HRBPとは? これまでの「人事」との違いや求められるスキルについて解説
2024年7月 8日更新
HRBPとは、戦略人事のプロフェッショナルのことを意味し、経営者のビジネスパートナーとして人事戦略を立案し、実行していくことが求められます。社会環境の変化を背景に、注目を浴びている概念です。本記事では、HRBPの概要や求められる背景、導入を成功させるためのポイントについて解説します。
INDEX
なお、HRBPは戦略人事を進めるうえでの3つの柱(3ピラー)の1つとされています。この3つの柱については、こちらの記事もご覧ください。
※参考:CoE、HRBP、HRSS...「3ピラーモデル」とは?~戦略人事を推進する法
HRBP(HRビジネスパートナー)とは
HRBPは「Human Resource Business Partner」の略語で、経営者と同じ目線で人事戦略を立案し、企業や事業の成長を支援する戦略人事のプロフェッショナルのことです。「HRビジネスパートナー」と呼ばれることもあります。
HRBPは外部のコンサルタントとは異なり、企業内の人事機能の1つです。ビジネスをめぐる環境変化が激しい現代で企業が継続的に成長していくためには、人事施策を戦略的に実行していく必要があります。それを実現させるための役割を担うのが、HRBPです。
ウルリッチにより提唱された「HRBP」
HRBPは、人事や組織論、リーダーシップの研究において多くの実績を有する、アメリカミシガン大学教授のデイビッド・ウルリッチ氏によって提唱されました。
ウルリッチ氏が提唱したHRBPが従来の人事と異なる点は、人事を単なる管理業務として捉えるのではなく、経営者のビジネスパートナーとして位置づけている点です。経営目標の達成に向けて、人事が積極的に経営に参加すべきであるとの考えを示しています。
また、HRBPは経営者と社員をつなぐ存在として、現場に近い立場で信頼関係を構築しながら課題解決を進めていく役割を有しているとしています。
HRBPの役割や仕事内容
HRBPの大きな役割は、社員と組織のパフォーマンスを向上させ、業績アップにつなげることです。そのために担う役割は多岐にわたり、具体的には、以下のようなものがあげられます。
- 戦略人事のマネジメント
- 経営者と社員の橋渡し
- 組織力強化のための人材育成
HRBPは経営者に近い視点で組織を捉え、問題点を経営層へつなぐ役割を担います。さらにビジネスパートナーとして、企業の収益アップに貢献しなければなりません。そのため、HRBPには人事戦略全般に関する深い理解や、経営的な視点が求められます。
HRBPを社内に導入する際は、人事部門の経験だけを重視して人材を配置するのではなく、経営的な視点で物事を理解・分析できる能力をもった人材を配置することが肝心です。
HRBPと人事の違い
HRBPは日本においては比較的新しい概念のため、これまでの「人事(部)」との違いがわかりにくいと感じるかもしれません。HRBPは、採用や労務管理、給与の支払いなどの基本的な人事業務に加え、企業が発展していくために戦略的に動くことが求められます。HRBPを効果的なものにするためには、従来の人事との違いをしっかり意識することが大切です。
HRBPと人事部門は、ミッションが異なります。人事部門は、社員をまとめるための制度や仕組みをつくり、管理・運用することが使命です。制度の管理・運用にあたっては効率性が重視されます。
一方のHRBPは、経営戦略の実現や事業目標の達成をゴールとして、能動的・戦略的に活動することが求められる点が特徴です。
また、HRBPは1つの事業部門に対して1人の担当者がつくのが一般的ですが、人事部門は企業全体の人事業務を担います。組織形態の面からも、両者には明確な違いがあります。
HRBPと労務管理の違い
HRBPと労務管理の違いは、その目的です。労務管理は、勤怠や給与の支払い、福利厚生に関する業務を通して社員の労働環境を整えることを目的としています。社員の健康管理やハラスメント対策も併せて実施し、社員が安心して働ける環境を提供することがメインの役割です。
