輩から育てられなかった」からです。特に今の40代、団塊ジュニア世代が若手社員の頃、経費削減の掛け声のもと教育がほとんど行われませんでした。「背中を見て覚えろ」と言われ、「ついて来られないやつは、会社をやめろ」と言われながらも生き残ってきた社員なのです。
しかし、今は部下を育てることができなければ、優秀な管理職とは言えません。メンター制度を導入して管理職や次期管理職にメンター研修を実施するとともに、新入社員には「メンティ研修」を実施してください。
管理職が部下に寄り添って一緒に育成計画を考えてあげることも大切です。キーワードは「寄り添う」「支援する」です。「指導する」とか「引っ張っていく」という“上から目線”はタブーです。
今どきの新入社員や若手社員は、仕事だけではなく人生までも支援してくれる「面倒見のいい管理職」を求めています。そうした管理者を育てることが、企業として喫緊の課題であることは間違いないでしょう。
茅切伸明(かやきり・のぶあき)
株式会社ヒューマンプロデュース・ジャパン 代表取締役。
慶應義塾大学商学部卒業後、(株)三貴入社。 その後、(株)日本エル・シー・エー入社。 平成1年3月 住友銀行グループ 住友ビジネスコンサルテイング(株)(現SMBC コンサルティング(株))入社。セミナー事業部にて、ビジネスセミナーを年間200 以上、企業内研修を50以上担当し、他社のセミナーを年間50以上受講する。 平成18年4月 (株)ヒューマンプロデュース・ジャパンを設立。「本物の教育」「本物の講師」「本物の教育担当者」をプロデュースするという理念を掲げ、現在まで年間500以上、累計8,000以上のセミナー・研修をプロデュースするとともに、セミナー会社・研修会社のコンサルティング、セミナー事業の立ち上げ、企業の教育体系の構築なども手掛ける。
著書に、『実践社員教育推進マニュアル』、通信教育『メンタリングで共に成長する新入社員指導・支援の実践コース』(以上、PHP研究所)、『だれでも一流講師になれる71のルール』(税務経理協会)