フィードバックとは? 意味や具体的な進め方を解説
2025年10月24日更新

部下指導の手法として注目を集める「フィードバック」。ビジネスにおける意味や基礎知識をおさらいしつつ、部下の成長を促す効果的なフィードバックの進め方のポイントを解説します。
フィードバックの意味とは?
フィードバックとは、中原淳氏(立教大学経営学部教授)によれば、「耳の痛いことをしっかりと伝えて、部下と職場を立て直す技術」のことです。部下育成を支える基礎理論として注目を集めるフィードバックですが、具体的には、「情報通知」と「立て直し」という2つの構成要素から成り立っています。

(1)情報通知(ティーチング的な一方向の情報伝達)
部下に対して、「耳の痛いこと」も含めた「事実」をしっかりと伝えることで、部下が自分の現状を理解できるよう促していきます。
(2)立て直し(コーチング的な振り返りの促進)
部下に対して必要なアドバイスをすることで、問題点を振り返り、軌道修正につなげていきます。
フィードバックで重要なのは、ティーチングとコーチングをバランスよく行うことです。どちらかに偏りすぎず、相手の状態や成長度に応じて、最適なティーチングとコーチングができるよう工夫することが必要です。
関連記事:ポジティブフィードバックとは? ネガティブフィードバックとの違いや実践方法を中原淳氏が解説
フィードバックが注目される背景
フィードバックが部下育成の手法として注目される背景には、上司から部下へのコミュニケーション不足や、その質に課題があることが挙げられます。例えば、職場で次のようなコミュニケーションをとっている上司はいないでしょうか。
- 上司が自分の要求を伝えるコミュニケーションばかりになっている
- 「とにかく頑張れ」などと部下に精神論で訴える
- 部下の相談に「だいたい、いいんじゃない」という言葉で濁す
- 上司が自分の経験論ばかり伝えている
上司・部下間のコミュニケーションがこのような状態になっていると、部下の側は、表向きは話を聞いていても心の中では納得していない場合があるかもしれません。

