新入社員は先輩・上司を「まねる」ことで成長する
2019年3月 5日更新
新入社員は、上司や先輩のそばで、考え方や行動を「まねる」ことによって成長していきます。人材開発を担当する方や、受け入れる職場の皆さんは、このことを意識しておく必要があります。
「まねる」ことで脳の働きが理想の人に近づく
脳に関する研究が進み、さまざまなことがわかってきました。私たちの脳には、目の前にいる人の動作や、その動作の意図や感情を写し取る鏡のような機能(ミラーニューロン※)があるそうです。例えば、目の前で誰かがおいしそうにケーキを食べていると、あたかも自分もケーキを食べているかのような脳活動が現れるのです。
したがって、「あの人みたいになりたい」という人がいたら徹底的にその人を見て、そしてあたかもその人になったつもりで行動することが大切であるといわれています。
では理想の人と、常に一緒にいることができない場合はどうすればいいのでしょうか。その場合は、「こういう時、あの人だったらこういう行動をとるだろう」とか、「彼なら、こう考えるに違いない」と、その人になったつもりで、考え行動することによって、ミラーニューロンが作動し、理想の人へと近づいていけるというのです。
「まねる」ことによって、行動パターンや、その根底にある思考パターンなど、脳の働き方が理想の人に近づき、本人の成長が加速していきます。これこそが、ミラーニューロンの発見によって、もたらされた画期的な知見の一つなのです。
※参考文献『ミラーニューロンの発見―「物まね細胞」が明かす驚きの脳科学』マルコ・イアコボーニ著 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)
「暗黙知」の伝承
伝統芸能や伝統工芸などの世界では、弟子が親方と寝食を共にしながら技能を伝承していく「徒弟制度」と呼ばれるしくみがありますが、これもミラーニューロンの役割・機能から考えてみると、極めて効果的な人材育成のやり方といえるでしょう。「匠の技」というものは、言語化して表現することが困難な「暗黙知」の部分が大きく、そばにいて感じ取る以外に有効な伝承の仕方はないのです。
また、新進気鋭の経営コンサルタントとして活躍中のM氏は、かつて在籍していた大手コンサルティングファームの創業者T氏との出会いが今の自分を支えていると言います。多くの経営者から「神様」と言われるほどに熱烈な支持を受けているT氏のそばにいて、「空気」を直接五感で感じた経験が、コンサルタントとしての基盤づくりになったというのです。クライアントにプレゼンする時のしぐさや声の抑揚、経営者の悩みに対して我が事のように共感して聴く姿勢、難局に直面したときの目の鋭さや息づかい……。こうしたT氏の醸し出す「空気」の中にコンサルティングの極意を発見し、それを真似ていくうちにコンサルタントとしての実力がメキメキ上がっていった、とM氏は語ります。
新入社員の成長は、上司・先輩の責務
同じようなことが、企業における人材育成にもあるのではないでしょうか。例えば新人営業担当者を一流に育てたいと思えば、経験豊富な先輩営業マンに同行させてその空気を感じ取らせることが、効果的な育成方法の一つであることは間違いありません。
学ぶ」の語源は「まねぶ(≒まねる)」であると言われているように、まねることと人材育成は切っても切れない関係にあります。人材開発を担当する方や、新入社員を受け入れる職場の皆さんは、新入社員を先輩・上司のそばにいさせることで、テクニックやスキルだけではなく、考え方や生き方も含めた「匠の技」を「空気」として感じ取らせ、伝承していくことが重要だと認識するべきでしょう。
将来性のある若者たちが豊かな人生を送り、会社と社会に貢献をもたらす働きができるよう指導・育成していくことは、受け入れ側の先輩や上司の大きな責務です。彼ら、彼女たちにまねられるに値する組織人、社会人であるとともに、いつの日か「あの人のおかげで今の自分がある」と言ってもらえるような、いい影響力を及ぼす先輩・上司を目指していきたいものです。
的場正晃(まとば・まさあき)
PHP研究所人材開発企画部部長
1990年、慶應義塾大学商学部卒業。同年PHP研究所入社、研修局に配属。以後、一貫して研修事業に携わり、普及、企画、プログラム開発、講師活動に従事。2003年神戸大学大学院経営学研究科でミッション経営の研究を行ないMBA取得。中小企業診断士。