ストレスチェック制度の目的と活用法
2016年6月15日更新
ストレスチェック制度の活用にあたっては、この制度の目的が、不調を未然に防ぐ「1次予防」であることを周知徹底する必要があります。職場のメンタルヘルスケアをリードする、ウェルリンク・メンタルヘルス研究所所長・小西喜朗氏の解説です。
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ストレスチェック制度の目的は1次予防
労働安全衛生法の一部改正により2015年12月からストレスチェック制度はスタートし、事業者に年1回のストレスチェックが義務化(50人未満の事業場は努力義務)されました。つまり、2016年11月末までに最初のストレスチェックを実施しなければなりません。
ストレスチェックと言えば、うつ病等を含めた精神疾患の発見を目的としたものだと考える人が多いかもしれません。しかし、ストレスチェックのいちばんの目的はメンタルヘルス不調を未然に防ぐことにあります。
精神疾患の予防には、不調を未然に防ぐ「1次予防」に加え、不調者の早期発見と治療である「2次予防」、そして不調となった従業員の職場復帰を支援する「3次予防」があります。ストレスチェック制度はこのなかで「1次予防」を主目的とした制度設計となっています。
事業者に課せられる3つの義務
ストレスチェック制度では事業者に3つの義務が課せられています。まずは「ストレスチェックの実施義務」、次に面接が必要な高ストレス者からの申出があった場合に「医師による面接指導を実施する実施義務」、3つ目は面接指導の結果に基づき「就業上の措置を講じる義務」です。この3つの義務からも、調子の悪い人を見つけて、治療や休職等の就業措置に結びつけることが狙いだという勘違いが起ります。多くのメンタルヘルス担当者と話をしていても、ストレスチェックの目的が1次予防であると分かっていながらも、まるで「不調者の発見が目的である」かのように話題が次第に変化します。そして、従業員の多くも、はやり不調者の発見と対処が目的であると勘違いした対応となって行くのです。
人の興味関心はどうしても、リスク発見へと向かいがちです。これは生きていくための本能とも言えますが、それがストレスチェックへの取組みに歪みをもたらします。
ストレスを味方につける
ストレスチェックを不調者探しと捉えられると、多くの弊害が生じます。まず、ストレスが単純に悪いもの、避けるべきものだという勘違いが生じます。すると、ストレスを与える上司や会社は「悪者」となり、場合によってはストレスチェックをきっかけに会社と対立する従業員も出てくるでしょう。また、ストレスチェックが疾患探しであると受け取られることで、正直に回答しない人も出て来ます。さらには、面接指導を希望する従業員も非常に少なくなります。
しかし、ストレスは生きている限り必ず存在するもの、ストレスのない職場はありません。ストレスを避けてばかりでは、激変していく社会環境への適応能力はどんどん低下します。単純なストレス悪玉論は、個人にとっても組織にとっても決してよい結果をもたらしません。
もちろん過剰なストレスは多くの心身の不調や疾患の原因となりますから、ストレス・マネジメントはたいへん重要です。しかし、それはストレスをなくすことではありません。適度なストレス状態をつくり、ストレスを味方につけることこそが、明日への生きる活力となります。
医師による面接指導のいちばんの目的はセルフケア
ストレスチェックは、あくまでストレスの程度をチェックするものであり、ストレスを上手にコントロールするためのきっかけです。医師による面接指導の目的も「健康指導」にあります。指導のポイントは疾患予防であり、ストレスと上手につきあう方法を検討する場となります。面接指導の結果によっては専門医への受診を勧められることや就業上の措置が必要になることもありますが、いちばんの目的はセルフケア等のストレス対策を行い、メンタルヘルス不調を未然に防ぐことです。
ストレスチェック制度を導入するにあたって、1次予防がいちばんの目的であることを外さないこと、そして実施側も従業員も十分に理解することが、ストレスチェックの効果を高めるでしょう。
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【著者プロフィール】
小西喜朗 (こにし・よしろう)
ウェルリンク株式会社顧問、産業カウンセラー、教育カウンセラー。
1984年、京都大学卒業後、編集者、ジャーナリスト等を経て、2000年にウェルリンク株式会社設立に参画。累計130万人以上が利用する「総合ストレスチェックSelf」を開発する他、メンタルヘルス研修およびコンサルティングを行う。メンタル法律問題研究会理事、日本マインドフルネス学会理事等を歴任し、職場のメンタルヘルスケアをリードする。
共著に『自分で治すがん』(朝日新聞社)、『リラクセーションビジネス』(中央経済社)、「メンタルヘルス・マネジメント」(PHP研究所)、『ポジティブ心理学再考』(ナカニシヤ出版)など。