一方のHRBPは、労務管理も業務に含まれますが、最終的なゴールは経営戦略や組織改革の実現であり、労務管理よりも能動的な活動が求められます。
HRBPが現代企業に求められる理由
HRBPは1990年代にアメリカで誕生した概念ですが、現代の日本で注目を集めています。HRBPは、人事部門も経営目標を達成するための重要な担い手となる点が特徴です。日本でHRBPが求められている背景としては、以下の2点があげられます。
- VUCA時代の到来
- 少子高齢化やDX推進による人材獲得競争の激化
それぞれ詳しくみていきましょう。
VUCA時代の到来
急速なデジタル化の進展や感染症の流行、甚大な被害をもたらす自然災害の発生など、現代社会ではあらゆるものが大きく変化し、これまでの常識が通用しなくなってきています。変化が激しく将来を見通すことが困難な時代のことを「VUCA時代」と呼びます。
VUCA時代において大切なのは、変化を敏感にキャッチし、迅速に必要なアクションを起こすことです。経営者がその役割を担うことも可能ですが、経営者の仕事は多岐にわたり、多忙を極めているのが実情でしょう。
そうしたことから、経営者と同じ目線でVUCA時代に立ち向かい、戦略的な人事を実行していけるHRBPの重要性が高まっているのです。
少子高齢化やDX推進による人材獲得競争の激化
少子高齢化による労働人口の減少に歯止めがかからないなか、優秀な人材の確保は多くの企業にとって重要な経営課題です。さらにDXの推進も、人材獲得競争が激化する要因となっています。
労働力の確保が困難を極める現代において大切なのは、従来の人事施策に固執せず、先進的な戦略を迅速に実行していくことです。そこで効果を発揮するのがHRBPです。HRBPを導入し、経営戦略にもとづく戦略人事の実現を目指す企業が増えています。
HRBPに求められるスキル
HRBPには、人事としての基礎的な知識に加え、経営者と対等にやり取りできる知見や知識、経営感覚など、従来の人事と比較して幅広いスキルが求められます。
具体的には、以下のようなスキルです。
- 人事のプロフェッショナルとしてのスキル
- コミュニケーションスキル
- 課題分析力
- 経営スキル
- キャリアコンサルティング
それぞれの詳細を解説します。
人事のプロフェッショナルとしてのスキル
HRBPは従来の人事とは違う新たな役割を担っているとはいえ、人事に関する知識や経験がベースとして求められることに変わりはありません。
人材採用や評価制度の設計・運用、組織開発、労務管理など、幅広い業務に精通していることが求められます。労働法などの法的知識もHRBPとして役立てられるでしょう。人事の実務経験を十分に積んだうえでHRBPとして人事戦略の立案に携わるステップが理想的です。
コミュニケーションスキル
HRBPの役割を担うためには、どのような立場の人ともスムーズに関係構築できる高いコミュニケーション能力が必要です。
HRBPはその立場の特性上、経営者や事業責任者だけでなく、企業内の社員とも良好な関係を築く必要があります。現場の声に耳を傾け、そこで得た情報を責任者や経営者にフィードバックし、人事戦略に反映させていきます。
自ら意見や考えを発信するコミュニケーションスキルだけでなく、相手の真意を汲み取る力や、会議において合意形成を促す力など、求められるコミュニケーションスキルの幅が広いことが特徴です。
課題分析力
HRBPの役割を担うには、課題分析力が必要です。事業の発展の妨げになっている要因を分析し、課題に応じた解決策を講じていかなければなりません。
課題分析にあたっては、ロジカル・シンキングやクリティカル・シンキングの手法を身につけておくとよいでしょう。フレームワークを活用し、効率的に分析していくことがポイントです。さらに発展的な戦略人事を実現するためには、既成概念にとらわれない新しいアイデアを生み出す発想力や独創性も求められます。
経営スキル
HRBPは、経営者のビジネスパートナーとして戦略人事を実行していくため、経営に関するスキルや見識も求められます。
