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フィードバックの5つのプロセス、研修事例、ケーススタディを紹介

2021年11月19日更新

フィードバックの5つのプロセス、研修事例、ケーススタディを紹介

今や上司の必須スキルとまでいわれる「フィードバック」。スキルだけでなく、人を育てるための考え方を含めた管理職研修とすることで、職場風土の革新につながる事例も出てきています。2021年10月に開催されたPHPカンファレンスのなかから芦田純子氏によるセッションの内容をご紹介します。

INDEX

上司は「部下の成長を支援する存在」のはずが......

みなさんの職場では、上司から部下へのコミュニケーションはうまくいっていますか? 次のような傾向はありませんでしょうか。

  • 上司が自分の要求を伝えるコミュニケーションばかりになっている
  • 「とにかく頑張れ」などと部下に精神論で訴える
  • 部下の相談に「だいたい、いいんじゃない」という言葉で濁す
  • 上司が自分の経験論ばかり伝えている

上司・部下間のコミュニケーションがこのような状態になっていると、部下の側は、心の中では納得していない場合があるかもしれません。

部下の不満

※PHPカンファレンス「1on1の失敗学」Zoom画面より(2021年10月19日開催)

部下にとって上司は、「成長を支援してくれる存在」であるべきです。その支援の手法・スキルとして、近年「フィードバック」が注目されています。フィードバックをもらうことで、部下は自分自身を客観的に知ることができて、その結果、軌道修正が可能となるのです。上司からの他律的なフィードバックを通して部下は成長し、やがて自律的に働けるようになります。上司は、「部下の反応は上司が行ったコミュニケーションの結果」であることを自覚しなければなりません。

あらためて「フィードバック」とは?

ここで「フィードバック」をかんたんにおさらいしておきましょう。
フィードバックとは、耳の痛いことを部下にしっかりと伝え、彼らの成長を立て直す人材育成法です。中原淳氏(立教大学経営学部教授)が提唱し、部下育成を支える基礎理論として注目を集めるフィードバックですが、具体的には、「情報通知」と「立て直し」という2つの構成要素から成り立っています。

フィードバックの要素

(1)情報通知(ティーチング的な一方向の情報伝達)
部下に対して、「耳の痛いこと」も含めた「事実」をしっかりと伝えることで、部下が自分の現状を理解できるよう促していきます。

(2)立て直し(コーチング的な振り返りの促進)
部下に対して必要なアドバイスをすることで、問題点を振り返り、軌道修正につなげていきます。

フィードバックで重要なのは、ティーチングとコーチングをバランスよく行うことです。どちらかに偏りすぎず、相手の状態や成長度に応じて、最適なティーチングとコーチングができるよう工夫していきたいものです。

フィードバックの5つのプロセス

フィードバックは次のような5つのプロセスで進めていきます。まず前提条件としてのステップ(0)があり、それをベースにしてステップ(1)から(5)までのサイクルを回していくのです。

(ステップ0)事前準備・情報収集
フィードバックを行う前に、上司は部下についての事前情報を収集しておくことが大切です。具体的には、「S(シチュエーション)→どのような状況のときに」「B(ビヘイビア)→相手(部下)のどんな振る舞い・行動が」「I(インパクト)→どんな影響をもたらしたのか・何がダメだったのか」という「SBI情報」を集めます。

(ステップ1)信頼感の確保
部下との信頼関係をつくっていくため、日頃からコミュニケーションをとることを心掛け、こまめにフィードバックを行うことが重要です。また、面談ではミーティングルーム等を使って2人だけで話をします。面談であってもオンラインであっても、他の人に話し声が聞こえない場所を確保し、部下が話しやすい環境を整える必要があります。

(ステップ2)事実通知
まずは収集した情報をそのまま「鏡のように」伝えます。上司の主観を含めず、客観的かつ正確に事実を伝えるのです。その際、決めつけたようないい方は避け、「~のように見える」という話し方を心がけましょう。無理にほめる必要もなければ、無駄に非難する必要もありません。

(ステップ3)腹落とし対話
相手を説得しようとするのではなく、対話を通じて相互理解を図っていきます。その際、上司が話したことと、部下の受け止め方のどこに「ズレ」があるのかが把握することが大切です。ここでは部下から話を引き出すコーチングのスキルが必要になるでしょう。

(ステップ4)振り返り支援
ひと通り話し終えたあとで、部下がどれくらい理解し、納得しているかを振り返ります。例えば「今伝えたことをどんなふうに受け取ったか、ちょっと話してもらえますか?」といった質問をして、相手の言葉で語ってもらうところがポイントです。