部下にとって上司は、「成長を支援してくれる存在」であるべきです。その支援の手法・スキルとして、「フィードバック」が注目されています。上司からフィードバックをもらうことで、部下は自分自身を客観的に知ることができ、その結果、軌道修正が可能となります。上司からの他律的なフィードバックを通して、部下は自律的に成長することができるのです。自律的に動く社員を多く育てるために、フィードバックは注目されているといえるでしょう。
フィードバックの効果
職場にフィードバックを導入することで、次のような効果が期待できます。
部下の成長を促進する
部下が仕事を通して成長するためには、日々業務経験を積むだけではなく、定期的な「振り返り」を行い、能力やスキルを自分のものにしていくプロセスが必要です。自分自身で振り返りができればよいのですが、多くの人は、他者に問われてはじめて振り返りができるものです。仕事の経験を振り返り、それを自分のルールとして持論化することで、ビジネスパーソンとしての能力やスキルが高まります。部下の成長を促すためにも、上司の目線から、定期的にフィードバックをすることが大切です。
上司と部下の信頼関係が深まる
上司と部下が1対1で話す機会は、意外に少ないものです。人事評価面談など、半年に1度の長いスパンで行う面談でしか1対1で話す機会がない、というケースも少なくありません。これでは、上司は部下の考えていることが分からず、逆に部下の側からは、上司の考えを理解したり、アドバイスをもらう機会が少なく、信頼関係が構築できるとは言いづらいでしょう。上司が部下を観察し、こまめにフィードバックを行うことは、部下は「上司はきちんと見てくれている」という安心感を得ることにつながります。上司は部下に適切なフィードバックを行うために普段から観察する必要があるため、部下の仕事の進め方や努力も見えるようになります。こうしたフィードバックを通じた相互の関わりが増えることで、お互いの信頼関係が深まることは、言うまでもないでしょう。
組織全体のパフォーマンスが向上する
効果的なフィードバックは、個人の成長にとどまらず、組織全体の成果向上にもつながります。上司が部下一人ひとりの強みや課題を正しく把握し、的確に伝えることで、チーム全体の目標達成に向けた行動の質が高まります。また、フィードバック文化が根づくことで、社員同士が意見や学びを共有しやすくなり、組織に「成長志向」の風土が生まれます。結果として、離職率の低下や生産性の向上など、企業経営にもポジティブな影響をもたらすのです。
フィードバックの5つのプロセス
フィードバックは次のような5つのプロセスで進めていきます。まず前提条件としてのステップ(0)があり、それをベースにしてステップ(1)から(5)までのサイクルを回していくのです。
(ステップ0)事前準備・情報収集
フィードバックを行う前に、上司は部下のことをよく観察し、事前情報を収集しておくことが大切です。具体的には、「S(シチュエーション):どのような状況のときに」「B(ビヘイビア):相手(部下)のどんな振る舞い・行動が」「I(インパクト):どんな影響をもたらしたのか・何がダメだったのか」という「SBI情報」を集めます。
(ステップ1)信頼感の確保
部下との信頼関係をつくっていくため、日頃からコミュニケーションをとることを心掛け、こまめにフィードバックを行うことが重要です。また、面談ではミーティングルーム等を使って2人だけで話をします。面談であってもオンラインであっても、他の人に話し声が聞こえない場所を確保し、部下が話しやすい環境を整える必要があります。
(ステップ2)事実通知
まずは収集した情報をそのまま「鏡のように」伝えます。上司の主観を含めず、客観的かつ正確に事実を伝えるのです。その際、決めつけたようないい方は避け、「~のように見える」という話し方を心がけましょう。無理にほめる必要もなければ、無駄に非難する必要もありません。
(ステップ3)腹落とし対話
相手を説得しようとするのではなく、対話を通じて相互理解を図っていきます。その際、上司が話したことと、部下の受け止め方のどこに「ズレ」があるのかが把握することが大切です。ここでは部下から話を引き出すコーチングのスキルが必要になるでしょう。
(ステップ4)振り返り支援
ひと通り話し終えたあとで、部下がどれくらい理解し、納得しているかを振り返ります。例えば「今伝えたことをどんなふうに受け取ったか、ちょっと話してもらえますか?」といった質問をして、相手の言葉で語ってもらうところがポイントです。
(ステップ5)期待通知
最後に、上司から部下に対して期待を寄せていることをしっかりと言葉で伝えます。松下幸之助は部下を厳しく叱ったあと、「君ならやってくれると思っていたんだ。今でもそう思っているんだよ」という意味のことを伝えていたそうです。そのとき叱られた部下は、期待に応えたいという思いでたいへんな努力をしたというエピソードが残っています。
フィードバックの NG事例
フィードバックのありがちなNG事例をご紹介しましょう。
・「でも、よくやっていると思うよ、君も」
厳しい指摘をした直後に、気まずい雰囲気をごまかすために、なんとなく褒めてしまう。部下は、厳しい指摘を忘れて、褒められたことしか覚えていません。
・「君って〇〇的で、〇〇性が足りないね!」
上司の情報通知があいまいであるため、部下はどの行動に問題があり、今後どう変えていけばいいのかが分からなくなってしまいます。
フィードバックの会話例
ここで、フィードバックの「(ステップ2)事実通知」を具体的な事例で考えてみましょう。
