松下幸之助の人づくり 3つの特徴
2015年10月13日更新
今あらためて注目が集まっている、松下幸之助の人づくり。その3つの特徴を、PHP研究所研修企画部部長・的場正晃がご紹介します。
OJTの形骸化やチームの絆の弱体化など、職場における人づくりが難しさを増す状況のもと、あらためて松下幸之助の人づくりの進め方に注目が集まっています。
創業期の松下電器(現パナソニック)からは多くのリーダーが輩出され、その人たちの献身的な働きが会社の成長を支えました。必ずしも優秀な人材ばかりを集めていたわけではなかったのに、なぜ人材が育ったのか? その秘密は、「松下幸之助流人づくり」の3つの特徴に集約されます。
松下幸之助流人づくりの3つの特徴
(1)叱って育てる
幸之助に育てられた人たちに共通しているのは、激しく叱られた経験をもっているということです。烈火のごとく叱られ、その激しさに脳震盪を起こして倒れる人もいたほどでした。幸之助は、叱るという行為を通じて松下電器の社員として求められる考え方やふるまいを躾け、人が育つ風土をつくろうとしたのです。ただし、幸之助はやみくもに叱っていたわけではなく、叱る際の判断基準をもっていました。その基準とは、小さな失敗は厳しく叱り、大きな失敗は励ますというものでした。「小事は大事に至る」ということばの通り、組織の緩みは小さなところから発生しがちです。それを防ぐために小事を叱って、職場の緊張感を維持していたのです。
(2)気づかせて育てる
幸之助の右腕であったE氏は、同じ質問を何度も繰り返されたことがありました。幸之助から「今度来られるKさんはどんな人や?」と質問されるたびに同じ回答をしていたE氏ですが、3回目の質問の後に「自分の回答内容が不十分なのかもしれない」と気づき、それから徹夜で情報を収集して、翌日詳しく報告しました。報告を聞き終わった幸之助から大げさなくらい褒められたE氏は感動すると同時に、「自ら気づいたときのほうが人は成長するものだ」という幸之助の考え方を理解し、継承することができたのです。
(3)理と情で育てる
幸之助は、人材の評価・処遇・選抜等に関しては一切私心を交えず、公の観点から最善の判断をしていました。従って、時には冷徹な異動や降格などもせざるを得ない場面も少なからずありました。幸之助は、「経営を進めていくときに大事なのは、事にあたってまず冷静に判断すること、それからそっと情を添えること。この順番が大切である」と述べ、理と情の絶妙なバランスで経営と人心掌握の両立を図ってきたのです。
以上、松下幸之助流人づくりの特徴をご紹介しましたが、いずれも一朝一夕の取り組みで成果が期待されるものではありません。取り組みには時間がかかるし効果も見えにくいですが、その愚直な実践を継続できるか否かが、人づくりの成否を分けるように思われます。幸之助のことばにあるように、「焦らず あわてず あきらめず」こそが成功する人づくりの要諦なのです。
的場正晃(まとば・まさあき)
神戸大学大学院経営学研究科博士課程前期課程にてミッション経営の研究を行ない、MBAを取得。現在は(株)PHP研究所研修企画部部長。