AI(人工知能)の人材コンピテンシーへの影響
2016年3月11日更新
AI(人工知能)が人の仕事の多くを代行するようになってきました。企業では、自社に必要な人材や、開発すべき能力は何かを見極めていく必要があります。吉田繁夫氏の解説です。
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さまざまな分野に導入されるAI
最近、AI(人工知能:Artificial Intelligence)という言葉をよく耳にします。昔のSFに出てきた知能を持つ人型ロボットをイメージし、テレビのCMなどでもその走りとなるようなものが実際に見られるようになりました。人間の知能、すなわち思考は情報処理機能というべきもので、その一部を機械化したものがコンピュータです。そう考えると、AIは人型ロボットだけでなく、もうすでにさまざまな分野に導入され、人間が行っていた作業の多くを代行するようになっていることが分かります。
早くは、工場の加工ロボットです。これによって省力化が進んだだけでなく、それにかかわる従業員の役割も変化してきました。工場の管理者といえば、昔はいわゆる“親方”的な人物が中心でしたが、今ではコンピュータを理解できなければなりません。こういった機械化の状況は、すでに多くの場面で見られます。
「消える職業」「なくなる仕事」
人間が行っていた作業の機械化はまず、ブルーカラーの仕事のあり方を大きく変えました。しかし、コンピュータの能力がさらに発達し、AIと呼ばれるようになるこれからは、ホワイトカラーの仕事も大きく変わると言われています。そうなれば、ビジネス・パーソンに必要なコンピテンシー(基礎能力)の様相も大きく変わるでしょう。
実際、マッキンゼー・グローバル・インスティチュートは、AIが世界で一億四千万人のフルタイム知識労働者にとって代わると予測し、高度な技術の高価なロボットだけでなく、受付、秘書、調理、医療、清掃、介護などのサービス産業に安価なロボットが進出するだろうとしています。
オックスフォード大学では最近、AIによって今後「消える職業」「なくなる仕事」という予測を発表しました。その中には従来、人間でなければならないとされた接客の仕事なども含まれています。身近な例をあげれば、居酒屋での注文にタブレット端末が導入されたことでかえってお客のストレスが下がったことがあげられますし、今後自動車の自動運転が実現すれば、ドライバーという職業が無くなるだろうということは容易に想像できます。
このように、人間の肉体的作業のみならず、思考作業までがロボットに置き換わっていけば、仕事における人の役割、人材に求められる能力というものも変わらざるを得ません。すなわち、人間でなければできないことに、コンピテンシーを集中させることが必要だということです。
自社に必要な人材を見極める
人間でなければできないこと、それは大きく2つの分野といえます。「決定」と「感情」です。コンピュータは膨大なデータを処理して実行策の成功確率を計算することはできますが、人の感情などデータ化できない情報は無視され、さらに最終決定することはできません。このことから「論理思考力」や「対人関係力」は今後も重要なコンピテンシーであり続けるでしょう。さらにいえば「目標設定」や「芸術」などの創造的活動も人間の方が上です。
さまざまな窓口・受付業務がロボット化されて人が関与する範囲が極小化されるという予測のように、今後はルーチンワーク的な仕事がどんどんロボット化されていくでしょう。
そういう状況の中で企業は、自社に必要な人材は何かを見極めていく必要があります。AIの進展はおそらく予想を超えたスピードで進むでしょう。わずか10年後の職場の状況が、想像もつかないものになっているかもしれません。いち早く、CDP(経歴開発プログラム:Career Development Program)や社員の教育体系に手を加えることが必要になってきています。