CoE、HRBP、HRSS...「3ピラーモデル」とは?~戦略人事を推進する法
2024年7月 5日更新
「戦略人事」の推進にあたり、「3ピラーモデル」が注目を集めています。3ピラーモデルは人事部門の機能強化を目的に、先進企業で導入が進んでいます。本記事では、3ピラーモデルの考え方から具体的な導入ポイントまでを解説します。
なお、「戦略人事」「HRBP」の役割についてはあわせて下記の記事もご覧ください。
※参考:戦略人事とは?~これまでの人事との違いや事例、実践ポイントを解説
※参考:HRBPとは? これまでの「人事」との違いや求められるスキルについて解説
企業人事を取り巻く環境の変化
現代企業の人事における課題
現代社会は、グローバル化、テクノロジーの進化、価値観の多様化など、かつてないスピードで変化しています。企業を取り巻く環境も激変し、従来のビジネスモデルや組織構造では対応できない状況が生まれています。 このような状況下で、企業の人事部門は、組織の成長と競争力強化を支える重要な役割を担う一方で、多くの課題に直面しています。
例えば、人材不足、人材育成の遅れ、従業員のエンゲージメント低下、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)の推進不足などが挙げられます。これらの課題は、企業の成長を阻害する要因となりかねず、競争力を低下させる可能性もはらんでいます。
デイビッド・ウルリッチによる問題提起
米国の人事専門家であるデイビッド・ウルリッチ氏は、1990年代に「人事部門は、従来の管理業務から脱却し、戦略的なパートナーとして経営に貢献すべきである」と提唱しました。ウルリッチは、人事部門が経営戦略と密接に連携し、組織の目標達成に貢献する必要性を訴え、人事部門の役割を大きく変える必要性を指摘しました。
ウルリッチは、人事部門が戦略的なパートナーとして経営に貢献するためには、以下の3つの役割を担う必要があると主張しました。
- 経営戦略と人材戦略を連携させ、組織の目標達成に貢献する。
- 人事関連の業務を効率的に管理し、コスト削減やコンプライアンス遵守を図る。
- 従業員のエンゲージメントを高め、働きがいのある職場環境を提供する。
ウルリッチが提唱したように、いま企業の人事部門は、単なる管理部門から組織の戦略的なパートナーへの進化、つまり「戦略人事」の実践が求められているのです。
3ピラーモデルとは
3ピラーモデルの概要
そうした戦略人事を実践するうえでの有用なガイドになりそうなのがデイビッド・ウルリッチ氏が提唱した「3ピラーモデル」です。3ピラーモデルとは、人事部門の機能を3つの柱(ピラー)に分け、それぞれ役割を特化させることで、人事部門全体の効率性と専門性を高める人事組織モデルです。
具体的には、人事業務の中でも高度な企画業務を担う「CoE」、現場密着で人事戦略面から事業経営を支援する「HRBP」、定型業務を集約し効率化と高度化をすすめる「HRSS」という3つの柱があります。それぞれの役割を解説します。
CoEの役割
CoE(Center ofExcellence)は、人事制度設計や人材・組織開発の専門家です。採用、研修などの専門家が集まり、全社的に標準化されたプロセスやツールを開発・共有することで、人事業務の質の向上を図ります。CoEは、人事部門全体の専門知識やノウハウを蓄積し、共有することで、人事業務の質を高め、人材戦略の精度を高める役割を担います。
HRBPの役割
HRBP(Human Resources BusinessPartner)は、経営・事業責任者を人事戦略面からサポートする存在です。経営戦略と人事戦略を連携させ、組織の目標達成を支援する役割を担います。そのため事業部門の経営層と密接に連携し、人材戦略の策定、人材育成、組織開発などを支援することで、事業部門の成長に貢献していきます。また、HRBPは、事業部門のニーズを理解し、人材戦略を策定することで、事業部門の目標達成に貢献するだけでなく、従業員のエンゲージメント向上にも貢献します。事業部門と人事部門の橋渡し役となり、両者の連携を強化することで、組織全体の目標達成を促進していくのが役割となります。
HRSSの役割
HRSS(Human Resources Shared Services)は、人事部門の共通業務を効率的に処理する役割を担います。 給与計算、勤怠管理、人事データ管理など、ルーティンワークを専門チームが担当することで、HRBPやCoEがより戦略的な業務に集中できる環境を整備します。HRSSは、人事部門の共通業務を効率化することで、人事担当者の負担を軽減し、より戦略的な業務に集中できる環境を整備します。また、HRSSは、人事データの管理を効率化することで、人材戦略の策定や人材育成の精度向上にも貢献します。
3ピラーモデルの導入効果
業務効率の向上
3ピラーモデルを導入することで、人事部門の業務効率が向上します。CoEによる標準化されたプロセスやツールの導入、HRSSによる共通業務の効率化により、人事担当者は、より戦略的な業務に集中できるようになります。例えば、採用プロセスを標準化することで、採用にかかる時間やコストを削減することができます。また、給与計算や勤怠管理などの共通業務をHRSSに委託することで、人事担当者は、人材育成や組織開発などの戦略的な業務に集中することができます。
戦略的価値の向上
