新入社員のメンターに求められる資質とスキル
2021年2月10日更新
若手社員がメンターとして指導・支援し、新入社員を育成する手法が、各企業で成果をあげています。では、メンターとなる人には、どのような条件(資質・スキル)が求められるのでしょうか。
新入社員を育てる「指導員」をどう育成する?
新入社員を育成するにあたって、導入研修や最近ではオンラインでの教育など、企業によってさまざまな工夫がなされていると思います。その一環として、「入社数年目の若手社員に指導員を務めてもらう」という方法があります。これをうまく機能させることで、新入社員はスムーズに会社に溶け込み、社会人として順調なスタートを切ることができるでしょう。各部門リーダーの人材育成に関わる負担も減らせます。
そこで本稿では、PHP通信ゼミナール『「メンタリング」で共に成長する新入社員指導・支援の実践コース』のテキストを参考にしながら、新入社員を指導・育成する指導員をどう育てていけばいいのかについて解説してまいります。
指導員の役割と「メンタリング」
指導員の基本的な役割は、「仕事を教えること」と「社会人として育てること」だといえます。価値観が大きく変化し続けている現代社会において、企業が新入社員を育てていくためには、従来型の「仕事だけを教えるOJT」では不十分になっています。仕事のスキルだけではなく、「新入社員の行動・やる気(=Do)、さらに夢・志(=Be)まで踏み込んだ指導」が求められているのです。いわば「心の領域まで踏み込んだ指導」をしていくわけですが、これに関して「メンタリング」を採り入れた「支援型の指導」が注目されています。
メンタリングとは、「対話による気づき」「助言」によって相手との関係を築き、相手が自発的・自律的に成長していくことを促す育成方法のことです。
メンターに求められる条件~資質とスキル
「メンタリング」を行う人を「メンター」と呼びます。新入社員の指導を担当してもらう若手社員には、まずこのメンターを目指してもらう必要があります。メンターに求められる資質とスキルについて、同テキストから抜粋してご紹介しましょう。
メンターに求められる主な資質(抜粋)
- 面倒見がよく、親身になって相談にのれる
- 社会人として、企業人として自立している
- 会社の規律を守り、模範行動を示せる
- コミュニケーション力に長けている
- 変化に気づく観察力がある
メンターに求められる主なスキル(抜粋)
- 聞き上手」になる傾聴力をもつ
- 「明確化」と「質問」を通じて相手の思いをくみとる
- 相手が自分で考え、答えを出すように導く
- 相手から「引き出す」質問をする
- 相手の意欲を引き出す「ほめ方」と「叱り方」ができる
指導員になってもらう若手社員に、これらすべてが備わっていなかったとしても、人事部をはじめ周りの人たちが支えながら、指導員自身も成長していけるように仕向けることが重要だといえるでしょう。
最近の新入社員の特徴
指導員を育成するにあたって、その前提として、最近の新入社員の特徴を把握しておく必要があります。指導員に任命する入社数年目の社員も、新入社員に近い世代かもしれませんが、それでも会社に入ってある程度の経験を積んでいるはずです。新入社員の特徴と指導員自身の成長度合いを照らし合わせることで、よりよい指導につながると考えられます。
最近の新入社員の特徴(抜粋)
- 自分で考えて行動することが苦手
- 社言われたことはしっかりこなすが、言われていないことはやらない
- 世代の違う人や価値観の違う人とのコミュニケーションが苦手
- コ叱られることに慣れておらず、叱責に弱い
- マニュアルやインターネットから正解を探す。すぐに上司にきく
会社が求める人材像
新入社員の特徴がわかったら、次に「会社が求める人材像」も合わせて指導員に理解してもらうことが不可欠です。「新入社員の特徴と会社が求める人材像との差」がわかれば、それを念頭に置きながら、新入社員を正しい方向に導くことができるからです。
求める人材像は各企業によってさまざまですが、「自ら主体的に考え、責任をもって行動できる『自立型社員』」という要素は共通であるといえるでしょう。
そもそも社員は会社にとって最も重要な経営資源であり、採用と育成には相当なコストがかかっています。その大切な社員たちが「自立型社員」へと成長し、少しずつ実績ができてくると、やがて働くことに喜びを感じ、仕事が「生きがい」になっていくことでしょう。もちろんそこまで到達するまでにはそれなりの試練があるのは当然であり、その過程で「メンター」の役割を果たしてくれる先輩社員が身近にいれば、新入社員にはとても心強いはずです。年の近い先輩が生きがいを感じながら働いている様子を見るだけでも、大きな励みになります。このように自らの行動で新入社員に影響を与えつつ、自立型社員を育成できる指導員をつくるのが理想の状態といえます。
新入社員とともに指導員も成長する
入社数年目の社員に指導員を務めてもらう場合、その社員自身が「自分に本当に後輩の指導ができるのだろうか?」と不安になることもあるでしょう。しかし、数年の経験があれば、新入社員よりもはるかに社会人・企業人としての知識や実力が身についています。これをまず自覚してもらい、自信をもってもらうことが大切です。そのうえで何か足りないところがあれば、後輩への指導を通じて学んでもらうよう仕向けていくのです。新入社員からすれば、「自分を教育するために年の近い先輩が頑張って勉強している姿」を見ることで、親近感や尊敬の念が湧いてくるはずです。そのような「学び合い」の関係性がつくれるように、会社として指導員を導いていくことが肝要です。
※本記事は、PHP通信ゼミナール『新入社員指導・支援の実践コース』のテキストを抜粋・編集して制作しました。
森末祐二(もりすえ・ゆうじ)
フリーランスライター。昭和39年11月生まれ。大学卒業後、印刷会社に就職して営業職を経験。平成5年に編集プロダクションに移ってライティング・書籍編集の実績を積み、平成8年にライターとして独立。「編集創房・森末企画」を立ち上げる。以来、雑誌の記事作成、取材、書籍の原稿作成・編集協力を主に手がけ、多数の書籍制作に携わってきた。著書に『ホンカク読本~ライター直伝!超実践的文章講座~』がある。