アドラー心理学に学ぶ「やる気」のメカニズム
2016年4月 4日更新
「やる気」を意志の力でコントロールすることはできるのでしょうか? 部下や自分自身のモチベーションを高く維持する方法を、アドラー心理学に学びます。
「やる気」は意思でコントロールできるのか?
4月です。採用・研修ご担当はじめ人事関連の皆さんの多くは、新入社員を迎え、異動もあり、その対応や研修で目の回るような忙しさの真っただ中にいらっしゃるのではないでしょうか。
さばいていかなければならない業務が山積み、次から次へと新しい依頼や指示がやってくる。早く取り掛からなければ。それなのに、全然やる気がわかない。簡単なことはできるけれど、面倒な仕事に取り組めず、後回しにしてしまっているこの状況……まずい……。自分自身でそんな思いを抱えていたり、ダラダラしているように見える自分の部下に対して、「いったい君にはやる気があるのか!?」と小言のひとつも言いたくなったりするような状況はありませんか?
いついかなるときも、まったく同じペースでバリバリと仕事を推し進めていける人はなかなかいません。どうしてもやる気が湧かない、モチベーションが上がらないということもあります。しかしながら、この「やる気」のメカニズムを知ることによって、意志の力でやる気をコントロールすることができたら、効率的に仕事もでき、部下への有効な指導もできるのではないでしょうか。
「やる気」の正体とは?
そもそも「やる気」とはなんでしょうか?
この春上梓したPHP通信ゼミナール『アドラー心理学に学ぶ「やる気」の高め方』(岩井俊憲監修、永藤かおる・宮本秀明著)のなかでは、アドラー心理学の立場から「やる気」を以下のように定義しています。
1)人の行動や行為に潜むパワーである。
2)能力である。その能力は「自分自身を動機づける力」「何かを行うために必要なエネルギーや理由を見出す力」の2つである。これは他者や環境に影響されることもあれば、されないこともある。また、目標や目的を達成するために個人個人の特有なやり方で発揮される。
3)高いモチベーションをもつ人と低いモチベーションをもつ人との間には差が生じる。前者は自分の望んだとおりに人生を創造することができるが、後者は、本当はそうありたいと願いながらも望んだ人生を創りだすことができない。4)モチベーションは夢を実現させるためのものであり、どのような障害や困難に直面するかには関係ない。
つまり、個人差はあるものの、やる気というのはすべての人の行動や行為に潜むパワーであり、どんな障害や困難であろうともモチベーションを高くもつことによって望んだ人生は創造可能である、ということです。「やる気が出ない……」と今思っている人でも、やる気を味方につけることはできます。なぜなら今の状態は、やる気が潜んでいて表に出てきていないだけだからです。
自分自身の「やる気」を知る
では、その潜んでいるやる気を引き出すにはどうずればよいのでしょうか? それには、次の2つのアプローチが有効です。
まず1つめは、「自分自身のやる気をよく知ること」です。同じ出来事があったとしても、その受け止め方は人それぞれです。ですから、一人ひとりに合ったやる気の高め方を探っていく必要があります。自分はどういうときにやる気が出たのか、どういうことでやる気が削がれたのか、これまでのことを振り返り、書き出してみるなどして、やる気が出る・削がれる原因を分析してみましょう。「やる気」について分析することで、やる気を引き出すための工夫や、やる気を維持するための対策なども見えてきて、自分でコントロールしていくことができるようになります。
「やる気のステップ」を意識する
そして2つ目は、「やる気のステップ」を意識することです。
やる気を奮い立たせてくれるものとして、以下の4つの「sion」があります。
Decision(デシジョン)
目の前に立ちはだかる課題を「断固実行しよう!」という決断
Vision(ヴィジョン)
その課題が達成されたり解決したりしたときにどんなよい状況になっているか、どのように自分が成長しているかの展望
Mission(ミッション)
その課題を克服する、やり遂げるための使命感
Passion(パッション)
その課題に取り組む情熱
ただ漫然と「やらなければ」と考えていても、なかなか手をつけることはできません。自ら「決断」し、「展望」と「使命感」をもち、なんとしてもやり遂げるんだという「熱意」をもつこと、自分自身のなかからやる気を引き出すには、やろうとすることの実現を具体的に思い描いて取り組むことが必要なのです。
これら4つの「sion」のつく英単語は、主に感情に訴えるものですが、それだけでは根性論のようになってしまいます。そこでもうひとつ必要になってくるのが「Logic 」です。
Logic(ロジック)
その課題をこなすことによって得られる利益や効果などを論理的に分析すること。
やる気は根性論では長続きしません。やる気が失せてきてしまったときでも、論理的に冷静に利得を見極めることができれば、もう一度気持ちや行動を奮い立たせていくことができます。「Logic 」は、「がんばるぞ!」という前向きな感情の後ろ盾となってくれるのです。
これら「4sions & Logic」という「やる気のステップ」をしっかりと意識して取り組むことで、やる気を維持しながら目標へと進んでいくことができます。
自分自身の仕事についてだけでなく、部下指導や部門運営においても、モチベーションを引き出し、高く維持していくことは大きな課題です。そのための1つの手法として、ぜひ役立ててください。
永藤かおる(ながとう・かおる)
(有)ヒューマン・ギルド研修部長。心理カウンセラー。1989年、三菱電機(株)入社。その後ビジネス誌編集、海外での日本語教育機関、Web 制作会社など、20年以上のビジネス経験のなかで、人事・採用・教育・労務管理等に携わる。どの現場においてもコミュニケーション能力向上およびメンタルヘルスケアの重要性を痛感し、勤務と並行して学んだアドラー心理学を生かして現在㈲ヒューマン・ギルドにてカウンセリング業務および企業研修を担当。著書に『「うつ」な気持ちをときほぐす 勇気づけの口ぐせ』(明日香出版社)、PHP通信ゼミナール『リーダーのための心理学 入門コース』(監修:岩井俊憲、執筆:岩井俊憲・宮本秀明・永藤かおる、PHP研究所)などがある。