現代のマネジャーはどうあるべきか~役割と課題を考える
2019年4月10日更新
いつの時代も、組織の中核を担うマネジャーの存在は重要であり、事業戦略の実現・業績達成のための礎といえます。しかし、その役割は環境とともに大きく変化してきています。ここでは、現代のマネジャーはどうあるべきか、求められる役割や課題について解説します。
現代のマネジャーを取り巻く環境
現在、管理職登用の候補となる人財層は、バブル時代以降に入社した世代である可能性が高い。1990年代、バブル崩壊後の日本企業は、業績低迷からの脱出のため、採用抑制、組織のフラット化、選抜人材への教育投資フォーカス、成果主義による短期業志向に舵をきり、アウトソーシングの増大やチームワークの崩壊を招いた。
つまり、彼ら・彼女らがキャリアの発達過程で求められたことは、短期の業績を上げることであった。
また、定期新卒採用の凍結によって、後輩社員が存在する機会を持つことがないまま、一つの組織・業務で担当者として定常業務を遂行するために、その領域のみでの専門性のみを磨き、高めることに腐心することになる。また、多様なステークホルダーとの協業や調整を必要とするクロス・ファンクショナルな仕事やプロジェクトといった、ストレッチで挑戦的な仕事に恵まれる機会がなかったことも推測される。
こうした後輩育成という擬似マネジメントの体験や組織横断で協業して結果を出すという経験が乏しいままマネジャーの職務についてしまうという環境下では、ミドルマネジャーのプレイヤー化を促進させ、手間暇のかかる人財育成よりも、自らできる目の前の業績達成を優先してしまう。結果、日本企業の強みであったOJT(現場の人財育成機能)が不全に陥り、現場で人が育たず、マネジャーがさらにプレイヤー化(マネッジング・プレイヤー化)するという悪循環に陥って、マネジャーをさらに苦しめることになる。
マネジャーへの期待の変遷
いずれの企業においても組織の中核を担うミドルマネジャーの役割は重要であり、組織の発展・事業戦略の実現・業績達成のための礎である。しかし、それらマネジャーに対する期待の中身は、環境とともに大きく変化してきている。
旧来であれば、決められた目標を達成するためにマネジャーの率先垂範が期待され、その活動プロセスを通して個人の成長も組織の成長も実現できた。
しかし、現在のように外部ならびに組織内部の環境変化が著しい中では、目標達成に向けての率先垂範に加えて、状況変化に柔軟に対応できることや、それらを概念化して自ら課題形成し提案できること、そしてマネジャー自らが組織メンバーを育成していくための多岐にわたる能力が求められてきている。
その他にもビジネスのグローバル化など、企業を取り巻く環境が多様化・複雑化する中では、過去のマネジャーの成功体験がそのまま通用する時代ではなくなり、もはや、ただひたすら額に汗して一生懸命目標を追求するだけでは足らず、今後は変化に対する感覚の鋭敏性を高め、課題形成しながらチームを牽引していく俯瞰したリーダーシップの発揮の仕方が強く求められてきているといえる。
マネジャーが抱える課題
先に述べたマネッジング・プレイヤー化している昨今のマネジャーの置かれている環境には厳しいものがあり、マネジャーは常に「部下のマネジメント・育成」、「チームの目標達成」というコアの役割に加え、「自身の多忙さ」といった多くの課題を抱えながら日々の業務と格闘している。
現代マネジャーの課題
(1)日常的に部下と接する機会が少ない
(2)したがって、部下の考えていることや能力レベルがわからない
(3)部下の思いや能力レベルがわからないので、思い切って仕事を任せられない
(4)そのため、自身が成果(組織目標達成)のためのアウトプットに追われる
(5)結果、部下が育たず、ますます自身のプレイヤー化が進むという悪循環が起こる
このように現代のマネジャーでは、プレイヤーとしての自らの業績達成と、部下のマネジメントを通じた組織目標の達成を求められて日々悪戦苦闘している様子がうかがえる。それゆえ、マネジャー自身が「ピープルマネジャー(管理職)」としての喜びや、やりがいを感じることのないまま、日々の業務を行っている可能性があり、また、多くの調査結果が示しているように、そのようなマネジャーの姿を見ているメンバーでは、管理職への昇進・昇格に魅力を感じない者が増えてきているという現実も伴う。
マネジャーが装備すべき「志」
こうした変化が著しい時代だからこそ、企業には、社会の公器として、未来のあるべき姿(ビジョン)や存在意義(ミッション)を見える化し、常に従業員に示し、コミュニケーションすることが必要になってくる。
そして現場最前線で戦略実行の重責を担っているミドルマネジャーには、その戦略実行プロセスにおいて、常にアンテナを立てて、現状を正しく認識したうえで適切な課題を設定し、メンバーを鼓舞して、目標達成へと導いてくことが求められる。
しかし、現場では組織内で、あるいは顧客との間で二律背反するような理不尽な要求や場面に対峙し、葛藤することも起こってくる。そのような状況下であってもマネジャーは部下に葛藤を乗り越えさせ、再現性ある成果達成を実行していく必要がある。
そのためにリーダーは、「自身のキャリアを通して何が実現したいのか」ということを自身の価値観(企業人としての自分らしさや覚悟・信念)を拠り所にしてメンバーに語り続けることが何より重要になる。
なぜなら、いかにトップが優れた戦略を立案し、ビジョンを策定し提示しようとも、現場では、最前線を仕切るマネジャーがメンバーのレベルに合わせて、それを咀嚼して自身の“志”というフィルターを通した言葉で語り続けることを通してしか、部下からの信頼を得て部下の“成長”や“頑張り”を引き出し、再現性ある成果達成に繋げていくことが難しいからである。
西谷晴信(にしたに・はるのぶ)
大学卒業後、外資系製薬企業でMR・営業管理職としての経験を経て、営業分野を中心として人財開発部の仕事に長く従事。経営戦略部門の内部統制業務も兼ねながら、パフォーマンス・コンサルタントとして、ミドルマネジャーを対象に、主に「組織マネジメント」や「チームビルディング」をテーマとしたコンサルティング業務を担当。またPHP認定上級ビジネスコーチ、キャリアコンサルタントとしての経験や洞察を生かしながら、コーチングやキャリアデザインのワークショップを主宰。
2013年 大学院で心理学修士課程を修了後、人材育成学会に所属し、ミドルマネジメントをテーマとした研究活動も行なっている。