Bさんは入社6年目の営業社員です。たいへん真面目な性格です。営業経験も長いのですが、最近、仕事と家庭での役割のバランスがうまく調整できていないようです。上司は、一人ひとりが裁量の大きな仕事をやりきれることが重要だと思い、細かく口を出すことを極力控えていたのですが、そうも言っていられない出来事が続き、下記についてフィードバックしようと思います。
●お客様に対するメールの書き方や連絡が「雑」になってしまい、お客様の信頼を失い、失注につながっています。
・8月2日 N社へは直前のメール連絡を忘れました
・9月6日 M社へのメールでは発注個数の桁を間違えました
・9月22日 L社の担当者から大クレームをうけ、失注につながりました
●仕事のプライオリティがつけられず、時間がなく、仕事が中途半端になっています。
●目の前にくる仕事に追われていて、仕事がドタバタになっています
このような状況を、Bさんにどのように伝えるといいでしょうか。例を見てみましょう。
●Situation(状況)
「あなたの、8月ごろからのお客様対応で」
●Behavior(行動)
「メールでの連絡忘れや、発注個数の桁を間違えがあり、先月はL社の担当者から大クレームを受けてしまっていたね」
●Impact(結果)
「その結果、お客様の信頼を失って、失注に繋がってしまったね」
●問いの投げかけ
「私には、仕事のプライオリティがつけられず、仕事が中途半端になっているように見えるんだけど、そのことについてはどう思う?」
上記のように、事実を客観的に「鏡のように」伝えます。そのうえで、質問を通して相手の意見を聞き、対話をしていくことがフィードバックのプロセスです。「鏡のように」とは、できるだけ主観や感情を排除し、起きている事実を起きている通りに伝えることです。「鏡のように」伝えるコツは、「~~のように見える」という話し方をすることです。このことを意識し、上司が事実だと思うことをしっかりと部下に伝えます。
フィードバックの導入事例
フィードバックを部下育成に取り入れると、どのような効果があるのでしょうか。フィードバックと「フィードバック研修」を実施し、成功している企業事例をご紹介します。
九州地区・地方銀行│指導・教育力向上による若手行員の離職防止
A銀行様では離職率の高さが課題になっていました。そこで、新人、若手行員と面談を実施したところ、「先輩や上司が仕事を教えてくれない」「評価してくれない」「叱ってくれない」「何を言われても腹落ちしない」など、新人や若手が先輩・上司に、もっと関心をもって接してくれることを望んでいることが判明しました。一方、先輩・上司も、どうすれば若手が仕事に前向きになれるのかという精神的な支援に悩んでいたことも判明。上下間のコミュニケーション問題を解決するために「フィードバック研修」を実施することになりました。
管理職~支店長に対して、フィードバック研修を1年間に3回実施したところ、指導する立場の意識が明らかに変化。若手行員から「支店長が声をかけてくれるようになった」、「面談をしてくれる」という声が聞かれるようになり、結果として離職者ゼロを実現しています。さらに、教育したことが業務にも反映されるようになり、お客様に対するサービスの向上にも繋がています。
東北地区・小売業│店舗コミュニケーションの活性化による離職防止
東北地区を中心にスーパーマーケットを展開するB社では、現場のコミュニケーション不足、OJTの機能不全による離職の高さが顕在化していました。コーチング会社による研修を開催するも、テクニックばかりが伝わってしまい、店舗スタッフとの関係改善が見られません。そこで、PHP研究所が管理職(店長・副店長・部門マネジャークラス)向けに「フィードバック研修」を実施。肯定的な人間観に立脚した指導者としてのあり方を学び、フィードバックのスキルを身につけていただきました。
結果として、店舗スタッフへの関わり方に前向きな変化があり、離職率も研修受講店舗で減少傾向が見られ、会社全体で取り組みの効果を実感。また店長~CS統括まで、管理職向けに同じ考え方で研修を実施したことで、店舗全体で人材育成を進める風土の変革につながっています。
まとめ
フィードバックは、部下の成長を促し、上司と部下の信頼を深める強力な部下育成手法です。大切なのは、フィードバックを一度きりで終わらせないことです。フィードバックで時間が不足してしまった場合には、その場で2回目の約束をとりつけるなどの工夫が必要です。「鉄は熱いうちに打て」という言葉がありますが、上司は観察によって得た情報をタイムリーにフィードバックすることで、部下の成長を促すことができるのです。継続的な人材育成の取り組みとして、ぜひ「フィードバック」を取り入れてみてください。
※本記事は2021年10月19日に開催されたPHPカンファレンス「1on1の失敗学」個別セッションでの講演内容から作成しました。

【講師】芦田純子(あしだ・じゅんこ)
商社で受付・顧客担当業務、広告代理店で秘書業務および社員教育を担当したのち、ブラジルへ遊学。帰国後、経営コンサルタント事務所に就職し、コンサルティング業務を経験。1999年に独立して「ジュンアソシエイツ」を立ち上げた。以後、マナー、モチベーション向上、アサーション、コーチングなど、コミュニケーションを主軸とした研修を企画し、講師として多くの経験を積む。PHPゼミナール講師。





































































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