(ステップ5)期待通知
最後に、上司から部下に対して期待を寄せていることをしっかりと言葉で伝えます。松下幸之助は部下を厳しく叱ったあと、「君ならやってくれると思っていたんだ。今でもそう思っているんだよ」という意味のことを伝えていたそうです。そのとき叱られた部下は、期待に応えたいという思いでたいへんな努力をしたというエピソードが残っています。

フィードバックの NG事例

フィードバックのありがちなNG事例をご紹介しましょう。

・「でも、よくやっていると思うよ、君も」

厳しい指摘をした直後に、気まずい雰囲気をごまかすために、なんとなく褒めてしまう。部下は、厳しい指摘を忘れて、褒められたことしか覚えていません。

・「君って〇〇的で、〇〇性が足りないね!」

上司の情報通知があいまいであるため、部下はどの行動に問題があり、今後どう変えていけばいいのかが分からなくなってしまいます。

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フィードバックの「事実通知」ケーススタディ

ここで、「(ステップ2)事実通知」を事例で考えてみましょう。

Bさんは入社6年目営業社員です。たいへん真面目な性格です。営業経験も長いのですが、最近、仕事と家庭での役割のバランスがうまく調整できていないようです。上司は、一人ひとりが裁量の大きな仕事をやりきれることが重要だと思い、細かく口を出すことを極力控えていたのですが、そうも言っていられない出来事が続き、下記についてフィードバックしようと思います。

●お客様に対するメールの書き方や連絡が「雑」になってしまい、お客様の信頼を失い、失注につながっています。
・8月2日 N社へは直前のメール連絡を忘れました
・9月6日 M社へのメールでは発注個数の桁を間違えました
・9月22日 L社の担当者から大クレームをうけ、失注につながりました

●仕事のプライオリティがつけられず、時間がなく、仕事が中途半端になっています。
●目の前にくる仕事に追われていて、仕事がドタバタになっています

このような状況を、Bさんにどのように伝えるといいでしょうか。例を見てみましょう。
●Situation(状況)
「あなたの、8月ごろからのお客様対応で」
●Behavior(行動)
「メールでの連絡忘れや、発注個数の桁を間違えがあり、先月はL社の担当者から大クレームを受けてしまっていたね」
●Impact(結果)
その結果、お客様の信頼を失って、失注に繋がってしまったね
●問いの投げかけ
「私には、仕事のプライオリティがつけられず、仕事が中途半端になっているように見えるんだけど、そのことについてはどう思う?」

今、なぜフィードバックなのか

現在は、かつてないほど「部下の育成が困難な時代」であるといわれます。だからこそ、育成のスキルとしてフィードバックが注目され、多くの企業で導入が進められているのでしょう。なぜ育成が困難になったのか、その理由として次の3つが挙げられます。

(1)人が勝手に育つ環境がなくなっている
かつては「長期雇用」が当たり前で、その中で失敗を経験し、挽回の仕方を学び、成功体験へと導くことができましたが、終身雇用の崩壊で長期的な育成が難しくなりました。年功序列も崩れたことで、上司や先輩をお手本にして成長する機会が減っています。仕事の後の飲み会や土日のゴルフ等のつきあいが少なくなり、上司と部下との関係性が希薄になって、日常的にアドバイスが受けにくくなりました。

(2)コーチングとティーチングのバランスがとりにくい
昨今は、人材育成において「コーチング」に重きを置く傾向があります。そのため上司から部下に教える「ティーチング」が十分に行われず、部下に対して「いいたいことをいってはいけない」という誤った認識すら広がっているように思われます。結果として、コーチングとティーチングのバランスが崩れてしまい、育成が難しくなっているのです。

(3)年上の部下・年下の上司が増加している
転職する人が増えたり、定年退職した人が再雇用されて上司と部下の立場が逆転したりするなど、「年上の部下・年下の上司」が増加しています。そのため相互に遠慮が生じて、コーチングやティーチングが十分に行われなくなった面があります。また長期雇用が減ったことで、十分な育成期間を経ないまま突然マネジャーに抜擢されるケースも増えており、これも指導力の低下に拍車をかけています。

フィードバックで人が育つ環境を取り戻す

これからの組織は、本当の意味で「人が育つ環境」を取り戻すことが求められています。その背景には次のような要素があると考えられます。

(1)人材育成の原点への回帰
近年は「ほめて育てよ」という風潮があり、若い人たちが上司や先輩から指摘を受ける機会が少なくなっている印象があります。しかし、「人を生かし、可能性を最大限に発揮させるためには、教えるべきは教え、鍛えるべきところは厳しく鍛えなくてはならない」と松下幸之助が言ったように、人づくりにはそれなりの厳しさも必要ではないでしょうか。背伸びが必要な目標が与えられ、そこで奮起するからこそ、人は強みを発揮できるようになるのであり、そうした人材育成の原点が見直されているのです。

