貴社の研修は「やりっぱなし」になっていませんか?
2015年12月 3日更新
やりっぱなしの単発型研修では、その効果は期待できません。人事・教育担当者や経営者・上司が積極的に関与し、フォローがあってはじめて研修効果が生まれるものです。研修前後に職場で実践すべきことをご紹介します。
研修前後の職場のコミュニケーション
研修効果が表れるかどうかは、研修前後の職場でのコミュニケーションにある。
受講者に「研修に期待をしていたか?」という質問をすると、総じて「あまり期待していなかった」という回答が返ってくる。一般的に研修は、人の欠点を矯正する場のように思われているため、「面白くない」「つまらない」という印象を持つのだろう。「研修に行ってこい」と言われると、「この忙しい時期になんで研修なんだ」と感じるのが一般的である。しかし、「こんなに忙しい時期だけど、きみには○○を期待しているんだ。××をしっかり学んできてほしい」というように、上司から研修の意義や期待を伝えるだけで、研修に対するモチベーションを促す効果がある。そして、何よりも受講者が研修で実施するとコミットメントしたことを実行するチャンスを上司が与えることが重要です。上司が職場で実践する指示を与え、受講者が実行しやすくすることが重要だ。
受講者が研修から帰ってきたときは、さらに重要である。研修を受けた直後は、気づきや学びが多く、気持ちが高揚している。そんなときは誰かに伝えたいし、聞いてほしいものである。だからこそ、上司から「研修はどうだった?」と話しかけていただきたい。研修の報告をしっかり受け止めて、何を学んだか、何をやるべきかを明確にさせるべきである。これだけでも受講者は「よし! 頑張ろう」という気持ちになる。
今の職場では、こうしたコミュニケーションが希薄になっている。メールや文書だけで研修の連絡を回している企業が多い。職場の上司に協力してもらい、上司から積極的に研修に対するコミュニケーションをとると、研修効果はかなり違ってくるはずだ。さらに、上司と部下の関係も深まり、組織の一体感を促すきっかけにもなる。研修後に上司との面談を設けたり、朝礼やミーティングで発表したりすることを仕組み化していくことを推奨する。
フォロー研修の重要性
フォロー研修を取り入れて、「実行」と「振り返り」を仕組み化することも大切である。研修の場では理解して、やる気になっても、実際に職場に戻ると忙しさに流されて、なかなか実践できない。だからこそ、フォロー研修を1~2カ月後に実施することで、行動せざるを得ないため研修効果が高まる。
研修で学んだこと・気づいたことをどれだけ実践したか、うまくいっていること、うまくできていないことなど、状況を報告し合い、励まし合い、ノウハウやナレッジを共有することで、研修効果はさらに高まる。
ここまで徹底しても、受講者が研修で理解したことを実行する確率はそう高くない。多くの場合、頭で分かっていても実行されないという状況に陥ってしまう。受講者の潜在意識が邪魔するのである。今までの経験や固定観念が邪魔をして、どんなに気づきや学びがあっても、今まで通りの自分に戻ろうとする。一般的に、学んだことを実行する人は受講者の2割程度、さらに継続する人はその2割程度、結局、成果を出せる人は全体の4%という確率になる。だから、職場が変わっていくには、フォロー研修も必要だが、上司のコーチングや支援をすることで受講者の行動を促し、継続させる仕掛け・仕組みがないと定着は難しいのである。
研修効果を出すためには事前の打ち合わせ・ヒアリングが大切であり、フォロー研修や上司のコーチングや支援が、いかに学びを実行に移すことに貢献しているかお分かりいただけたと思う。
単発型研修ではなかなか効果は出ない。教育担当者や経営者・上司が積極的に関与してはじめて研修効果が生まれる。筆者はこれを「成果追求型研修システム」と呼んでいる。
研修効果が組織に浸透するとき
研修で学んだことの実行が仮になされたとしても、それが継続するかどうかは、職場の同僚・部下など周囲にどれだけ浸透させていくかにかかっている。ある一部の人だけが実行していても、大多数の人がやっていなければ、人は安易な方向に流されていくものだ。
組織に変革が起こり始めるのは、約3割のメンバーが変わり始めたときである。3割のメンバーが変われば、組織全体が変わる可能性がある。研修を実施しても経営者が効果を感じない理由のひとつがこれだ。研修の人選が、変革のうねりがおき始める影響力を無視して受講者を決めていることに問題がある。職場の3割の人が、研修での学びを行動すれば徐々に職場は変わり始める。順番に行かせる研修や選抜教育も3割を超えないと効果が出ることは少ない。受講者を各職場から選抜して集めて研修を行う場合は、職場の影響力も考慮したい。
新しいやり方を導入し、今までのやり方を変える「変革」は、一時的に業績が下がることにも注意したい。慣れないことを始めると、今まで以上にうまくいかない、反対にデメリットが先に露呈してしまう。まず悪影響が出てから、いい効果が現れてくるのが一般的だ。この現象を理解しないために、研修効果の判断を誤る場合がある。効果が出てくるのはいつごろなのかをあらかじめ把握しておくことが重要である。つまり効果が出るまでの時間的なタイムラグを理解し、経営者や上司とすり合わせをしておくことが必要なのである。
研修の効果と研修の限界を理解できれば、効果測定は現実的になってくるはずである。
※出典:『[実践]社員教育推進マニュアル』
茅切伸明(かやきり・のぶあき)
株式会社ヒューマンプロデュース・ジャパン 代表取締役。慶應義塾大学商学部卒業後、(株)三貴入社。 その後、(株)日本エル・シー・エー入社。 平成1年3月 住友銀行グループ 住友ビジネスコンサルテイング(株)(現SMBC コンサルティング(株))入社。セミナー事業部にて、ビジネスセミナーを年間200 以上、企業内研修を50以上担当し、他社のセミナーを年間50以上受講する。 平成18年4月 (株)ヒューマンプロデュース・ジャパンを設立。「本物の教育」「本物の講師」「本物の教育担当者」をプロデュースするという理念を掲げ、現在まで年間500以上、累計8,000以上のセミナー・研修をプロデュースするとともに、セミナー会社・研修会社のコンサルティング、セミナー事業の立ち上げ、企業の教育体系の構築なども手掛ける。著書に、『実践社員教育推進マニュアル』、通信教育『メンタリングで共に成長する新入社員指導・支援の実践コース』(以上、PHP研究所)、『だれでも一流講師になれる71のルール』(税務経理協会)
松下直子(まつした・なおこ)
株式会社オフィスあん 代表取締役。社会保険労務士、人事コンサルタント。神戸大学卒業後、江崎グリコ(株)に入社。新規開拓の営業職、報道担当の広報職、人事労務職を歴任。現在は、社会保険労務士、人事コンサルタントとして顧問先の指導にあたる一方、民間企業や自治体からの研修・セミナー依頼に応え、全国各地を愛車のバイクで巡回する。「人事屋」であることを生涯のライフワークと決意し、経営者や人事担当者の支援に意欲的に向き合うかたわら、人事部門の交流の場「庵(いおり)」の定期開催や、新人社会保険労務士の独立を支援するシェアオフィス「AZ合同事務所」の経営など、幅広く人材育成に携わっている。著書に、『実践社員教育推進マニュアル』『人事・総務マネジメント法律必携』(ともにPHP研究所) 、『採用・面接で[採ってはいけない人]の見きわめ方』『部下育成にもっと自信がつく本』(ともに同文舘出版)ほか。