3ピラーモデルは、人事部門の戦略的な価値を高めます。HRBPが事業部門と連携することで、人材戦略が経営戦略と整合性を持ち、組織全体の目標達成に貢献するようになります。例えば、HRBPが事業部門の経営層と連携して、人材戦略を策定することで、事業部門の成長に貢献する人材を確保することができます。また、HRBPが事業部門のニーズを理解し、人材育成プログラムを開発することで、従業員のスキルアップを促進し、組織全体の競争力強化に貢献することができます。
従業員満足度の向上
3ピラーモデルは、従業員満足度の向上にもつながります。CoEによる専門性の向上、HRBPによる事業部門へのサポート強化により、従業員はより質の高い人事サービスを受けられるようになります。例えば、CoEが開発した標準化された研修プログラムにより、従業員はより質の高い研修を受けることができます。また、HRBPが事業部門のニーズを理解し、従業員に適切なサポートを提供することで、従業員のエンゲージメントを高めることができます。
3ピラーモデル導入のステップ
現状分析と課題設定
3ピラーモデルを導入する前に、まず現状分析を行い、課題を明確にする必要があります。現状の組織構造、人事部門の機能、業務プロセスなどを分析し、3ピラーモデル導入によってどのような課題を解決できるのかを検討します。
例えば、現状の組織構造では、人事部門が管理業務に追われ、戦略的な業務に集中できない状況であるかもしれません。また、現状の業務プロセスでは、非効率な部分が多く、業務効率が低い可能性もあります。
これらの課題を分析し、3ピラーモデル導入によってどのように改善できるのかを検討することが重要です。
ステークホルダーの理解と協力
3ピラーモデル導入には、経営層、人事部門、事業部門など、様々なステークホルダーの理解と協力が必要です。導入の目的、メリット、具体的な計画などを共有し、各ステークホルダーの理解と協力を得ることが重要です。
特に、経営層の理解と支持を得ることが重要です。経営層が3ピラーモデル導入の必要性を理解し、積極的に支援することで、導入がスムーズに進みます。 また、人事部門、事業部門など、関係部署との連携も重要です。 各部署の意見を聞き取り、導入計画に反映することで、導入後のスムーズな運用を図ることができます。
トレーニングとサポート
3ピラーモデル導入後には、各担当者へのトレーニングとサポートが必要です。CoE、HRBP、HRSSの役割、業務プロセス、ツールなどを理解させ、スムーズに業務を遂行できるように支援します。
特に、HRBPは、事業部門との連携を強化するために、事業部門のニーズを理解し、適切な人材戦略を策定する必要があります。そのため、HRBPには、事業部門の業務内容や経営戦略に関する知識、人材戦略に関する知識、コミュニケーション能力などを習得させるためのトレーニングが必要です。
また、HRSSは、共通業務を効率的に処理するために、業務プロセスやツールに関する知識、データ管理に関する知識などを習得させるためのトレーニングが必要です。
戦略人事が企業に与える影響
経営的視点の強化
戦略人事は、人事部門の経営的視点を強化します。経営戦略と人材戦略を連携させることで、人事部門は、組織の目標達成に貢献する重要なパートナーとして認識されるようになります。
例えば、人事部門が経営戦略に基づいて人材戦略を策定し、人材育成や採用活動を行うことで、組織の成長に貢献することができます。また、人事部門が経営層と連携して、人材に関する情報を共有することで、経営判断の精度を高めることができます。
組織の柔軟性向上
戦略人事は、組織の柔軟性を向上させます。人材の育成、配置、評価などを戦略的に行うことで、変化に迅速に対応できる組織体制を構築できます。
例えば、人材育成プログラムを開発することで、従業員のスキルアップを促進し、変化に対応できる人材を育成することができます。また、人材配置を戦略的に行うことで、組織のニーズに合わせた人材配置を実現し、変化に迅速に対応することができます。
従業員エンゲージメントの向上
戦略人事は、従業員エンゲージメントの向上にもつながります。従業員の能力開発、キャリアパス、働き方改革などを推進することで、従業員のモチベーションを高め、組織への愛着を深めることができます。
例えば、従業員の能力開発プログラムを提供することで、従業員のスキルアップを促進し、従業員のモチベーションを高めることができます。また、従業員のキャリアパスを明確にすることで、従業員の将来への期待を高め、組織への愛着を深めることができます。
まとめ
国内外では多くの先進企業が3ピラーモデルを導入し、人事機能の改革を進めています。3ピラーモデルは戦略人事を実践するうえで日本企業にも参考になるモデルといえるでしょう。特に昨今では、「HRBP」を任命する企業も増えています。
しかし、いっぽうで「HRBPは任命したが具体的に何をさせればよいのかわからない」というケースもあるようです。少なくありません。そうしたことにならないように、まずは3つの柱を切り口に、現在の人事部門の業務を分類し、役割やタスク、必要な人材・人員などを整理してみてはいかがでしょうか。今後の人事部門改革の道筋のヒントがみえてくるでしょう。
「人的資本経営」「戦略人事」という言葉に代表されるように、これからの人事は単なる管理部門から組織の戦略的なパートナーへと、その重要性が高まっていきます。本記事でご紹介した3ピラーモデルの考え方を参考に、貴社の人事部門の今後のあり方を再検討してみてはいかがでしょうか。
参考文献:デイビッド ウルリッチ著『MBAの人材戦略』(梅津祐良 訳、日本能率協会マネジメントセンター)
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