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成果主義と職場のメンタルヘルス

2014年1月24日更新

成果主義と職場のメンタルヘルス

通信ゼミナール「リーダーのための心理学入門コース」のテキストから、成果主義と職場のメンタルヘルス問題についてご紹介します。
 

成果主義がもたらしたもの

 
かつての伝統的な日本企業には、社員は職場に居心地のよさを感じ、結束感も仲間意識もあり、お互いに助け合う職場風土がありました。ところが、1990年代のバブル崩壊後、「仲良しグループ」的だとして日本的な経営は否定され、その行き着いた先が「成果主義」でした。職場は個人主義的な色彩が強まり、協力者や仲間はライバルになりました。助け合うべき職場風土が、競争的なフィールドに変わったのです。
 
1つの例をあげましょう。
 
ある人が保険会社から証券会社に転職しました。彼が慣れない仕事を身近な同僚に教えてもらおうと依頼したところ、返ってきた反応はこうでした。
「俺は、あんたに教えるための給料をもらってない。自分でやるんだね」
その人は、その企業のなかで自分の居場所を見出せず、職場風土に嫌気がさし、早期退職してしまいました。
 
成果主義には、どんな問題があったのでしょうか。
成果主義を早くから批判してきた東京大学教授の高橋伸夫氏によれば、成果主義とは、下の2つの要件のどちらか、あるいは両方を満たすものです。
 
・できるだけ客観的にこれまでの成果を測ろうと努め
 
・成果のようなものに連動した賃金体系で動機づけようと図ろうとするすべての考え方
 
 参考:『〈育てる経営〉の戦略 ポスト成果主義への道』高橋伸夫著(講談社選書メチエ)
 
 
さらに氏は、成果主義の問題点を次のように断じています。
 
成果主義の犯した最大の罪は、そもそも賃金制度の問題ではなかった経営問題の多くを賃金問題に矮小化してしまったことにある。そのことで、多くの経営者・管理者が思考を停止させ、彼らが本来自ら責任をもって解決すべきだった経営問題の多くが見過ごされ、先送りされてしまった。
 
 出典:『〈育てる経営〉の戦略 ポスト成果主義への道』高橋伸夫著(講談社選書メチエ)
 
 
また、成果主義による人事制度が導入された結果、競争が激化し、人間関係がぎくしゃくするケースが増えました。周囲が協力者でなく競争相手になった結果、弱音を吐けず、心身の不調を1人で抱え込んだままがまんしてしまい、周囲が気づいたときにはもう手遅れということもままありました。成果主義は、経営問題だけでなく、職場環境の悪化というメンタルヘルス上の問題も、もたらしたのです。
 
最近では行き過ぎた成果主義の反省から、成果主義制度を廃止したり、あるいは日本的な要素を加味した「日本型成果主義」へ修正したりするケースが見られますが、成果主義を原理そのままに導入した企業り一部に、「勇気くじき」的な色彩が出たのは否定のしようがありません。
 
 

職場環境悪化の諸要因

厚生労働省、労組関係者、心療内科医などは、「職場環境の悪化」を心の労災認定者数が増加した理由としてあげています。職場環境の悪化要因には、成果主義のほかにもさまざまなものがあります。
 
グローバル化や円高などで日本企業が世界との競合を強いられるようになり、コスト面でも大幅な見直しを迫られた結果、最終的には人件費にまでその影響がおよびます。すなわち、右肩上がりの成長期のような人員増は望めず、少ない人数でいかに効率よく売上をあげるかが各社の課題になりました。さらに、技術革新のスピードが加速し、さまざまなシステムも日々変化するなか、時間と労力をかけて一から社員を育成するといった時間的余裕が企業から消えました。1人あたりの仕事量が増えたにもかかわらず、労務上残業はできないというジレンマに陥るケースは枚挙に暇がありません。
 
人間関係の問題としては、「パワーハラスメント(以下、パワハラ)」があげられます。上に立つ人間は、成果、効率、結果、数字などの圧力が強くなればなるほど、部下を指導する対応法の幅が狭まり、部下の恐怖心をあおるような行動に出ることがあります。
 
厚生労働省の作業部会によれば、パワハラの定義は次のとおりです。
 
職場のパワーハラスメントとは、同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為をいう。
 
 
なお、パワハラには、上司から部下への行為だけでなく・同僚同士や部下から上司への行為も含まれるとしました。
また、パワハラは、次の6つに類型化されています。
 
・暴行など「身体的な攻撃」
・暴言など「精神的な攻撃」
・無視など「人間関係からの切り離し」
・実行不可能な仕事の強制など「過大な要求」
・能力とかけ離れた難易度の低い仕事を命じるなど「過小な要求」
・私的なことに過度に立ち入るなど「個の侵害」
 
 
厚生労働省は2009年4月、うつ病などの精神疾患や自殺についての労災認定をする際に用いる判断基準を10年ぶりに見直し、精神疾患による労災認定をストレスの強い順に3段階の強度で判断するようにしました。
 
強度3で新設されたのは、「ひどい嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた」という項目です。これまで明確な基準がなかったパワハラによる精神疾患については、この基準で判断できるようにしました。
 
強度2では、企業の人員削減や成果主義の導入が進んできたことから、「複数名で担当していた業務を1人で担当するようになった」「達成困難なノルマが課された」といった基準を新たに設けました。
 
2000年からメンタルヘルス重視の機運が高まってきたことに加え、2010年前後からパワハラに対する取り組みが盛んになってきたといえます。たしかに、政府による施策も大事なことは間違いありません。しかし、それ以上に、企業やその社員の個々人が人間性の回復をはからなければ、根本的な解決にならないということを忘れてはなりません。
 
 

 
 
 
【出典】
勇気づけ”で部下を伸ばす、組織を変える
 
近年注目を集めるメンタルヘルス不全やパワーハラスメントといった職場の問題の多くは、「人間性の原理」に基づいたマネジメントによって防ぐことができる――。
本コースでは、数多くの企業や教育現場で導入されている「アドラー心理学」をベースに、部下との間に信頼を築き、“勇気づけ”によって個々の力を最大限に引き出すための考え方と手法を解説。人間性重視のリーダーシップを発揮するための実践的なスキルを身につけます。
 
【監修者プロフィール】
岩井俊憲 いわい としのり
 
1970年、早稲田大学卒業。外資系企業の管理者等を経て、1985年、(有)ヒューマン・ギルドを設立。代表取締役。1986年、アドラー心理学指導者資格を取得。上級教育カウンセラー。アドラー心理学に基づくカウンセリングや公開講座、カウンセラー養成を行うほか、企業・教育委員会・学校から招かれ、カウンセリング・マインド研修、勇気づけ研修や講演を行っている。
主な著書に、『失意の時こそ勇気を』『アドラー心理学によるカウンセリング・マインドの育て方』(コスモス・ライブラリー)、『勇気づけの心理学 増補・改訂版』(金子書房)などがある。
 

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