HRBPは経営者のパートナーとして、経営に関する相談役を務めなければなりません。経営戦略に直接影響を及ぼす立場であることを認識し、業界全体や競合の動向を常に把握し、必要に応じて経営者に意見具申することも必要です。
キャリアコンサルティング
HRBPの仕事に従事するために特別な資格は必要ありませんが、業務に活かせる資格として、キャリアコンサルタントがあげられます。
キャリアコンサルタントとは、労働者のスキルや価値観、特性などをもとに職業の選択や能力開発をサポートしたり、相談に応じたりするなど、キャリア全般に関するコンサルティングをする専門職です。ハローワークや転職エージェントで働いているイメージがあるかもしれませんが、企業の人事部門でも役立つ資格として注目されています。
HRBPの役割として、社員のキャリア開発の支援があります。キャリアコンサルタント資格を取得すれば、社員のキャリア開発に関してより踏み込んだアドバイスが可能になるでしょう。
HRBP導入の流れ
HRBPを導入するにあたっては、導入目的を明確にしたうえで、入念な準備が必要です。必要な手順を踏まずに設置しても、望むような結果を得ることは難しいでしょう。
HRBP導入の流れは、以下のとおりです。
- 人事戦略を立案する
- 体制を整えトライアルを実行する
- 継続的な本格運用を目指す
それぞれの詳細を解説します。
1.人事戦略を立案する
まずは人事戦略を立案します。HRBPの導入自体が目的化しないために、大切なステップです。戦略を考える際は、企業の経営戦略を意識しながら求められる人材の要件や組織体制を明確にしていきます。
この際、人材ポートフォリオを作成すると企業に必要な人的リソースが可視化されるため、おすすめです。人材ポートフォリオとは、「社内のどこに、どのようなスキルをもった人材が、どのくらい必要か」を具体的に示した構成図のことです。
人材の確保は一般的に採用活動を通して行われますが、採用後の育成プランも併せて検討しておくとよいでしょう。また、人事戦略はすぐに経営成果に繋がるとは限りません。人材や組織に関する検討事項を2〜3年計画にしてまとめていきます。
2.体制を整えトライアルを実行する
人事戦略が明確化されたら、実行体制を検討していきます。現在の人事部門で対応できるのであれば、無理にHRBPを設置する必要はないでしょう。HRBPを設置したほうが効率的に人事戦略を実現できると判断したときのみ、設置を決定します。
HRBPの設置が決定したら、まずはトライアルを実施しましょう。すぐに本格導入しない理由は、HRBPの設置について、部門側の理解を得る必要があるためです。HRBPの特徴として、ビジネスを現場の視点で捉え、現場と連携しながら戦略を実行していく点があげられます。そのため、現場との協力体制を築くステップが不可欠です。
まずは必要性の高い部門から導入するなど、スモールステップで始める方法がおすすめです。部門との良好な関係が築ければ、大きな課題に対して効率的に取り組めるようになるでしょう。
3.継続的な本格運用を目指す
トライアルをある程度継続すると、HRBP導入にあたっての課題や改善すべき点が見えてくるはずです。適宜課題の解決や改善をはかり、その結果を検証することが大切です。検証をしっかり行うことが新たな課題の発見につながり、HRBPの有効性を高めていきます。
また、担当者の問題解決力を高める取り組みも大切です。組織の問題を解決するためには、物事を論理的に捉えるスキルはもちろん、さまざまな実践的な解決手段を身につけることが必要です。そのためには、人事に関する基本的な理論の理解はもちろん、組織開発や労務管理など、幅広い専門知識を習得する必要があります。
HRBPは導入すれば終わりではなく、継続的にスキルを高めながら現場と連携して施策を実行していくことが大切です。
HRBP導入を成功させるためのポイント
HRBP導入を成功させるためには、HRBP導入の目的を明確化しておくことが大切です。また、HRBPはすぐに効果が得られるものではない点を理解し、一定の時間をかけて進める必要があります。成功のためのポイントは、以下のとおりです。
