「働き方改革」と「新しい勤勉(KINBEN)」
2017年2月 2日更新
安倍政権が掲げる「一億総活躍社会」。「働き方改革」が注目を集める中、政策シンクタンクPHP総研が2015年9月に発表した政策提言「新しい勤勉(KINBEN)宣言」のポイントを紹介します。
「新しい勤勉(KINBEN)」とは何か
「勤勉」という言葉を聞いて、どのようなイメージをもたれるでしょうか。年配のかたであれば、二宮金次郎のあの銅像を思い浮かべるかたも少なくないかもしれません。勤勉な国民性は日本人の美徳であり、日本企業の現場力の源泉といえます。ただ昨今では、過重労働やメンタルダウンといった人事労務管理上の問題が世間を大きく騒がせています。また、ワークライフバランス、ダイバーシティ、女性活躍など、企業の人事施策には、より多様さ、柔軟さが求められるようになっていることは、すでにご存じのとおりです。
こうした中で、安倍政権は「一億総活躍社会」の実現を掲げ、多様な働き方を可能とする「働き方改革」を提唱しています。政策シンクタンクPHP総研では、そうした政府の動きに先立って、2015年9月に政策提言「新しい勤勉(KINBEN)宣言」を発表し、塩崎恭久・厚生労働大臣に提言書を手交しました。
多様で柔軟な働き方への転換は、現代日本が直面する課題を克服するための対症療法にとどまらず、文明の大きな流れのなかで日本社会が生成発展していくための一つの条件です。そのためには、障壁になりうる古い価値観を脱ぎ捨て、新たな価値観によってマインドセット(考え方の基本的な枠組み)を再構築していくことが必要です。
「新しい勤勉(KINBEN)」 3つの原則と7つの提言
PHP総研では、「新しい勤勉(KINBEN)」の価値観に基づく「新しい働き方」を実現するための具体的な政策・施策は次の3つの原則に寄って立つべきと考えます。
原則1は、生涯にわたって多様かつ柔軟に働くことができる社会をつくることです。働く者一人ひとりのキャリア人生の中で、多様性と柔軟性を重視していくことが大切です。
原則2は、幸福感と生産性とを両立させることです。働く者の幸せと効率的な働き方を両立させることが、社会全体の持続性を保ちます。
原則3は、マネジメント力と自律力の向上で調和をはかることです。企業経営と働く者一人ひとりの自立的なキャリア形成がバランスよく進むことが重要です。
そのうえで、「新しい働き方」を実現するために、「明確化」「多様化」「情報公開」「新しい場の創出」の視点から、具体的に7つの提言をまとめています。
提言1は、「雇用契約の締結を義務付ける」です。すべての被雇用者と雇用者の間で雇用契約を結び、働き方についての認識を共有します。これに伴い、「正社員」「正規雇用」という呼称を廃止するとともに、年齢による差別も排除します。
提言2は、「個人の総労働時間に規制をかける」です。36協定を廃止し、個人が働ける時間に制限をかけて長時間労働を是正し、生産性向上を促します。働く者みずからが労働時間を柔軟にコントロールできる労働時間貯蓄制度を設けるとともに、残業に対する割増賃金とは別に残業課徴金を創設し就労支援に活用します。
提言3は、「学校教育で働き方のリテラシーを高める」です。働くものとしての権利や意味を理解し、「働き方」のリテラシーを高める教育プログラムを設置します。同時に、ライフイベントを体験学習するプログラムを中高校教育に導入し、「働きながら学び、学びながら働く」日本版デュアルシステムを推進します。
提言4は、「多様な働き方を可能にする「3We」の雇用環境をつくる」です。「3We」とは「だれでも(Whoever)」「いつでも(Whenever)」「どこでも(Wherever)」を意味します。そこで、人材に投資して生産性向上に努力する企業の認定制度の創設や、柔軟で安全性の高い情報セキュリティのガイドラインの策定、時間単位でとれる有給休暇・育児休暇・介護休業制度の制定、働く者が行う保育や介護の税負担の軽減などを行います。また、行政が率先するため、霞が関に「働き方実験特区」を設置します。
提言5は、「企業は自社の「働き方」に関する方針や情報を開示する」です。企業側は、労働時間や離職率、有休取得率など「働き方」の実態を具体的に公開するよう努め、政府は情報公開に積極的な企業を顕彰するなどして促進を図ります。また、職務領域を分ける新卒クラスター採用や職種や勤務地が限定されたジョブ型雇用を促進します。
提言6は、「官民で「新しい働き方」を支えるマネジメントとシステムを確立する」です。企業内部において、新しい働き方を促進するため、良好な組織内コミュニケーションを確保するガイドラインを作成したり、残業・出張・転勤のない働き方の選択を可能にする企業間の協力や政府の支援策を講じます。
また、学び直しによる転職や高齢者の再就職を支える仕組みを確立するとともに、経済団体・地方自治体の協力で地域間の人材交流や移動を促進して地域を活性化させます。雇用の流動性を高めるために、重層化した社会的セーフティネットを構築したり、ハローワークを求人情報にとどまらず就職に関する総合情報・教育機関にすることも重要です。さらには、労働基準監督の手法および体制を「新しい働き方」に適合させることも必要になります。
提言7は、「新しい働き方を促進する新しい場を創出する」です。社会全体で新しい働き方を実現するためには、従来の企業や職場だけでなく、NPOなどの「社会的企業」の経営を支援する仕組みや、シェアオフィスなどの「第三の場(The Third Place)」の創設、専門知識をいかして社会貢献するプロボノや二枚目の名刺などの兼業の普及、空き家や空き施設などの「負」の資産の価値を見直し有効活用することなどが求められます。
なお、報告書にはこれらの提言の詳細とともに、日本におけるスマートプラクティスの実例や提言メンバーによる鼎談などが記載されています。ぜひご一読ください。