研修事務局の心得と役割
2016年4月 6日更新
研修事務局は、人を育て、人が成長することにより会社が成長するという意識を持つことが大切です。また、研修現場をオブザーブし、臨機応変に対応していくことが求められます。教育担当者の心得と役割を解説します。
研修事務局の心得と役割とは
研修の事務局は社員を「性善説」で見ることが大切である。社員教育を担当する教育担当者の人間観が間違っていると、成果が出るどころか、逆効果にもなりかねない。社員の欠点を明らかにし改善させるのではなく、長所を見出し活かすことで、どのように仕事の質を高めて、お客様や会社に貢献していくかを支援することが教育担当者の仕事である。
研修は、目先の売上・利益を犠牲にして、参加する人の時間を拘束しなければならない。人が成長することによって、会社が成長するという考え方で教育に臨むべきである。研修の事務局は、教育者としての哲学を持って仕事をしていくことが何よりも大切だ。
しかし、多くの事務局は、研修を企画し講師を選定し、会場設定をすれば、それで仕事は終了と思ってしまい、研修が始まるとすべて「講師任せ」にすることが多い。研修中は席を外し、アンケート結果だけを見る。
研修の効果が表れるのは、受講者が現場で仕事をするときであり、研修事務局は、現場で実行してもらうために、気づきとやる気を高めるサポートをしなければならない。研修効果が発揮されるためにも、事務局は、研修運営中も講師の講義を聴き、どのような講義をしているのか、受講者はどのようなところに関心を持っているのかを常に観察することが必要である。その状況に応じて、研修内容を微修正することや、講師にすすめ方の変更を依頼するなど、協力を促していかなければならない。
研修は、生ものである。受講者の状況に応じて臨機応変に対応していくものであるから、現場で観察することが何より重要である。
研修評価・設営チェックリスト
研修終了時には、事前案内、研修のコンテンツ、環境要因の各項目においてチェックし、研修を評価して次につなげていく必要がある。
研修の案内・オリエンテーション チェックリスト
事前案内
・事前に研修の告知・案内募集をし、参加意欲を高めた
・研修の目標・ゴールを明確に示した
・研修の目的・ねらいを明確に説明できた
・受講者に仕事に対する意識・知識・スキルが向上することを期待させた
研修のコンテンツ要因 チェックリスト
講師のインストラクション
・研修のねらいに沿った内容であった
・研修内容の範囲は、期待通りであった
・事前準備をして講義していた
・研修内容のレベルは適切であった
・研修内容のボリュームは適切であった
・研修における時間管理は適切であった
・研修プログラムは段階的に理解を促進する順序で構成されていた
・情熱を込めて講義をしていた
・研修に対する取り組み姿勢は好感が持てた
・講師の人間性あふれた講義であった
・研修テーマに関する高い専門性を持っていた
・研修テーマに関する多くの成功・失敗事例を知っていた
・話のスピードは聴き取りやすかった
・話し方は、抑揚をつけ、聴きやすかった
・専門用語を分かりやすく、丁寧に説明していた
・説明は表現を工夫していた
・飽きないためのユーモアやクイズを取り入れていた
・ロールプレイング等の各種の技法は、内容の理解促進に効果的であった
・受講者同士のディスカッションや相互交流の促進を働きかけていた
・受講者と積極的にコミュニケーションをはかろうとしていた
・受講者の質問に対して、満足のいく回答をしていた
相互学習
・休憩は、受講者を見ながら適切にとっていた
・受講者の活発な情報交換ができた
・他の受講者の姿勢や意見から学ぶことが多かった
・受講者全員に、熱心に取り組む姿勢、盛り上がりがあった
研修の環境要因 チェックリスト
時間
・研修時期は適切であった
・研修日数は適切であった
・研修時間は適切であった
会場
・休憩室や休憩場所があり、満足のいくものであった
・交通の便がよく利用しやすかった
・会場の環境や雰囲気が研修テーマに合っていた
教室環境
・教室の広さ・形状は適切であった
・照明は適切な明るさであった
・空調のコントロールが適切にできた
・パソコンやプロジェクター、スクリーンの用意がされていた
・パソコンは適切に作動した
・スクリーンの位置は適切であった
・教室の外はうるさくなかった
宿泊施設
・ベッドの寝心地・お風呂など設備は充実していた
・食事は、質、量とも十分であった
・付帯設備(喫煙コーナー、ロッカー、リフレッシュ施設など)は充実していた
懇親会
・受講者同士の懇親が十分に図れていた
・食事・お酒の質、量とも充実していた
事務局
・研修中、講師や受講者の要望に対して適切な対応をしていた
・外部からの連絡をうまく取り次げた
以上、チェックリストとして、参考にしていただきたい。
※「公共能力開発施設の行う訓練効果測定」(職業能力開発総合大学校能力開発研究センター)の研修満足度調査の尺度と質問項目より加筆・修正
※出典:『[実践]社員教育推進マニュアル』(2009年1月・PHP研究所発行)
茅切伸明(かやきり・のぶあき)
株式会社ヒューマンプロデュース・ジャパン 代表取締役。慶應義塾大学商学部卒業後、(株)三貴入社。 その後、(株)日本エル・シー・エー入社。 平成1年3月 住友銀行グループ 住友ビジネスコンサルテイング(株)(現SMBC コンサルティング(株))入社。セミナー事業部にて、ビジネスセミナーを年間200 以上、企業内研修を50以上担当し、他社のセミナーを年間50以上受講する。 平成18年4月 (株)ヒューマンプロデュース・ジャパンを設立。「本物の教育」「本物の講師」「本物の教育担当者」をプロデュースするという理念を掲げ、現在まで年間500以上、累計8,000以上のセミナー・研修をプロデュースするとともに、セミナー会社・研修会社のコンサルティング、セミナー事業の立ち上げ、企業の教育体系の構築なども手掛ける。 著書に、『実践社員教育推進マニュアル』、通信教育『メンタリングで共に成長する新入社員指導・支援の実践コース』(以上、PHP研究所)、『だれでも一流講師になれる71のルール』(税務経理協会)
松下直子(まつした・なおこ)
株式会社オフィスあん 代表取締役。社会保険労務士、人事コンサルタント。 神戸大学卒業後、江崎グリコ(株)に入社。新規開拓の営業職、報道担当の広報職、人事労務職を歴任。現在は、社会保険労務士、人事コンサルタントとして顧問先の指導にあたる一方、民間企業や自治体からの研修・セミナー依頼に応え、全国各地を愛車のバイクで巡回する。「人事屋」であることを生涯のライフワークと決意し、経営者や人事担当者の支援に意欲的に向き合うかたわら、人事部門の交流の場「庵(いおり)」の定期開催や、新人社会保険労務士の独立を支援するシェアオフィス「AZ合同事務所」の経営など、幅広く人材育成に携わっている。著書に、『実践社員教育推進マニュアル』『人事・総務マネジメント法律必携』(ともにPHP研究所) 、『採用・面接で[採ってはいけない人]の見きわめ方』『部下育成にもっと自信がつく本』(ともに同文舘出版)ほか。