- CoEや他部署と連携する
- 現場との信頼関係を構築する
- HRBPに適した人材を登用する
- PDCAを回しながら徐々に導入を進める
それぞれの詳細を解説します。
CoE、本社人事部、他部署と連携する
CoE(Center of Excellence:センターオブエクセレンス)とは、組織横断的な取り組みを進めるために、人材などのリソースを1つの拠点に集約し、組織化することです。もともとは大学の研究拠点を意味する言葉で、日本ではまだ普及しているとはいえませんが、海外ではすでに多くの企業で導入されています。
人事領域におけるCoEは、本社の人事機能と同じと考えてもよいかもしれません。採用のプロ、人材開発のプロ、労務管理のプロなど、各分野のに専門家が集う組織のことをCoEと呼びます。CoEは、現場の問題解決の実行役を担うHRBPの活動をサポートする役割もあります。ですから、CoEとHRBPが上手に連携体制を構築することが成功のポイントといえます。
また、人事以外の他部署との連携も欠かせません。HRBPの導入に失敗するケースの多くが、HRBPが他部署から孤立した存在になり、うまく連携できないことに起因しています。経営者と現場をつなぐ橋渡し役として、HRBPが中心となって人事面から諸政策を推進していくことが大切です。
現場との信頼関係を構築する
HRBPが機能を十分に発揮するためには、現場との信頼関係構築が不可欠です。従来の人事部門は、他部署からの依頼を受けて仕事をするスタイルが一般的でしたが、HRBPは経営者の考えを現場に伝えたり、現場の声を経営者に届けたりと、積極的な働きかけが求められるためです。
現場との信頼関係が構築されていなければ、HRBPとしての意見を受け入れてもらえず、従来の人事部門としての役割しか果たせないでしょう。信頼関係があればHRBPと各事業部門に一体感が醸成され、同じゴールへ向かって協力しながら進んでいけるはずです。
HRBPに適した人材を登用する
HRBPに求められるスキルについては前述のとおりですが、さらに具体的な要件をあげると、以下のような資質をもった人材が適しているでしょう。
- 人事業務全般に対する経験と知識を十分に有している
- 経営者の視点で物事を捉え、問題解決にあたれる
- コミュニケーション能力が高く、経営層や他部署とスムーズに関係構築できる
上記に加え、ときには経営者に対して異を唱えられるような人材が適しています。経営者側の意見に偏った人材を配置してしまうと、現場との間に軋轢が生じるおそれがあります。経営者の考えを一方的に押しつけるのではなく、経営者と現場の橋渡し役として立ち回れる人材が最適です。
PDCAを回しながら徐々に導入を進める
HRBPの導入は一気に進めるのではなく、PDCAを回しながら徐々に導入範囲を広げていきましょう。HRBPの機能を効果的に発揮するためには、HRBPの役割を組織全体で共有し、信頼関係を構築することが大切です。
関係構築が不十分な状態で無理やり全社的に導入すると、従来の人事の枠を超えられず、本来得られるはずの成果を得られなくなります。HRBP導入の流れで解説したとおり、まずはトライアル的に実施し、PDCAを回していくことが大切です。
まとめ:HRBPは戦略人事に欠かせない人事のプロフェッショナル
HRBPは、変化の激しい社会環境や人材獲得競争の激化を背景に、注目を集めている概念です。
事業部門に人事の視点をもった人材を配置することで、現場の実情に合った戦略的な事業運営を実現します。その結果、課題解決のスピードアップなど、組織にとってさまざまなプラスの変化が起きやすくなります。人事の側面から企業の成長をバックアップしていく仕組みです。
一方で、HRBPの意義に対する理解が不十分な状態で導入を進めてしまうと、期待していた効果が得られないばかりでなく、現場との間に軋轢が生じるリスクがあります。一定の時間をかけ、適切に進めることが大切です。
今回の記事で紹介した内容を参考に、HRBPの導入を検討してみてください。