新入社員から主体性を引き出す導入研修の進め方
2018年1月29日更新
今の若者には、リスクを避け、自分から行動せず、指示を待つ傾向があるといわれます。そこで今回は、新入社員研修で「主体性」の意味や必要性・重要性をきちんと理解させ、主体性のある行動を引き出すための進め方をご紹介します。
主体性をもつ自分で考えて行動する人に
新入社員研修において、最初に新入社員に伝えるべき課題は、一人ひとりが「主体性」を持ち、自分で考えて行動することです。「主体性」は、社会に出て企業人となって働くうえで、必ず身につけなければならない大切な要素の一つといえます。新入社員の方々に「主体性」の意味や必要性・重要性をきちんと理解してもらい、実際の行動に活かせるようになるかどうかで、その後の会社での働きぶりや個人の成長に大きな差が生じます。まさに新入社員研修の一丁目一番地といっても過言ではないでしょう。
「リスク回避思考」と「待ちの姿勢」
リクルートワークス研究所の豊田義博氏が、著書『若手社員が育たない』(筑摩書房、2015年6月)の中で指摘されていますが、昨今の若い世代の人たちには、「リスク回避思考」と「待ちの姿勢」という二つの傾向があるといわれています。「リスク回避思考」とは、失敗する可能性があること、やり方が分からないこと、やってみないと結果が分からないことなどに対して、あえてリスクを冒してまでチャレンジしようとしない、ということです。そして「必ずできる」と確信したことだけをやろうとします。「待ちの姿勢」とは、上司から指示されたこと、命令されたことだけを行い、それが終わったら次の指示・命令が来るまで何もしようとせず、ただ待ち続ける姿勢のことです。次に何をすればいいのかを、自分から上司に尋ねていくことすらしない人もいます。自分がやるべきことを、自分で考えもしなければ、自らアクションを起こすこともないのです。
しかし、そのような姿勢では、企業人として具体的な成果を上げることは難しいでしょう。当然、その社員はいつまで経っても成長しないはずです。これは企業にとっても、社員にとっても、幸福なことではありません。
新入社員の「成長願望」を刺激する
その一方で、若い世代の方々は非常に強い「成長願望」を持っているともいわれます。ということは、その成長願望をうまく刺激し、意欲を引き出せるように導いていくことが得策です。モチベーションが高まれば、社員は成長し、会社も成長していきます。そこで新入社員に対しては、「皆さん自身が主体性を持ち、自ら考えて行動することで、社会人として大いに成長することができます」と訴えていくべきです。さらに「主体性を持たずに待ちの姿勢で過ごしていたら、自分自身の成長にブレーキをかけていることになりますよ」とも伝えて、危機感を持ってもらうのです。こうした言葉かけによって、「主体性」の大切さに気づき、考え始める人もいるでしょう。
茶道の心得「用意」と「卒意」
次に、実際の新入社員研修の場面で、新入社員の方々から「主体性」を引き出していく方法を紹介していきましょう。PHP研究所の新入社員研修では、冒頭で、「用意」と「卒意」という言葉を紹介しています。これは茶道の心得を表す用語で、「用意」とは、お茶を出してもてなす側の亭主が、周到に準備を行うことです。これに対して「卒意」とは、もてなされる側のお客様が、亭主のもてなしに落ち度なく応えるための心構えや行動のことです。この「用意」と「卒意」とが両者相まって、お茶会が成立するのです。
新入社員研修で主体性を引き出す方法
新入社員研修においても、事務局や研修講師が研修のプログラムや教材を「用意」をしたうえで、「研修を受ける新入社員の皆さんが、何らかの『卒意』を行うことによって、皆さん自身が成長し、実りのある時間を過ごすことができるのです」といった説明を行います。そして新入社員の方々に、自分たちにできる「卒意」について、グループで相談して具体案を考え出してもらうよう指示するのです。
新入社員が、自分たちで自分たちがやるべきことを考えるところがポイントです。これで、研修が「一方通行」ではなくなり、新入社員の「自主的な行動」が始まります。
しばらく話し合ってもらうと、例えば「研修終了後にホワイトボードを消す」「休憩時間が終わる少し前に皆に声をかける」「消極的で発言しない人に発言を促す」といった具合に、新入社員なりにいろいろな「卒意のアイデア」を出してくれるはずです。それらをホワイトボードに書き出したうえで、次に、誰がどの役割を果たすのかを「自発的」に申し出てもらいます。そして「私はホワイトボードを消す係を担当します」といった具合に、皆の前で宣言してもらうのです。これが新入社員から「主体性」を引き出す「仕組み」になります。
新入社員一人ひとりの言動をフィードバック
さらに研修が進んでいく中で、講師は、新入社員一人ひとりの言動を観察します。もしも受け身の姿勢になっている様子が見て取れた場合、その人に対して、「その行動には主体性が欠けていますよ。もっと積極的に自分から行動してください」と指摘します。反対に、主体性を持って前向きに行動しているのが見て取れた場合は、「今の行動は良かったですね。主体性が感じられました。そのような姿勢が大切です」と、ほめてあげてください。
このように「主体性のない良くない言動」と「主体性のある良い言動」とを見つけてフィードバックしていくことで、新入社員は、やってはいけないこと、やるべきことを正しく理解するようになるのです。
的場正晃(まとば・まさあき)
PHP研究所人材開発企画部部長
1990年、慶應義塾大学商学部卒業。同年PHP研究所入社、研修局に配属。以後、一貫して研修事業に携わり、普及、企画、プログラム開発、講師活動に従事。2003年神戸大学大学院経営学研究科でミッション経営の研究を行ないMBA取得。中小企業診断士。