研修でこだわりたい「役割」=「在り方」の発見と構築
2016年1月15日更新
「今日からすぐに使える○○」「こんなときには○○で解決!」あなたはこんなフレーズに惹かれることはありますか? 現代人は即効性のあるもの、端的な答えが好きという傾向があるように思います。そして、もしかしたらそれは加速化されているかもしれません。
私が行なう研修の受講者からも、「具体的なノウハウを知りたい」というご要望をうかがうことが多くあります。よって「○○したらいいですよ」「こういうときには○○してください」という講師からのメッセージも喜ばれます。いわゆる確証のある、すぐに使える"ツボ"のようなものをみなさんが求めていらっしゃるのだと思います。さまざまな階層別のスキルアップ研修では、確かに仕事の能力を上げるためのポイントやコツなどを学ぶことはとても大事なことです。私自身も「すぐに使える」なんてフレーズにはとても弱いところがありますので、受講者の方々のお気持ちもよくわかります。講師としても、ご提示できることはしていきたいと考えます。
しかし、講師としてはひとつのこだわりたい観点があります。私たち講師が一番研修で創りたいことは何なのか。それは「在り方」の発見構築であろうと思っています。社会人としての在り方・社員としての在り方・役職者としての在り方・○○という役割についての在り方・○○の仕事に立ち向かう在り方etc. つまり働く人格としての根本理念の確立です。または根本理念の修正や再構築です。研修の真なる意図はそこにあると言ってもいいのではないでしょうか。
「在り方」について深い触発ができれば、研修の大きな意義は全うでき、たとえばツボやノウハウ、コツはその上に立っておのずと主体的に立ち上がってくるのだと思います。人から教えられるべきではないと言っているのではありません。たとえば先輩上司、モデル、数々の名著、講師などから学び取っていただくことも重要です。しかしまず根本理念がなければ、表面的な使い捨てのような学びにしかならないと思います。自分としての在り方に気づき、それを仕事の土台にしていくならば、他者からのヒントは、受け売りでもらったノウハウとはまた別の、自身ならではの豊かな資源になるのではないでしょうか。
たとえば、"ストレスをためない方法"というテーマがあるとします。短絡的に言えば研修で求められることは「どうしたらストレスがなくなるか」です。「その方法は何?」です。しかし、究極どんなことをしてもストレスはありますし、どんな方法を用いてもなくならないストレスは存在するでしょう。また、たまたま講師の勧める知識や考え方が一部の人にはストレス対策にはなっても、受講者全員に合うものかどうかはわかりません。業界や仕事の状況もみんな違うわけです。ですから「これを実行したらストレス解決します!」というものはなく、自分のステージで応用可能かどうかは取捨選択をしていく必要があります。そこに研修の主体的参加ということが大事になってくるわけです。
コーチングの考え方の中に「答えは相手の中にある」というものがあります。これはコーチ側からクライアントを見る視点で表現したものですが、裏返してクライアント側から言うならば、「答えは私の中にある」となります。自分の答えは自分が持っているということです。自分の現状にフィットする自分の答えは自分しか持っていません。「答えは自分の中にある」。研修でもぜひその観点を大事に自分の資源を信じて、内にあるその答えを探す真剣勝負の場としていただきたいと思います。その場に講師として全力で介在し支援をしたいと思います。そういう意味で、研修は受講者と講師の、相手の資源を共に認め合い、最大に活かしあう、相互尊重の場であると思います。
【講師プロフィール】吉田真知子(よしだ・まちこ)
ソーシャルスキル・プログラム代表、PHPゼミナール講師。人材活性コンサルタントとして、「各所における人材の活性」を目標に掲げ、ビジネス・教育・文化・地域の各分野において、年間180回の講演・研修・コンサルティングを展開。個々人のもつ個性と可能性を活かした参加型プログラムを得意としている。