(2)成長には「自己認知」が必要
人が成長していくためには、自らの強みや課題を知ることが重要です。自分の現時点での力量を知ることで、どこをどう修正すればいいのか、何を学べばいいのか、どういう経験を積めばいいのかが明確になるからです。「自己認知」の機会として、フィードバックは非常に有効だといえます。

(3)組織風土の活性化
日常的にフィードバックを行うことで、上司と部下との対話量が増えます。これにより相互理解が進み、世代間ギャップも埋まっていくでしょう。コロナ禍で直接会う時間が減っている今こそ、フィードバックの機会を増やし、相互理解を深めていきたいものです。

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「フィードバック研修」の導入事例

最後に、「フィードバック研修」を実施し、成功している企業事例をご紹介しましょう。

九州地区・地方銀行│指導・教育力向上による若手行員の離職防止

A銀行様では離職率の高さが課題になっていました。そこで、新人、若手行員と面談を実施したところ、「先輩や上司が仕事を教えてくれない」「評価してくれない」「叱ってくれない」「何を言われても腹落ちしない」など、新人や若手が先輩・上司に、もっと関心をもって接してくれることを望んでいることが判明しました。一方、先輩・上司も、どうすれば若手が仕事に前向きになれるのかという精神的な支援に悩んでいたことも判明。上下間のコミュニケーション問題を解決するために「フィードバック研修」を実施することになりました。

管理職~支店長に対して、フィードバック研修を1年間に3回実施したところ、指導する立場の意識が明らかに変化。若手行員から「支店長が声をかけてくれるようになった」、「面談をしてくれる」という声が聞かれるようになり、結果として離職者ゼロを実現しています。さらに、教育したことが業務にも反映されるようになり、お客様に対するサービスの向上にも繋がています。

東北地区・小売業│店舗コミュニケーションの活性化による離職防止

東北地区を中心にスーパーマーケットを展開するB社では、現場のコミュニケーション不足、OJTの機能不全による離職の高さが顕在化していました。コーチング会社による研修を開催するも、テクニックばかりが伝わってしまい、店舗スタッフとの関係改善が見られません。そこで、PHP研究所が管理職(店長・副店長・部門マネジャークラス)向けに「フィードバック研修」を実施。肯定的な人間観に立脚した指導者としてのあり方を学び、フィードバックのスキルを身につけていただきました。

結果として、店舗スタッフへの関わり方に前向きな変化があり、離職率も研修受講店舗で減少傾向が見られ、会社全体で取り組みの効果を実感。また店長~CS統括まで、管理職向けに同じ考え方で研修を実施したことで、店舗全体で人材育成を進める風土の変革につながっています。

「フィードバック研修」で行動が変わる!

このように企業で研修を行う際、私自身も研修先の会社から情報を得て、個々の社員の方にフィードバックをする機会があります。あるとき、お客様アンケートの内容(事実)を伝えたり、客観的な視点を説明したりしたところ、先方にとてもよく理解してもらえて、その後の行動がガラリと変わったことがありました。フィードバックの効果の実例として、参考にしていただければ幸いです。

※本記事は2021年10月19日に開催されたPHPカンファレンス「1on1の失敗学」個別セッションでの講演内容から作成しました。

PHPカンファレンス「1on1の失敗学 2021」レポート

2021年10月19日に開催されたPHPカンファレンス「1on1の失敗学 2021」から、中原淳氏(立教大学経営学部教授)の基調講演と、川端絵美氏(日本ユニシス株式会社 人事部組織開発室室長)による事例発表をまとめた資料(PDF)を無料でダウンロードしていただけます。

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芦田純子

【講師】芦田純子(あしだ・じゅんこ)
商社で受付・顧客担当業務、広告代理店で秘書業務および社員教育を担当したのち、ブラジルへ遊学。帰国後、経営コンサルタント事務所に就職し、コンサルティング業務を経験。1999年に独立して「ジュンアソシエイツ」を立ち上げた。以後、マナー、モチベーション向上、アサーション、コーチングなど、コミュニケーションを主軸とした研修を企画し、講師として多くの経験を積む。PHPゼミナール講師。
※写真は、PHPカンファレンス「1on1の失敗学」Zoom画面より(2021年10月19日開催)

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