パワハラと言われないために上司が知っておきたい6つのポイントとは?
2018年11月15日更新
パワーハラスメント(パワハラ)を恐れて、十分な部下指導ができない上司が増えています。そこで、パワハラと言われないために上司が知っておきたい6つのポイントをご紹介します。
パワハラを恐れて十分な注意・指導ができない上司
職場のパワーハラスメント(パワハラ)は、職場風土を悪くし、本人や周りの士気を下げるばかりか、加害者や企業の法的責任が問われることもあり、また公表されることで企業の業績にも大きな影響を与えます。この問題に組織全体で取り組み、一人ひとりがいきいきと活躍できる職場環境の実現をめざすことは、企業の喫緊の課題といえるでしょう。
ところが、パワハラへの取り組みを進めることに、不安を感じている企業が多いのも事実です。厚生労働省の調査(※)によると、予防や対策に取り組むことで「権利ばかり主張する者が増える」「パワーハラスメントに該当すると思えないような訴え、相談が増える」「管理職が弱腰になる」「上司と部下の深いコミュニケーションが取れなくなる」といった問題を懸念する人が多いことがわかっています。
実際、「パワハラと言われるのではないか」という懸念から、十分な部下指導ができないという管理職・上司の方の声も耳にします。
では、上司の日頃の指導がパワハラと言われないようにするためには、具体的にどのようなことに留意すればいいのでしょうか。
※「第7回職場のパワーハラスメント防止対策についての検討会資料」
パワハラと言われないための6つのポイント
パワハラ懸念から部下指導が十分にできない、といった問題を防止するには、どこまでが指導で、どこからが違法なパワハラになるのか、そのポイントを、管理職・上司の方にしっかりと理解してもらうことが第一歩となります。
ここで押さえておきたいのが、「個人の受け取り方によっては、業務上必要な指示や注意・指導を不満に感じたりする場合でも、これらが業務上の適正な範囲で行なわれている場合にはパワーハラスメントには当たらない」という判断基準です。
注意指導なのか、パワハラなのか、その判断基準は、“業務上の適正な範囲を超えているか否か”にあるということです。
この判断基準をふまえて、パワハラと言われないための6つのポイントを、具体的に紹介していきましょう。
(1)動機・目的は正当か
たとえば上司が、特定の部下だけに厳しい指導や叱責をしている場合は、よいとはいえません。アンバランスな指導をすると「嫌いだからいじめている」という誤解を招きやすくなります。部下に対して厳しいという自覚がある方は、一貫してどの部下にも厳しいという態度が望ましいでしょう。
また、「仕事上の指導は厳しいが、仕事を離れるとさっぱりしている」といった切り替えも大切です。日頃から部下の悪口を言ったり、個人的に折り合いも悪かったりというケースは問題になりやすいものです。
さらに、注意・指導の必要性があるのかどうかの確認が大切です。大した問題点がないのに厳しく指導したり、また事実をよく確認せずに指導したりするのは問題です。特に、事実誤認がないように、自分自身が現認していないことで部下を注意指導する際には、まずは事実確認をする。そのうえで、「これはやはり部下が悪い」ということになれば指導する、という手順を必ず踏むようにしたいものです。
(2)人格への配慮
「罪を憎んで人を憎まず」という言葉がありますが、仕事においても、憎むべきは問題行動であって、人ではありません。上司の方には、この意識を強くもっていただきたいものです。
指導にあたっては、部下のどの行動が、どのように問題なのかを指導する。さらには改善方法も具体的に提示することが望まれます。
例えば「君は協調性がないな」というような漠然とした指導では、部下に誤解されやすく、効果も行動変容も期待できません。「昨日の会議で君は〇〇と発言し、その後もA君の仕事を一切手伝おうとしなかったね。こういう態度では、周囲の人間との関係も悪くなるし、嫌な雰囲気になる。一度、A君と話をして、積極的にA君をサポートしなさい」。このようにエピソードをとりあげて、具体的に指導することが大切です。
さらに、注意指導する「場」にも気をつけましょう。たとえば、大勢の人がいる朝礼の場で、一人の部下を公然と注意・指導するのは避けたいものです。別室に呼んで指導するなど、部下に恥をかかせないという配慮が大切です。
また、面談で、話を聞きながら、対話しながら注意・指導するのはよいのですが、メール等で一方的に注意・指導するのは避けた方がいいでしょう。これは、メールがよくないということではなく、双方向でない形で部下の言い分を聞かずに指導することに問題があるのです。
注意・指導の後には、上司のほうから部下に声をかけるなどの精神的なフォローも忘れないようにしましょう。ちょっと言い過ぎたかなという場合には、「だけど君にはこういういい面もあるから、これからもがんばってくれ」といったフォローがあると、部下も注意・指導を前向きに受け止めることができるでしょう。
(3)時間的長さ
部下への注意・指導は、通常必要な時間に留めましょう。必要以上に長い時間をかけるのはよくありません。
(4)言葉や態度
普通の言葉や態度で注意・指導しましょう。指導する上司が感情的になったり、高圧的な態度をとったり、あるいは複数名で取り囲んで威圧するような形はよくありません。上司も人間ですから、ついカッとしてしまうこともあると思いますが、そこは日頃から注意をしたいものです。
(5)暴行の有無
どんな場合でも、部下への暴力・暴行はよくありません。特に反抗的な態度をとる部下に対しては、つい手が出る場合があるので注意が必要です。反抗的な態度をとる部下については、「注意・指導をしたが聞き入れなかった」ということを記録に残しておくだけでよく、その場で屈服させる必要はありません。
(6)回数
注意・指導の回数にも気をつける必要があります。問題点を指摘し、具体的な改善をきっちりと伝えた後は、しばらく部下の様子を見るようにしましょう。同じことを何回もネチネチ・ダラダラ注意するのは好ましくありません。定期的に面談して、改善状況を確認する等が推奨されます。
部下からの不当な「パワハラ」申し立てには、ひるまない態度で臨む
上司が部下への注意・指導の在り方について、十分に留意しているにもかかわらず「それってパワハラではないですか」と言ってくる部下には、どう対応すればいいのでしょうか?
まずは、ひるまないことが重要です。「パワハラではありません。そういう反抗的な態度だと、いつまで経っても成長しませんよ」と毅然とした態度で注意・指導するべきです。
程度がひどい場合には、勤務評定を下げてもいいですし、最終的には処分も可能となります。
パワハラと言われない注意・指導を実践するために、もっとも重要なのは、人格を非難しないこと。そして、部下のどの行動が、どのように問題なのか、改善方法もふくめて徹底的に具体的に指導することです。管理職・上司の方々には、これらを心がけ、働く人全員がいきいきと安心して働けるパワハラのない職場づくりを目指したいものです。
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野口 大(のぐち・だい)
弁護士。野口&パートナーズ法律事務所代表。野口&パートナーズ・コンサルティング(株)代表取締役。平成2年司法試験合格、平成3年京都大学法学部卒業、平成14年ニューヨーク州コーネル大学ロースクール卒業(人事労務管理理論を履修)。債権回収や各種契約書・労使紛争等の企業法務に熟知し、特に労使紛争については数多くの団体交渉や労働裁判を専ら会社側の立場で手がける弁護士として全国的に著名。単なる紛争処理に留まらず、紛争予防方法や日々の人事労務管理に関する事柄まできめ細やかにアドバイスするわが国有数のコンサル型弁護士であり、全国の多数の企業の顧問・社外役員を務める。